設営準備をこなしながらマスク越しに鼻歌を歌う。
きょうは俺たちの愛すべき男の100試合出場の記念日で、それを祝う商品を並べるのが妙に楽しくて仕方ない。
「なんで加山〇三?」
「そういう気分だからだよ、ぼんやりしてないで自分とこのチームテントの整備したら?」
「一通り終わって落ち着いちゃったからね」
グリーンロケッツが飄々と言い返すので「暇人め」なんて言ってみる。
「掃除でもしといてよ、俺たちのリーチの記念日なんだから」
「……ブレイブルーパスってホントにあの人の事好きなんだねえ」
「当然でしょ」
ずっと俺のところにいていい日も悪い日もそばにいてくれた。
桜のジャージをまとって先頭に立つあの姿に多くのラガーマンが心を震わせ、日本ラグビーを支えてくれた。
そんな特別な男の100キャップを俺が祝わずだれが祝うというんだか。
「チームマンの特別さぐらいわかってるでしょ」
「まあねえ」
「グリーンロケッツも記念Tシャツ買ってきなよ」
「一枚ぐらいなら良いけど財布と相談かなあ」
そんな風に苦笑いをしながらグリーンロケッツが言う。
まあ買わなくても別にいいけどね。色んな人に買って欲しいし。
腕時計を見てるとそろそろお客さんが来始める頃合いだと気づく。
「そろそろチームテントに戻れば?」
「ほんとだ、じゃあ今日はよろしくね」
そう言ってグリーンロケッツが手を振って自分のチームテントに戻る。
自分のテントの仕上がりを確認すると見本として展示していた記念シャツについた埃に気づく。
(どうかあなたがいつまでも俺たちのラグビーの一員でありますように)
そんな祈りを込めながら俺はシャツに印刷された顔を撫でるように埃を取った。
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ブレイブルーパスとグリーンロケッツ