釜石はけっこう地味好みである。
きょうの着物は青灰の着物に黒の角帯に雪駄で、俺からするといささか落ち着きすぎているぐらいの組み合わせだ。
「……前から思ってたんだけどさぁ、」
「うん?」
「もう少し華やかなの着てもいいんじゃない?」
ジンギスカンを食いながら釜石に尋ねると、年相応のもん着てるだけだと返される。
八幡なんかは同じ気持ちらしくちょくちょく着物や反物をプレゼントしては好みじゃないのを貰ってもなあと釜石を困らせている。
まあ八幡は釜石に似合う自分好みの着物を選んでるようなのだが、それが釜石からすると好みじゃない・若作りと言う風に映るらしく結局人に譲ったりしているようだった。
「ちったぁあいつもわしの好みを考慮してくれればなあ……これを贈ってくれた時は良かったんじゃが」
「今着てる奴?」
「おう、うちが津波でダメんなったときに夏物を贈ってくれてな。光が一緒に選んだとかでわしの好みも考慮されてた」
「あー……光はセンスいいよね。大分は無頓着なのに」
大分の妹分である光はセンスが良くていつもプレゼントやお中元にびっくりするほど好みに合った素敵なグラスやお酒なんか贈ってくれる。
よく見ると釜石の着物は無地だと思ったら白く細い線が入っていることに気付き、なるほどこれが好みなのかと納得する。粋というかなんというか。
「自分の趣味にさえ走らなきゃセンスがいいんじゃがな」
釜石のぼやきに軽い苦笑いが漏れた。