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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

碧き海の旅の終わり

ガシャンと物の落ちる音で仕事中なのにうとうとしていた自分に気付いた。
「……すいません、呉さん」
職員の一人が申し訳なさそうにそう言いながら荷物を拾うので、一緒に拾ってやると携帯には新日鉄住金の社名変更が取りざたされていた。
「少し触っても?」
「あ、はい」
職員の携帯を触ってざっとニュース記事を確認すると、最後の方に『なお日新製鋼の完全子会社化とステンレス鋼板事業の統合も同時に発表された』という記述を見つける。
携帯を返してからふらりと席を立って自販機でアイスコーヒーの缶を一つ買う。
ふいにまだ南陽と呼ばれていた頃の可愛らしい姿の周南が言っていたことを思い出す。
『ステンレスは真っ青なブルーオーシャンなんだよ、とく姉が開拓して僕が突き進む海なんだ』
その碧い海を一緒に渡って行こうと決めていたが、その翼の羽根を他人に譲らざる得なくなってしまったのはほんの少し寂しい思いがした。
ブブブ、と携帯がバイブを鳴らす。相手は周南だった。
「……もしもし」
『あ、もしもしー?僕だよー』
「どうかしました?」
『呉と一緒に居られてよかったと思ってるから、気にしちゃダメだよ』
周南は最初から全部分かってるのだ。
最高のお嫁さんという言葉が頭の中に浮かんでくる。
「こちらこそ、楽しい60年間でしたよ」




呉と周南

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冷酒と涙を流し込む

やってられんから付き合え、と言うその手には紙袋一杯の酒瓶とお惣菜が詰まっていた。
「全部冷やで良いの?」
「きょう蒸し暑いし温めなくていいだろ、雪冷えがいいのなら冷蔵庫入れといてくれていいぞ」
割り箸を片手で割って冷やのワンカップとあじの南蛮漬けを食べ始める。
日が暮れ近くの薄暗くなりだした俺の部屋で早速酒を飲み始めるので持って来たものを確認する。
「日本酒はともかくチューハイとビールは冷たいほうが良いでしょ」
「チューハイ入れたっけ?」
「何本かある、チューハイ類は一応冷やしとくね」
手当たり買って来たのだろうさまざまな種類の酒が一緒くたに詰められており、冷やした方がよさそうなものだけを選んで冷蔵庫に詰める。
「俺もお酒貰うよ」
「仕事終わりで良いのか?」
「まだ少し余裕あるから」
日本酒の四合瓶を開けて漬物に箸を伸ばす。
こんな風になる理由は俺だって分かるし、その気持ちも概ね察せられたから口には出さない。
(……いつかは来る日だもんなあ)
新日鉄との合併のときからいつか社名から住友の字が消える日は来るだろうと薄々思っていたけれど、その日はずいぶんと早くに来てしまって一番悲しいのが此花なのだ。
俺だって住友への慕情は多少なりとも持ってるのだ。
早速ワンカップを飲み干した此花が小さな赤ワインのボトルに手を伸ばし、ローストビーフサラダを手前に寄せてまた飲み始める。
いくら酒に強いとはいえ随分とハイペースで飲んでいるのでこの酒もひょっとしたら全部飲み干してしまうのかもしれないし、最悪俺の買い置きの焼酎も飲んでしまうかもしれない。
「尼崎、」
「うん?」
「お前も私も、和歌山も鹿島も直江津も海南も小倉も、みんな住友の子だ。小倉は厳密には違うけど和歌山を育てたのはあいつだからうちの人間だ」
「うん」
「その誇りだけは、せめて住友金属の名を覚えてる奴がいるうちは、守れると思ってた」
俺は何も言い返さない。
飲んだくれてその悲しさも苦しさもその腹の奥で溶かしてしまうまで、付き合うつもりでいた。
「……ごめんな」
此花は顔を伏せたまま絞り出すようにそう言った。
「謝らなくていいよ」
「いや、謝らせてくれ」
「此花は一つも悪くないんだし、合併時の代表権は和歌山が持ってたじゃない」
「あー……そういやそうか」
「そうすることでしか俺たちが生きていけないのなら、そうやって生きていくよ。住金のみんなでなら地獄の果てに行ってもいい」
アルコールで緩んだ口から随分とクサい台詞が漏れた。でもそれは嘘じゃない。
俺はみんなで生きていけるのならどういう運命でも生きていけた。此花や和歌山がいて、鹿島や小倉や海南がいるのならどんな苛烈さにも耐えられる。
「そうか、」
「そうだよ、今夜はとことん飲もう。この地獄を生き抜くために」
「……だな」
此花の表情が僅かに緩んだ。
これだ、これが俺の一番好きな姉の顔だ。



