「粗鋼生産量世界第二位、おめでとう」
思ったよりもすんなりと口からこぼれたセリフは宝山の表情を驚かせた。
「……怒らないんですね、老師」
「わざわざ怒るかよ、弟子は師匠を超えるものだろ」
八幡は不機嫌になるだろうが俺としてはそちらの気持ちの方が少しだけ大きかった。
微かに目を細めて「なら良かった」と呟いた。
宝山製鉄所、その日中共同の超巨大プロジェクトは常に政治と民衆に振り回されて複雑で困難で耐え忍ばなければいけないことがあまりにも多すぎた。
だからと言ってこいつ自身を恨んでも仕方がない、あの思い出しただけで頭痛を起こしそうになるような無茶苦茶は時代と政治のせいだ。
「もう、お前が二度と政治の道具にならないことを祈るよ」
政治というボードゲームの駒になってしまったこの弟子が、自らの足で飛ぶ日を待っている。
君津と宝山。