大阪の街は焼野原であった。
ありとあらゆる建物が瓦礫となり老若男女が行き交って暮らしている。
唯一の救いはもうあの耳をつんざくようなサイレンを聞かないで良いことぐらいで、焼野原の何もない街はどん底以外の何物でもない。
まだ小さな和歌山は手を掴んだまま、尼崎は一言も口を開かないまま大阪の街を歩いていた。
「……尼崎、」
「なに?」
「仕事が増えるよ」
「何さ急に」
「この焼野原に新しい街を作るんだ。ゼロから道を、ビルを、鉄道を、新たに作り直す。そのために必要な鉄を生む、それが私たちの存在意義だ」
「……そんなの分かってる」
尼崎の目は何かを堪えるようであった。
それは当然のことであった。
住友家にもう私たちを守る力が無い事も、生き延びるために多くの仲間が去り行く運命であることも、そして自分たちの作ったモノの哀しい末路も、見ないふりなんてしていられなかった。
「俺はこんな未来のために生まれたわけじゃない」
それは本音であった。
全てはまやかしで、その砂上の楼閣はあの雑音まみれのラジオによってただの砂になったのだ。
「ああ、それは私もだよ」
砂上の楼閣はついえた。
「あまがさき、」
和歌山がふいに声をあげた。
「あそこ、おはながさいてる」
指をさした先には一輪だけ花が咲いていた。
旧住金組の話。終戦記念日にちなんで。