料理を作ることに理由なんて要らない。ただ食べたくなったのだ。
「どうぞ、白玉のおしるこです」
結城さんが持って来たお椀には卵大の淡い黄色の白玉が一つ。
おしるこの夜空に黄色い白玉が浮かぶお月見白玉(この可愛らしい名前は筑西くんがつけたそうだ)は十五夜らしい、結城さんのオリジナルのおやつだ。
「急にうちに来て『この間作ってくれた白玉のおしるこが食べたい』なんてびっくりしましたけどね」
「気分です」
「そうですか、まあ私は小山さんが自主的に来てくれただけで十分ですけどね」
この人は喜びのレベルが低い。
基本的に俺がいてくれればハッピーで、それ以上の幸せはないって顔をする。
それくらい好かれていることは決して不幸なことじゃないけれど、この人はこれでいいのかなんて思ったりもするのだ。
数百年来の隣人という関係を崩したくないのは、たぶん俺の方だ。
「どうです?」
「美味しいですよ?」
「それは良かった」
満月から弓張り月に変わった黄色い白玉がぼんやりとお椀の上に浮いていた。
久しぶり(と言うか七夕以来)に結城小山。隣人以上恋人未満な話。