年末年始の短編集です。
・12月23日のはなし
最後のホーンが鳴ったとき、ああやはり自分はここに残れないのだと分かった。
「シャトルズ、いい試合だった。ありがとう」
昇格決定の興奮冷めやらぬダイナボアーズがこちらにそう告げてくるので、皮肉も祝福も口に出すこともできずにただ頷くのみに留めた。
兄弟同然に育ったヴェルブリッツは年末年始の仕事の多忙に追われてか一週間近く過ぎた今でも応援も慰めも寄越して来ず、ただいつものように刈谷まで来て飯を食った。それだけが救いだった。
(……トップリーグの舞台に帰る事だけを考えよう)
そしてダイナボアーズにもう一度泣きべそかかせてやるのだ。
・12月24日のはなし
『お好み焼き食いに行かん?』というライナーズからの電話で、クリスマスイブの街に繰り出せばそこにはふわふわと浮かれたレッドハリケーンズがいた。
「ようやっとトップリーグの舞台帰ってこれた~~~~~~!!!!!」
ついにスティーラーズのおっちゃんを関西ぼっち脱出させられると騒ぎながら抱き着いてくるのでよしよしと宥めてやれば既に吐息がソースとアルコール臭くて笑ってしまう。
「レッドハリケーンズお前飲み過ぎなんと違う?」
「ええやろ、ちったぁ浮かれさせてやりぃや。昨日の今日やしなァ」
ライナーズはいつもの笑顔よりも少し寂しそうに笑う。
(まったく、自分は昇格逃したくせに俺とレットハリケーンズの祝福先にしよって……)
たかだか1つ2つしか変わらない癖にこういう時だけは年上面してくるライナーズに今日はビールのひとつでも奢ってやろうと思って、ビールを頼もうと手を伸ばした。
・12月27日の話
「サンゴリアス、冷蔵庫パンパンじゃない?」
「クリスマスの残りですよ」
大掃除の手伝いを頼まれて空けた冷蔵庫に詰まったごちそうはすべて手作りのクリスマスディナーだという。
この量を全部作ったのだと思うとつくづく料理の上手い後輩だと実感して感嘆の声が漏れる。
「つくづくお前は料理上手だねえ」
「お酒に美味しい料理は必須なんで、どうせ年越しまでに食いきれないんでなんか持ってきます?」
「じゃあ後でいくつか持ってくわ」
・12月31日のおはなし
仕事も無事に収まり練習もない大晦日の夜更け、ぼんやりと除夜の鐘をききながらひとり年越しを待っていた。
(来年はワールドカップかあ)
待ち望んでいた祝祭がついに日本に来て静岡でも試合が繰り広げられると思うとワクワクする反面、長年指揮していた監督の退任とトップリーグ日程の大幅にずれ込むのは頭の痛い悩みでもある。
だけれど、きっと明るい一年になると信じて突き進むしかないのだ。
「……来年も頑張ろう」
・1月1日のおはなし
「グリーンロケッツ、あけましておめでとー」「明けましておめでとうございます」
スピアーズとシャイニングアークスがふわりと笑いながらうちに来たので「二人ともあけおめ~」と返す。
一緒に初詣に行こうという話をしたのは一昨日の夜、そしてふたりは約束通り車で我孫子まで迎えに来てくれたのである。
「そういや初詣ってどこ行くか決めたの?」
「うん、圏央道で香取神宮行って銚子でお寿司食べよーって」
「常磐道北上して筑波山に行きたいってスピアーズは言うんですけど、山の幸より海の幸の気分だったんですよね」
「アークスの意見なんだ、このミラクルセブンも海の幸に賛成!」
年の初めも腐れ縁の友人たちと過ごせるのは悪くない。いや、むしろ最高かもしれない。
「じゃ、海の幸に向かってレッツゴー!」
・1月4日の話
上手く食事が喉を通らずに無理やり流し込むと、はあと小さくため息が漏れた。
明日に控えた残留をかけた入れ替え戦のことばかりがずっと脳裏をよぎる冬の夜、外はちらちらと小雪舞う年明けすぐの北東北の景色が広がっている。
この5年ほどはずっと残留と降格の不安がよぎる己の弱さにはいつも自責の念のみがあった。
そのせいか、入れ替え戦が近づくとひどく神経質になってしまう自分がいた。
(せめてこの街と人を悲しませないことだけを、考えよう)
大丈夫、外の小雪も朝には止む。きっとこの街に勝利を呼べるはずだ。