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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

山頂の孤独

「そういやなんでお前代表権の譲渡まだしてないの?」
レールにまつわる打ち合わせを終えて帰りの新幹線まで暇つぶしにと称して立ち寄った開店直後の角打ちで、ふいに此花がそんなことを聞いてきた。
「何でって……だいたい新日鉄という会社の顔を誰に譲るんですか」
「君津か戸畑あたりにもう譲って隠居してもいい頃合いだろ」
「隠居って、あなた未だ仕事してるでしょう」
「ものの例えだよ」
「そうですか」
「で、なんで譲らないんだよ」
此花はよほどこの話に興味があるらしく、にやりと笑いながらハイボールを飲んでいる。
もうここまでくると答えるのも面倒だ。帰りたい。
「……特に理由はありませんよ」
それは率直な言葉だった。
言われてみれば確かに今の八幡製鉄所八幡地区は製鉄所としての機能のほとんどを戸畑に集約したため製鉄所としての機能は薄れており、私もまた近年は上や国の使い走りの方が仕事として多かった。
ならば君津や戸畑あたりに顔役を譲ってもいいのだがそれを考えたことは一度もない。
「ないのかよ」
「しいて言うなら、私以外に新日鉄の顔役が出来ると思えないって思ってるからですかね」
「まあ、確かに官営様の跡継ぎの名前は一人で背負うにゃ重すぎるけどなあ」
「重すぎるって?」
「素直な感想」
いつか、私がその存在を保てずに消えた時誰がその名前を背負って舞台に立つのだろう。
「……私と釜石が消えた時、会社も消えるんですかね」
「まさか」



八幡と此花

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あの日彼女は希望だった話

「小倉さん、お客さんが喫煙所に来てますよ」
「……喫煙所?」
「小倉さんに会いに来たって言うんですけど、小倉さんなら戸畑の本部事務所にいるって言ったら煙草吸って待ってるから来たら伝えるようにとって言って喫煙所行っちゃったんです」
顔馴染みの職員の様子からして、大方あいつだろうと予想がつく。
やれやれという面持ちで溜息を一つ漏らして「喫煙所行ってくるけん、後は頼んだ」と注げて喫煙所に向かう。
灰皿とベンチだけの喫煙所で新聞片手に座り込んでいたのは予想通りの相手だった。
「よう、久しぶり」
「……やっぱ此花か」
「やっぱって何さ」
「喫煙所で俺を待つ奴なんてお前しか知らん」
「あー、和歌山はいまは吸わないし八幡は煙草呑みだけど人を待つときに煙草は飲まないもんなあ……消去法的にあたしか」
納得したように此花が頷く。
せっかくなので俺の方も一服しようかと煙草に火を灯した。
「……お前さ、八幡や戸畑と一緒にされた事まだ恨んでるか」
「今更な話っちゃ」
「そうだけどお前をうちに迎え入れるとき言った事裏切っちまったなあって」
「『お前に世界を取らせてやる』……か」
「世界どころか日本一も取れなかったしなあ」
住友金属が新日本製鉄と合併した時、住金は国内3番手だった。
他にもあの合併では色々あったので此花なりに思うところがあるのだろうという事は常々感じていた。
「……和歌山がシームレスパイプの技術力で世界に認められとる、それで一応世界を取るって話は果たしたと思っとった」
「お前さんがそう思ってくれてるなら良かった」
此花は本気で世界を取りたかったのか、と今更ながら思い知らされる。
『八幡製鉄もUSスチールも、全部なぎ倒して世界を取る』
そう大ぼらを吹いた此花の手を取ったのは俺自身の意志だった。
浅野の旦那も安田さんもいないが、此花が俺を必要とした。ならばこの女と生きてやろうと、心から思って手を取った。




(やっぱり、あの日この女の手を取った俺は何ひとつ間違いじゃなかったな)


此花と小倉

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関西女子とショコラな話

『今年のバレンタインチョコ、届いたかしら?』
「届いたから電話してるんだよ」
『あらそう』
小さな箱には手作りのチョコレートケーキが2切れとホットチョコレートスプーン(金属製のスプーンの先にチョコレートがついている奴だ)が1つ。
神戸からのバレンタインプレゼントである。
「にしても2切れって他の奴にも配ったのかい?」
『もちろんよ、6号サイズで3ホールも焼いたのよ』
「……にしても神戸が料理って全然イメージ無いよねえ」
『随分な言い草ね、一度あなたに教えたじゃない。トルタ・カプレーゼの焼き方』
神戸は今は仕事のほとんどを加古川に譲っており(代表権だけは移していないようだが)生活においても加古川の方が何かと神戸の世話を焼いている印象があるが、言われて思い出した。

