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コーギーとお昼寝

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太陽が昇る海5

11月はすべての神々が出雲の地に集う季節で、それは俺たちであっても同じだ。
10月も終わりとなれば、日本神話の最高神であるアマテラスノミコトと製鉄を司る神であるアメノマヒトツノカミ及びカナヤコカミとの邂逅のためちゃんとした衣装を整えて旅支度をすることになる。
すべての神が正服と呼ばれる冠に袍と袴を着用して(平安貴族をイメージしてもらうと分かりやすいだろうか)出雲大社に行くことになる。
八幡の横に一人の若い男の姿を見つけると、かちりと視線がかみ合った。
眼鏡越しに俺を見た青年は微かに唇を動かした。
そうして八幡も俺に気付いたのだろう、こちらを振り向くとすたすたとこちらに近寄ってきて「一人で来られたようですね」とほほ笑んだ。
「……きみが、君津なん?」
「そうばい」
「八幡弁なんやね、まあええけど。俺は八幡製鉄堺製鉄所な」
僅かに含みのある口ぶりで八幡が俺に手を差し出すので、一応の握手を返す。
堺がじっと俺の眼を覗き込むのでぷいっと視線を逸らした。
今思えばあれが始まりだったのだと分かる。
堺が俺を「よっかいち」と呼ぶたびに、俺はどうしようもなくいらだって「四日市じゃない」とむきになって返した。
四日市の存在の事は少しだけ聞いたことがある。
肉体を得ることのないまま消えていったという四日市と重ねられることはどうしようもなく嫌だった。
だというのに、堺はあの時はずっと俺を「よっかいち」と呼ぶのだ。


(俺は四日市じゃなかと、)

微かに歯ぎしりとともに八幡のもとを訪ねても、八幡はいつも不在だった。
「光、八幡はどこね?」
「いないの?」
「おらんかったから聞いとーと」
「ってことは、また釜石さんのお部屋行っちゃったのかな。ほんとあの人は……」
呆れたような溜息を吐いてから、光が思いついたように箱を取り出してくる。
「八幡さんが帰ってくるまでおやつ食べない?ちょうど土地神様からお菓子頂いたんだよ。蜜柑のお菓子」
「……食べる」
蜜柑のお菓子をは見ながら、俺は酷く苦しい気持ちになっていた。


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