此花と尼崎のはなし

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分かり合えない彼らの話

今朝はかつて父と呼んだ人の夢を見た。
いつかそうなるのだろうと分かりながらもその手を離された時の寂しさを再現するかのようなセピア色の夢だった。
「……戸畑、あなたずいぶん遅かったですね」
目を覚ますと八幡さんは壁に寄りかかってコーヒーなんか飲んでいた。
「なんでいるんですか」
ここは私の部屋だ、八幡さんがいるはずがない。
「少しばかり所用があったんですよ、これから東京に出るのでその間に任せたい仕事があるので」
「土曜の朝から出るのはついでにどこぞへ行かれるおつもりですか」
「ついでに名古屋と君津の様子でも見ておこうと思いましてね、これも私の仕事でしょう?」
この人はいつだってそうだ。美しいが勝手である。そして何よりも自分が偉いと思っている。まあ実際偉いのだが。それを私達は慣例のように許している。
「分かりました、だとしても勝手に人の家に入るのは大変いただけないと思うんですが」
「直接渡しておきたかったんですよ、火曜日の夜には帰りますから」
ファイルに詰め込まれた書類をばさりと置いておくと「それじゃあ、」と言って去って行く。
それが今朝の話である。
「勝手な話っちゃ」
その話を聞いた小倉さんは実に忌々しそうにそう呟いた。
「そげなことどげんして怒らん!」
「あの人の性格は昔からですからね」
「俺はあいつのああいうところがいっちゃん好かん」
今朝がた八幡さんに渡された書類を仕分けながら私の代わりに随分と率直に怒ってくれている。
怒りつつも仕事をこなしてくれるところは小倉という存在の大変好ましいところであった。
「……私らは、いつだって人の勝手に振り回されて生きんとならんでしょう?」
それは彼にも覚えがあるようだった。
きっとこうして人の体と心を得て生まれれば一度は味わうことであった。
「あん人はそれを知ゃあせん、それがうらやましいような憎たらしいような心地ばする。……小倉さんもあん人ばくらせん(殴れない)でしょう」
そう聞けばちらりと彼は視線をそらした。
それはきっと生まれ落ちた瞬間から国家と共に在ったからこそ全ての勝手が許されてきたし、これからもそうなのだろう。
耐えているというよりも諦めているという言葉が似合う。
「あん人が官営として生まれた限り、分かち合えんと思うんです」


*蛇足*
「……お前もう少し戸畑を大切にしてやれよ」
八幡の日々の様子を聞きながら漏れたのはそんな一言だった。
「それが戸畑の仕事なんですから当然でしょう」
「そうじゃなくてだな……」
「本部が戸畑にあるとしてもあの子は私の名の下に仕事をしてるんですから」
「本人が望んでるかどうかぐらい聞いてやれって話だ」