それはまだ、西宮と葺合が阪神製造所と呼ばれて一緒に暮らしていた頃の話だ。
「葺合にバレンタインのチョコを贈りたいと思うんだけど」
神戸の家でのいつものお茶会の最中、西宮が少し前からはやり始めたイベント名をあげると、神戸が「いいわね」とほほ笑んだ。
「バレンタインねえ……別に無理に流行に乗らなくても良いんじゃない?」
「別にそう言うんじゃなくて私がやってみたいなあって思っただけで!」
どこか慌てたように早口で色々と口走るけれど、要は年度末で忙しい時期ではあるものの大好きな葺合と恋人らしいことが出来たらという新婚らしい願望であった。
「まあ西宮がやりたいならやればいいよ」
「此花、あなた西宮の夫みたいなこと言うわね……」
「素直な感想口走っただけだよ」
神戸がチョコレートタルトの作り方を教えると言い出してそのまま台所へと連れて行かれ、ついでに加古川も参戦してのお菓子教室が始まったのである。
「イタリアのカプリ島って知ってる?」
「名前くらいはいちおう知ってるけど……なんで?」
「その島のお菓子でトルタ・カプレーゼって言うのがあってね、それがすごく美味しくて簡単なのよ。少し前に三宮のイタリアンで食べたんだけれど、すごく美味しかったからお店の人にレシピを聞いて最近よく作ってるのよ」
確認の目線を加古川に向けるとこくりと深く頷いた。
少しげんなりしてるようなのでもしかしたら、神戸と一緒にずっと一緒に食べているのかもしれない。少しだけ加古川には同情した。
西宮の方はグルメな神戸がお気に入りという時点で興味が惹かれるらしく、さっそく適当なチラシの裏紙とペンを準備して作る気満々だ。
嬉々として作り方を説明する神戸とそれを興味津々で記録する西宮に、私と加古川は少しのため息を漏らした。
「……姉さん、一度ハマるとずっとそれを作り続けるんですよね」
「なんか分かる気がする」
「最近トルタ・カプレーゼが常備されてることが多くて正直しばらくチョコレートケーキは要らない気分なんですよね」
「まあ本人たちが楽しそうだと止められないしなあ」
「そうなんですよね」
きゃっきゃと言いながらアーモンドとチョコレートで作るトルタ・カプレーゼを焼き上げ、後日葺合がバレンタインとは何ぞやと私に聞いてきたんだったか。

そして、現在。
「……まさかこれトルタ・カプレーゼ?!」
『今年は普通のチョコレートケーキよ、加古川の希望でね』
「そうかい、まあいいや。神戸、happy St. Valentine's Day!」
『Same to you!(あなたもね!)』




神戸と此花と西宮のバレンタイン話。
関西女子トリオにはキャッキャして欲しさある

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明日晴れたら

「釜石おじいちゃんなにしてるの?」
片方の耳にイヤホンを挿したままパソコンを弄っていたおじいちゃん、もとい釜石さんに聞いてみると「ラグビーの結果を見てた」とかえって来る。
「へー」
「シーウェイブスの試合結果の確認と日本選手権決勝の実況をな。今はネットで実況が聞けるからテレビが見れなくても確認できて便利だよなあ」
画面は入れ替え戦の結果が表示されていたけれど、切り替えてみればネット中継の操作画面も出てきて器用なものだと感心してしまう。
「あー、確かに」
「聞くか?」
「俺ラグビーは専門外だからいいや」
「明日神戸とラグビー見にいく予定でなあ、お前さんが興味があるなら連れて行こうかと思ったんだがなあ」
「じゃあ俺と一緒にアントラーズ戦見にいってくれる?場所は東京じゃ遠いだろうから仙台で良いよ」
「サッカーはルールがさっぱりでなあ」
「まあそうだよねえ」
予想通りの回答に軽い溜息なんか漏らしつつ、暇つぶしがてら中継映像を一緒に眺めたりなんかする。
和装に大人の落ち着いた雰囲気を醸し出すこの人のことは大して詳しい訳じゃない。
君津に言わせてみれば『うち(新日鉄)のなかでもあの人は特別』なんだそうだけど、なんとなくわかる気がする。
最年長の風格って奴なんだろうなあ、これ。
此花の厳しくも面倒見のいい感じとか、八幡さんのあの怖そうな雰囲気とか、そう言うのとは全然違う一人だけ超然としてるような空気はこの人特有のものだと思った。
「おっ、」
画面の中で一人の選手がボールを掴んで独走していく。
そして彼はゴールラインを割り、高らかなトライコールと笛が響いた。
「これでいよいよ分からんくなって来たなあ」
嬉しそうに笑う釜石おじいちゃんに「そうだねえ」と俺はかえすばかりであった。





おじいちゃんのいない鹿島は釜石をおじいちゃんに見立ててたら面白いなあというアレ。

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冬の花火

遠くから冬の花火の音がする。
今日が最後の日となるスペースワールドの方角からだ、と気づいたとき私は呑んでいた日本酒のグラスを机において上着を羽織って外に出た。
大晦日の夜空に鮮やかな花が色鮮やかに咲き乱れ、最後の夜を彩っている。
「……さん、八幡さん」
ふとどこからか耳慣れない声がした。
顔は良く見えないが、声とぼんやり見える輪郭から幼い少年であることは分かった。
私と同じ英国風のスリーピーススーツの胸元には宇宙を模したピンバッジ。
「スペースワールド、」
彼と会うのは閉園が決まった時以来だろうか。
文字通り私の一部から生まれた少年の声には暗さが無く、フラットなように思えた。
「……この1年、ご無沙汰を致しましてすいません」
「あなたは仕事をしていたのですから気にする事ではありません」
「僕は今日でこの身体を喪いますが、どうか、僕のことがあなたと僕に関わって全てのひとの記憶の片隅に永遠に残りますように」
その言葉は数年前にもかけられた記憶のある言葉だった。
『俺を忘れんでください』
何かを失う事は仕方のない事で、それに抗う力はない。
しかし忘れないようにいることだけは出来る。
「……ええ」
失われるということには抗えないけれど、忘れずにいるぐらいならいくらでもできる。
花火の光の下から417光年という遠き旅に出る子どもを私は静かに見送った。





八幡とスぺワの話。

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