忍者ブログ

コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

夏の始まり

「暑い……」
一歩外に出ると強い日差しが降り注ぐ。
地元はようやく桜が終わったというのに、北九州はもう夏へ足を踏み入れつつある。
「水分取りや」
キューデンヴォルテクスは飲み物のボトルを渡してきて、それを容赦なくぐびぐびと飲むと冷えたスポーツドリンクが体にじんわりとしみわたる。
「急に暑くなるときついよなあ」
「本当にな。それにトップリーグんときはこの時期にはもうシーズン終ってたから慣れないんだよな」
「あー、それはわかる」
ゴールデンウィークにも試合をやる事で試合を見に行きやすくして動員を増やすのがリーグの目的だろうが、こうも暑い日にラグビーをやる事にいまいち慣れないのだ。
(むしろ震えるほどに寒い日のほうがラグビーやる側は楽な気がするんだがなあ?)
こういう寒くない季節のほうが見に行くのが楽なのは承知の上でやる側の事を考えてしまうのはどうしようもない。
「今シーズンはどうやった?」
「まだシーズンを振り返るには早いだろ」
「だって試合終ったらお互いそれどころやないやん」
現在、順位的にはうちもこいつも降格がけっぷちでありここで勝たないと入れ替え戦に回ることになる。
降格せずに生き残りたいのはお互い様であるし、入れ替え戦確定となると振り返る余裕が無いのも事実だ。
「……入れ替え戦に行きたくない理由でも?」
「ルリーロと試合するんならD2がええわ」
可愛がっていた後輩の忘れ形見のような存在の名前を挙げてそう呟く。
「俺だって降格したら地元のファンに合わせる顔がない」
「そりゃそうか」
「おう」
シーズン終了に向けて、少しでもいい成績を残さないといけないのはお互いさま。
だからこそお互い負けてなどいられないのだ。
「今日もいい試合にしような」
「お土産は勝ち点だとなお嬉しいんだがな」




------
シーウェイブスさんと宮殿先輩。今日の入れ替え戦がこわい……

拍手

PR

北のまちの春

新千歳空港から一歩外に出るとちょっと肌寒い春の空気が漂っている。
……いやここ数日の関東が暑かっただけかな?
札幌ドーム行きのバス停をうろうろと探していると「スピアーズやん」と声がかかる。
「あ、スティーラーズだ。同じタイミングで来てたんだねえ」
「土曜日入りでも良かったんやけど、姐さんからお使い頼まれとってな。ドーム方面行くんか?」
「うん。にしてもお使いかあ、俺もお願いしていい?」
「自分でやりや」
「俺土曜日もドーム行かなくちゃいけないから」
「手間賃取ってもええんなら引き受けたるわ。とりあえずドーム行きのバス停行こ」
スティーラーズはドーム行きのバス停へ歩き出す。
目的のバス停はずいぶんと空いていて、あと5分ぐらいでバスが来るらしい。
「にしても、土曜日もドーム行くってなんかあるんか?」
「土曜日にコンサドーレさんの試合あるんだけど、そこで日曜日の試合の宣伝するんだよ。朝からそれ用の打ち合わせあるから金曜日入りになっちゃってさ」
俺だけでなく一緒に来たスタッフさんたちも仕事終わりに直接飛行機で札幌入りだからちょっとお疲れ気味だ。
「はー、大変やな。手間賃500円でええわ」
「どっちにせよ手間賃取るの?」
「俺明日札幌じゅう回って姐さんのリクエストの品買うていかんとならんもん、追加で買うんやったらお代と別で手間賃貰わな割に合わんわ」
「どんだけ頼まれてるの……」
思わずスティーラーズの言う姐さんの姿を思い出し、彼女の無茶ぶりを想像して苦い顔になる。
うちの親はお土産とか期待する人じゃないから想像するしかないけど大変そうだ。
「リスト作ったらA4のコピー用紙がみっちり埋まるぐらいかな」
「うん、じゃあいいや。自分で買うよ」
遠くから目的のバスが来た。
トランクを引きずりながらバスに乗り込むと新千歳から札幌の街へと走り出す。
札幌はまだ桜が咲き始めたばかりのようでまだ春浅い北の町へ来たな、と思わせてくれる。
「神戸はもう葉桜やのになあ」
「うちの方ももう終わっちゃう感じだね」
ラグビーボールに呼ばれるように来た札幌で、俺たちはどんな試合をするのだろう。
「ねえ、もし時間に余裕があったら桜見に行こうよ」
「それもええかもなあ」