戸畑と八幡と小倉。

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サマードレス

「さく姉本当にこれくれるの?!」
「……周南が好きそうだと思って買ったものだから」
桜島―僕の一番上の姉に当たる人―が、大阪で買って来たというパステルブルーのサマードレスに歓声を上げるとほんのわずかに口角を下げて満足だとほほ笑んだ。
久し振りにこちらまで遊びに来てくれただけで十分なのに、その上お土産まで持ってきてくれるなんて本当にありがたい限りだ。
「今度デートするときに着よ「でも買ってあげた私へのお礼にはならない」
間髪を入れずに告げられた言葉の意図は、今ここで着て見せろということ。
このドレスを今ここ出来ることがお土産を買って来たお礼になるということだ。
「……着替えてくるね」
「ん」
洗面所に移って先ほどまで着ていたロングTシャツとジーンズを脱いで、サマードレスに着替える。
そろそろムダ毛も全部剃らなきゃなあなんて考えるけど今日はめんどくさいからいいや。
薄化粧を落として同系色の青を基調にしたメイクに変えれば準備完了だ。
(ついでに写真も呉に送っておこう)
自撮りを加工無しで送れば後で返事が来るはずだ。
「出来たよー」
リビングの戸を開けて見れば、姉の表情の満足度がさらに上がる。
「今日も可愛く出来たでしょ」
「120点満点」




桜島と周南習作。

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君津老師と焼き小籠包

「您好、君津老師」
すらりとした体つきの育ちの良いオリエンタルな面立ちをした中山服の青年の来訪に思わず目を丸くした。
「……宝山?なんでいきなり」
「仕事で少し東京に来る用事があったんですよ、お邪魔して構いませんか」
宝山製鉄所はその設立から現在に至るまで君津製鉄所が深く関わった施設であり、俺にとってはまだ弟子とも呼べる存在である(ウジミナスも弟子ということにはなってるけど一応向こうの方が年上なので色々複雑なのだ)
「俺は良いけどあんまり綺麗じゃないぞ?」
昨晩遊びに来ていた千葉と鹿島に荒らされた部屋は2人をこき使ってあらかた片づけはしたものの、まだ完全に綺麗になった訳じゃない。
「大丈夫です、突然来たのは僕の方ですから」
「なら良いけど……その手にある袋は?」
その手に一緒にぶら下がっていた冷蔵用の袋を指さすと「生煎饅頭(焼き小籠包)です」と返ってくる。
「生煎饅頭か、上海にいた頃何度か食ったなあ」
「最近は日本でも手に入ると聞きましたが生煎饅頭は上海のが一番ですよ、東京のは所詮ニセものです」
「日本で食える奴もあれはあれで美味いんだけどな」
「台所お借りしても?せっかくなので焼きたてをご用意しようと思って準備して持って来たんです」
「自由に使ってくれていいぞ」
宝山がさっそくフライパンを借りて小籠包を焼き始める。
出会った時はまだぶかぶかの宝山服を纏った小さな子どもの姿をしていたが、いまや中国屈指の鉄鋼企業として日本の製鉄業に立ちはだかる壁になってしまったことを喜びたいような嘆きたいような複雑な心持ちになる。
しかしこうして俺の前にいるときは昔とさして変わらないままで、ニコニコと小籠包を焼き龍井茶を淹れてくるので可愛いものだと思ってしまう。
「前にプレゼントした中国茶道具使ってくれてるんですねえ」
「たまーにだけどな」
「ちゃんと大切に使われてる色をしてるから分かりますよ」
上海で宝山の面倒を見ていた時に覚えた中国茶は時折千葉や鹿島に乞われて淹れる程度だが、手入れとして個人的に淹れることもあった(道具は使うことが最善の手入れだと言うのは釜石の弁だ)のが道具そのものに出ていたのか。
「あ、生煎饅頭もそろそろかな」
そう言ってさっそく皿に盛って茶と共に目の前に並べられる。
「……なんというか、完全に俺が客人扱いだな」
「敬愛する君津老師とお茶をしたかったので」
「そうか」
なら仕事の方で俺たちに優しくしてくれと言いたくもなったがたぶん無理だろう。
「让我们吃吧(いただきます)」
「请吃很多(どうぞたくさん食べてください)」
焼き小籠包をレンゲに乗せて割ると美味しそうな匂いと共に透明なスープがじわりと広がってきて、あの頃のしんどい思い出がよみがえる。
「あの時はお前の上司に振り回されてひどい目に遭ったな」
「そういう時代でしたからね。さあ、冷める前に食べましょう」




君津と宝山。

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