忍者ブログ

コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

散りゆく桜になるとして

最後の荷物を段ボールに詰めながら僕はひどく寂しい気持ちになる。
2020年3月31日、きょうは日鉄日新製鋼の最後の日だ。
コロナだ五輪だと騒がしい世間をよそにこのところ僕の頭の中を占めていたのはそのことばっかりだった。
「周南、そろそろ寝ませんか」
「呉……」
どこか案じるように僕を見る紫の眼差しを見ると、苦しくなる。
この碧い海を探す冒険が終わることを。みんなで未来を切り開いてきた日々が終わってしまう。
泣き崩れそうなほどに、それが苦しかった。
「呉、」
「はい」


「……愛してる」

僕の口から洩れたのはただその一言。
吐き出すような愛の言葉を彼は静かに受け止めて、「俺もですよ」と呟いた。


周南と呉。

拍手

PR

画面越しに笑いあう

昨今話題の新型ウィルスの影響で事務職員のほとんどが在宅勤務に切り替えられ、しわ寄せを食らいまくってる今日この頃。
「そういや今度うちに5G導入するって」
「ああ、そう言えば言ってたわね」
「でも導入するの千葉兄ぃのとこだけじゃん、うち(西日本製鉄所)にも入れてよー」
「それは経営陣に言って」
日常的な話題はネット通話、チャットや社内クラウドで仕事の進捗を把握。家から出なくても仕事が出来るなんてまったく便利な時代になったものだとつくづく思う。
「だからさー、来月辺り携帯買い替えようかなあって思うんだけど」
「千葉、あなた携帯この間買い替えなかった?」
「今使ってるスマホ、5G4K非対応だから対応してる奴欲しいなあって」
西宮や水島とネット通話で雑談しつつ仕事出来るのは、職員から目を通してほしいと言われた書類に目を通したり書類をスキャンしてクラウドに移したりと言った単純作業がメインだからというのもある。
「今もう色んな作業がネットやパソコンで出来るから便利になったよねえ」
「ほんとよねえ、仕事があるって伝えるために煙突から黒煙燃やしてた時代からだいぶ進化したわよね」
「西宮、それいつの話?」
「戦後すぐぐらいだからー……もう半世紀ぐらい前ね」
「半世紀どころじゃないじゃん!」
「水島、ちょっと黙って」
「福山今日厳しくない?」
突然福山の声が飛び込んでくる、同居してるから同じ部屋で作業してるのかもしれない。
「今ちょっと切羽詰まってるから……」
「あ、そっか。ヘッドホン使う?」
「うん」
福山がヘッドホンを使う事で決着がついたらしく、「ちょっと離脱ー」と言っていなくなる。
その隙に福山が「すいません大声出して……」と詫びてくる。
「いいのよ、むしろこっちでうるさくしてごめんなさいね」
「水島はうるさいぐらいでちょうどいいんですよ、むしろ静かなときの方が怖いです」
「そう?あんまりやかましいようだったら私のほうでお説教喰らわせてもいいのよ?」
「いいんですよ、元気な水島が私は好きなので」
「……何それ惚気?」
「さあ?」
「ただいまー」と水島が戻ってきた。
「福山のヘッドホン取ってきたよ」
「ありがとう」
そう言って福山の声がなくなると、西宮が「水島、」と急に切り出した。

「あなた、福山ちゃんの事大事にしなさいよ……」

「大事にしてるよ」
けろりとしたトーンで言い返すので、既婚者(同性だけど)強いなあなんて思うのであった。


仲良しJFE組

拍手

存在しない世界の語り

「国境のエミーリャ」を読んでたら思いついたお話です。
タイトル通りif世界の日本についての話なので苦手な方はお気を付けください。


拍手

永遠の嘘をついてくれ

寂しい時は甘いものを食べるといい、甘さは心を落ち着けるから。
そう言ったのは姉だった。いまはもうここにいない、たったひとりの姉。
「こんばんわ、呉」
こんな遅くにごめんねと告げると呉は「いいんですよ」と言ってくれた。
閉店ギリギリにケーキ屋さんに飛び込んで購入したパイをどんと机の上に置く。
「これ、好きでしょ?エーデルワイスのクリームパイ」
「……クリームパイよりレモンパイの方が好きなんですけどね」
「そうだっけ」
そうとぼけてみるけれど本当は甘いものの方がいいから避けただけだ。
コーヒーでも淹れるよと告げると大丈夫と呉が言う。
お店の人がつけてくれた大きなプラフォークをケーキに突き刺して一口に切って、そのまま静かに咀嚼する。
「おいしい」
「うん」
黙々とケーキを食べる呉をただ静かに見守りながら、何もかもが嘘であればいいのにと思う。
もうこの世界にいない姉のことも、この世界を去る呉のことも、何もかも嘘であってほしかった。
「周南も、少しどうです?」
「……ううん。呉が帰ってきてくれると約束して」
その約束も八幡や偉い人たちの意思で翻意にされることはわかっている。
ただ、その気持ちだけでも欲しかった。愛する人を一人にしないという呉の想いが聞きたかったのだ。
「最後には絶対に帰ります、あなたの横に」
そう告げる声は少しだけ震えていた。




周南と呉。

拍手

俺にも彼女が出来たなら

「最近さあ、ちょっとよく遊んでる子がいるんだよ」
ビールを飲みながら尼崎がそんなことを言う。
居酒屋やバーで酒を飲みながら可愛い女の子を眺めるのが尼崎の趣味なことは知ってるが、仲良くしてるしてる人がいるのははじめて聞いた。
「んでさぁ、その子がめちゃくちゃかわいーの。んで最近なんかいい雰囲気だしこのままお付き合いとかしたいなーって思うんだけどどう思う?」
「……人間相手はお勧めしないぞ」
空の缶をゴミ箱に投げ込むとスコンとゴミ箱に入って行った。よし、まだ酔ってないな。
「人は私らよりも早く老いてくし、簡単に死ぬぞ」
「簡単に死ぬのは俺らも同じでしょ」
尼崎が不満げにそんなことを言う。
財閥解体で兄弟たちが去って行った時も、葺合がいなくなった時も、こいつは知ってるからそう思うんだろう。
だけど人間の命の儚さはそれとは違う部類のモノじゃないだろうか。
私達の儚さが人間に捨てられた犬の儚さであるならば、彼らの儚さは季節が終われば死んでいく虫たちの儚さだ。
「それともあの押し入れの本箱に仕舞ってある写真の人との関係に基づく実体験?」
思わず身体の動きが止まる。
「おま、開けたのか、あれ」
「だって此花って本全部押し入れに仕舞ってるから本借りようと思うと押し入れ漁るしかないじゃん。んで一つっきりの本箱、そりゃ開けるでしょ」
開けるでしょ、じゃねえぞ。
阪神淡路の後本棚は倒れるからと思って押し入れ改造して本収納してたのが仇になりやがった。クソ。
「で、あのお兄さんとの悲恋体験で俺のこと止めるの?」
「止める理由はノーコメント。でもほんと人間と付き合うのはやめとけよ。どうせ老いてかれるのはこっちなんだからな」
「んー、考えとく。でもたぶん会ったら全部吹きとんじゃうかも♡」
尼崎が何も考えてない顔でケロリと言い放つので、思い切り頭をチョップした。




此花と尼崎。
二人の恋愛についてはそのうち書きます(設定はあるんだ設定は)

拍手

バーコード

カウンター

忍者アナライズ