------
スピアーズとスティーラーズ。

拍手

あの子と芝の青

曇天のミクニワールドスタジアムにどこかかしましい雰囲気を感じるのは気のせいだろう。
(普通に大会の緊迫感もあるしな)
ナナイロプリズムがいるはずの場所をうろうろと捜し歩いていると「どうかされました?」と声がかかる。
濃いピンクと紫のロングヘアに三日月の浮かんだ瞳はおそらく≪こっち側≫の存在だろうと分からせる。
「きみは?」
「今年から参戦しました武蔵横河アルテミスターズと申します、あなた様は?」
「自分は九州電力キューデンヴォルテクス言います、ナナイロプリズム福岡に会いに来たんやけど……」
「でしたらもっと奥の方にいらっしゃいますわ」
指さす方には確かに見覚えのある選手やスタッフがおり、多分あの辺にいるのだろうと察せられた。
アルテミスターズに軽く会釈をして別れるとみんなの渦の真ん中に可愛い妹分がいる。
「あ!」
「おつかれさん。差し入れにスポドリ持ってきたからみんなでどうぞ」
大きいボトルのスポドリをスタッフさんに渡すと、ナナイロプリズムがその名の通りナナイロに輝く瞳をきらめかせて「あのね!」と前半の試合の事を語り始める。
その瞳の輝くさまを見ているとこの輝きを守れたらと心から思う。
ブルースやレッドスパークスのようにその瞳を一時でも曇らせることなく、ラグビーへの愛と希望に満ちた時間を一瞬でも長く味わっていてほしい。
前半の試合に負けてしまったらしいナナイロプリズムはちょっと落ち込んでいるようだったが「でもこの後の試合は頑張る!」と元気に宣言する。
その様子を選手やスタッフも微笑ましく見守っていて空気はちょっと穏やかだ。
「ナナイロ、この後の試合も楽しんどき」
「うん!」




-------
キューデン先輩とナナプリちゃん。
そしてしれっと初登場アルテミちゃん

拍手

君も同じ空の下

目前の階段をバイクで駆け上がる迫力に観客が目を丸くしているのを、レヴズはにやにやと見つめていた。
「成功しましたね」
「よかったな」
レヴズの嬉しそうな声は観客の喜びを感じてるのだろう。
それを尻目に今日から女子セブンスの大会で北九州に行っているパールズの試合の様子をざっと確認していると「空返事ですね」とぼやかれる。
「ちょっと気になって」
「まあ気持ちは分かりますけどね?空返事はやめてくださいよ」
レヴズにとってのアザレアと俺にとってのパールズってだいぶ位置付け違うんだけどな、まあいいか。
「悪かったって。バイクパフォーマンス演出の受けが良くて嬉しいって話だろ?」
「分かってくれるならいいです」
「……レヴズだって、ジュビロさんやアザレアと試合被ったら様子気になるだろ?」
「そりゃ気にはなりますよ。 でも

うちの兄さんもアザレアも最高で最強だと信じてるので、僕の試合の後に本人から直接勝ったって聞く方が良いじゃないですか」

さらりとまっすぐな情愛がレヴズの口から飛び出してくる。
俺だってパールズの強さを信用してないわけじゃないけれど、どうしても心配や気がかりが湧いてくる。
(これが愛と恋の違いなんかな?)
遠く北九州の空でパールズを想う気持ちを考える。
「それに、彼女さんも自分のこと気にされて試合に負けるぐらいなら自分の事なんて微塵も考えずに試合に勝ってくれた方が良いと思いますけどね」
そう言いながらレヴズが指さすのは俺が前半無得点であることを表示した電光掲示板だ。
前半無得点の俺への挑発めいた言葉にちょっとムッとしてスマホの電源を落とす。
「後半逆転してパールズへのお土産にしてやるからな!」
レヴズは俺の言葉に満足したようににっこりと笑った。



------
ヒートさんとレヴズさん。
きょうから北九州では太陽生命ウィメンズセブンスが始まります。

拍手

盛岡の散歩道

待ち合わせの盛岡駅待合室に着くと、レッドハリケーンズが展示物に目を輝かせていた。
「お、シーウェイブスお迎えありがとな!」
「気にせんでええぞ。元々前日入りの予定だったから同行者がつくぐらい大した手間でもないし」
「にしても駅にこんな掲示してあるのええよなあ」
少し前から掲示させて貰っているうちの展示物を横目にそう呟く。
レッドハリケーンズは大阪という土地柄、競合するスポーツチームも多いし宣伝するにも色々苦労もあるのだろう。
「お前さんもまだやれる事はあると思うがなあ」
「ほんならええんやけど」
「県立博物館のラグビー展先でいいか?」
このラグビー展のために前日に盛岡に入る予定だったのを、レッドハリケーンズが『観光案内して!』と言うので当初の予定より出発時間を早めて盛岡駅まで迎えにきたのである。
「俺小腹空いとるから先メシがええんやけど」
「博物館が盛岡の中心部からだいぶ離れとるから博物館先の方が都合が良くてな、腹減ってるなら福田パン寄るか」

****

県立博物館は盛岡市郊外のダム湖のほとり、岩手山に見守られながら立っている。
「ホンマにラグビーの展示やってんねんなあ」
もりもりとパンを食いながらそう呟いたレッドハリケーンズに「これが見たかったんでな」と言い返す。
「てかコレ、ゴールデンウィーク明けまでしとるやん」
「この展示にうちも協力してるんでな。興味無いなら近くの公園でパン喰いながら待つか?」
「せっかく来たし見てくわ」
SNS用の写真を撮りながらてくてくと博物館の中を回っていく。
ガラスケースの中に飾られた在りし日の想い出や支えてきた数え切れないほどの存在が俺たちに目配せをして来る。
(……この積み重ねの上に生きてるんだな)
この在りし日の想い出に触れた人々が今の自分やラグビーにも目を向けてくれれば、きっとそれだけでラグビー界は明るくなるだろう。
一通りの展示を見終えて大きく深呼吸をして、北上川と岩手山をそっと写真に収める。
「次わんこ蕎麦行こ!」
「まだ食うんか……」
岩手山から吹く風はほんの少し甘い気がした。


______

シーウェイブスとレッドハリケーンズ。今日は盛岡ゲームなので。

拍手

バーコード

カウンター

忍者アナライズ