久しぶりの大阪の街には満開の桜が待ち受けていた。
「小倉さん」
「ひさしぶりたいね、和歌山」
時々、息抜きにこうして大阪まで行くことがある。
今や小倉から新大阪まで新幹線で2時間もあれば行く事が出来る、毎日あの偉そうな元官営の顔を見ないとならないのだからこれくらいは許容範囲だ。
自ら高炉技術を教えた和歌山は自分が大阪に行くというとこうして迎えに来る。
ついでに飯も奢ってくれるので大阪に行く和歌山に一声かけるのは食費を浮かすためなのだが本人のプライドのために黙っておく。
「飯食っとーとか」
「ううん、まだ食べてないよ。うどんでいい?」
「よか」
大阪の街をふらふらと渡り歩きながら、和歌山も随分とでかくなったものだと思う。
住友に連れてこられてすぐに半ば押し付けられるように育てた弟子もこんだけでかくなれば立派なもんだ。
『私らが求めてるのは高炉技術なんだ』
最初に出会ったとき、じっと此花はこちらを見据えて言った。
『お前が住友に馴染む気が無かろうがそれはお前の勝手だ、仕事さえ確実にこなしてくれれば何をしてもいい』
「……今思うと、よく此花もお前を俺に預ける覚悟しとったな」
「何の話?」
「昔の話」
「信頼されてたんでしょ、きっと」
そうなのだろうか、と考える。
(まあ、これも信頼なのだろうなあ)
うどん屋に入る和歌山を追いかけながらそんなことを考えていた。
小倉さんと和歌山さん習作。