家に帰ると花瓶にはコスモスの花が活けてあった。
「金津ー、これなあにー?」
「それ昼間三国さんがそれ活けて行ったんですよ」
「ふうん……」
一輪挿しに活けられたチョコレートコスモス。
普通の赤やピンクではないそれは和モダンに整えられた食卓に調和し、一枚の絵になっていた。
ポケットから携帯を取り出して写真を撮って壁紙にする。
(どんな顔で、選んだんかな?)
三国は童顔気味ではあるがどちらかと言えば精悍な男前で、こういう事にはとんと疎い人だ。
そんな人が花屋でどんな顔してコスモスを選んだのかを想像するだけで笑えてくる。
……やっぱり、坂井にはもったいないなあ。と呟いた。
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「マル、三国は?」
「競艇場に行きましたよーっと。はい、オムレツできたから並べて!」
丸岡が手際よくオムレツを焼くのでしぶしぶ食卓に夕食を並べていく。
風呂掃除を終えた春江がオムレツに目を輝かせながら箸やお茶を準備し、丸岡が料理道具を洗い始める。
「ただいまー!」
「お帰りなさい、また競艇ですか?」
「久しぶりに勝ってきたから春江にお土産」
ほんのりと酒臭い三国がビニール袋を春江に渡し、手提げ袋に詰めておいたワンカップと柿の種を取り出してくる。
三国がこうして競艇に行くことは珍しい事じゃない。三国競艇は地域経済を潤す重要な施設だし、町としての役割から解放される前から視察と言う名目で時折競艇で遊んでいたのは全員が知っていることだ。
「ミニブーケ?」
「おう、春江に似合うと思ってな。リビングにでも飾ってくれ」
「ありがとうございます」
そうして春江がパタパタとリビングを出て行く。たぶん部屋に飾るのだろう。
ふと足元に落ちたレシートを拾うとミニブーケと共に、チョコレートコスモスを一輪買っていることに気付く。
「……チョコレートコスモスは、あわらに?」
「おう、勝って気分がいいからあわらに贈りもんしようと思ってな」
「あわらと春江にはあって、俺とマルにはないんだな」
「コスモスは死にゆく夫からの妻への捧げもんだよ、ミニブーケはみんなにだ」
ああクソ、妬ましい。
素直に湧いてきた気持ちを俺はただレシートを握りつぶすことでしか表現できなかった。
チョコレートコスモスの花言葉:移り変わらぬ気持ち
三国あわらと、現坂井市組の話。
9月14日はホワイトデーからちょうど半年なので、コスモスの花をプレゼントしてお互いの愛情を確認し合う「コスモスの日」だそうです。