前回からの続き。
小山にとって悪い思い出の日である七夕。
暇をもてあましどうしようと考えあぐねた結果、結城と流しそうめんをすることになりました。
「・・・・・・・随分、多くないですか」
「3人で流しそうめんというのも、つまらないですからねぇ」
結城の家の日本庭園に、やたらと人が集まっていた。
七夕ですね。「ねぇ、結城にぃそうめんまだぁ~?」
「今茹でてますから大丈夫ですよ。」
結城さんと僕と水戸線さんの3人でゆっくりするものだと思ってのになぁ、と僕はため息をつく。
「結城、ひとつ茹で上がったから流す準備してくれる?」
「あ、わかりました!」
やけにバタバタしてる結城さん。
(・・・・・・なんで僕ここにいるんだろう)
「小山、Добрый вечер(こんばんわ)」
「お久しぶりです、古河さん。」
さっきまでそうめんを茹でていた古河さんが僕の向かいに座る。
「今日は随分とバタバタしてるよねえ」
「ええ、静かにまったりするものだと思っていたんですけどね・・・・・・」
「そうだよね、でも結城の気合の入れようも凄いんだよ。」
「え?」
「だって、毎年竹は同じ奴を使ってたのにわざわざ自宅の庭の竹を久しぶりに切り出してるみたいだから・・・・・・・・・。ほら、器からもいい竹のにおいがするでしょ?」
目の前に置かれた竹製の箸とそうめんつゆの器の匂いをかいで見る。
「ほんとだ・・・・・」
「きっと小山のせいだよ、小山が絡むといっつも本気になる。今も昔もね。」
そうやって苦笑する相手を傍目に、少しだけ嬉しくなる。
自分の為に相手が色々気を使ってくれたということに。
「こがー、短冊だってよ。」
「どうも。」
全員に配られる短冊に、僕は鉛筆書きでひとつのお祈りを書く。
今年も、市民が幸せに暮らせますように。
そしてもうひとつ。
僕ももう少し素直になれますように。
(まあ、気恥ずかしいけどいいよね。うん。)
* *
短冊を竹にくくりつけると、「もうそろそろ準備してくださいねー」という声が聞こえた。
7月の風が涼しい。
そして僕はやけに楽しい七夕の夜を過ごした。
「小山さん、いい夜を。」
僕に手土産のタッパー(明日のおかず入り)を手渡して、そういう。
少しだけ嬉しかった。
「・・・・・・はい」
おわり