1600年(慶長5年)
「水戸」
「……なに」
「愛想が無いなお前は」
「悪かったね」
「そんなに嫌いか」
「個人的には」
もちろん、この場合嫌いなのは城主の佐竹一族に他ならない。
水戸はあまりあからさまに出すほど愚かではないとしても、太田にはごく普通にそれを出していた。
「そうか」
「で、わざわざここに来たってことは用事があるんでしょ」
「上杉討伐に呼び出された」
「へー……って上杉?あそこは仲良かったんじゃ」
「豊臣に背く気配あり、だそうだ」
これが後に大きな波乱を巻き起こすのはこのときは誰も知らない。
常陸国水戸日記上杉征伐は結局なんだかんだでうやむやに終わり、唯一ひどい目にあったのは下妻である。
「……どこに消えたんだか」
「なにが?」
「下妻の多賀谷が宇都宮にいる家康暗殺をもくろんで失敗した挙句、失踪したらしい」
「それ一番不憫なの城主に逃げられた下妻じゃない?」
ちなみに多賀谷氏は結城家の家臣ではあるが、現当主の養子が佐竹氏の出のため気にかけることはあるらしい。
***
そんなこんなで世界は疾風怒濤のように流れていた。
気づけは西が騒がしくなりだしていた。
「こんにちわ」
「あれ、下妻珍しいね」
「……暇なんですよ」
少しだけ口ごもるように視線をそらしながらも下妻の言葉に納得する。
城主に逃げられた後、何だかんだでやっていけるようだった。
「まあ平和が一番だよねぇ」
「そんな事言ってられないんですけどね」
「何かあったっけ?」
「関が原!家康と三成が戦おっ始めて改易と転封の準備始まってるんですけど?」
「あれ、いつの間にそんなことなってたの?」
水戸は本気です。
なにせ佐竹氏がここに来て以降、水戸はのんびりとしていた。
もともと政治云々には関心が無かったのでこんな調子なのである。
「……俺、水戸さんのそういうとこたまに凄く羨ましいです」
「下妻も引っ越すの?」
「家康公のご子息を迎え入れるらしくてなんか陣屋を新しく作るそうです」
「へー、新しいおうちか」
「まあその後どうなるか……」
下妻が苦笑いをこぼしつつ軽くため息をついた。