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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

いい湯と海と気まぐれドライブ

温泉行こう、と何の脈絡もなく大分が言うのを反射的に頷くとそのまま車に乗せられて北へと走り出す。
大分の市街地を抜けて国道10号線に入ればサルで有名な高崎山が見えてきた。
「そういやお前さん高崎山登ったことあったっけ?」
「……ない」
「じゃあ後で昇ってくか?」
「うん」
やがて潮風と硫黄の混ざり合う風が車内に流れ込んでくれば、そこはもう日本一の湯どころ・別府温泉だ。
坂に温泉宿が張り付き、あちこちから湯煙の立ち上る風情は日本一の湯どころにふさわしい。
「どこの温泉行くとか決めてるのか?」
「ううん」
「じゃあ砂湯入ったことは?」
「ない」
「よし、じゃあ砂湯行くか。このまま真っすぐ行けば見えるはずなんだが……」
国道をしばらく走っていくと砂湯のあった場所はショッピングモールになっていて、あれ?と思わず首をかしげた。
「……そういや別府来んのも久しぶりだったな」
この数年は大分という新しい弟分を猫かわいがりしすぎていたのもあるが、変に近いといつでも行けると思ってつい行かなくなってしまう。なんせ大分市と別府市は隣だし。
「砂湯、この近くに移転したんだって」
「そうだったのか、でもまあ別府は砂湯だけじゃないしな。他の湯どころ行くぞ!」
俺が運転変わるぞと大分に告げると、大分はうんと頷いて鍵を渡してきた。

****

久しぶりに来た日帰り温泉は運よく人のいない時刻で、貸し切りとなっていた。
ざぶんと肩までつかればいい気分になれるのは人間も神様も動物も一緒だと思う。
「あー……久しぶりの温泉もいいもんだなあ」
「うん」
仕事をさぼって温泉で昼風呂なんて贅沢普段はそうそうできるもんじゃない。いや時間休だからサボりじゃないけど。
「大分、」
「うん?」
「お前ほんとデカくなったよなあ」
それこそ大分に製鉄所を作るという計画段階の時から見てきているが、若くてデカいというのはすごいもんだといつも思ってしまう。
「ま、ヤなことも忘れたいことも全部お湯に流しとけ。な?」
「……うん」
風呂出たら冷たい牛乳でも買って海辺を散歩しよう。
そしたらきっと明日も仕事が出来る。




佐賀関と大分。この前大分旅行してきたよ記念に。

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水出し緑茶に栗饅頭

それは蒸し暑い初夏の昼下がり。
暑さに耐えかねてクーラーをつけて寝転がっていると、玄関からゴンゴンゴンという雑なノックと共に歌声が響いてきた.
「雪だるま~つくろ~ドアを開けて~♪」
この声は此花かと察して渋々腰をあげてやるが相変わらずノリノリで歌ってやがるので一応ドアスコープを覗くとやっぱり此花だった。
「あっち行ってアナ、って言ったほうがいいか?」
「そんなこと言うなよ」
お邪魔しますも言わずに部屋に上がり込むとそのままバタリと寝転がった。
「はー……北九クソ暑すぎない?」
「今日は夏日だとよ。しかも昨日の雨で湿気がひどいからそれでだろ」
「ったく暑いのはやだな」
冷蔵庫から水出しの緑茶(麦焼酎をコイツで割ると美味いのだ)と一緒に、ついでに栗饅頭も出してやると「珍しいな」と呟いた。
「お前は甘いもん食わないと思ってた」
「貰う分には食うぞ、たまに和歌山がチョコと酒の組み合わせとか持ってくるしな」
「へえ、でもこれ裏書き小倉になってんぞ」
「問答無用で持ってくる奴がいるんだよ」
小倉駅の近くの菓子屋の栗饅頭の個包装をべりべりと剥がしながら冷たい緑茶で流し込む。
勝ち栗の食感とあんこの甘みを緑茶で流し込むのは嫌いじゃないが、馬鹿の一つ覚えみたいに持ち込んでくる奴の顔を思い出して思わずため息が漏れた。
「あー……高浜の東京製綱か?」
「そうだよ」
東京製綱は金属製のロープなんかを作る会社で、そのうち小倉工場が自称・俺の兄にあたる。
まあ元々俺は小倉工場に金属製ロープの原料を作るために生まれたとはいえ、浅野や住友に移ってからも暇さえあれば構い倒されて食傷気味になったのもある。
「何年か前からニート生活突入で暇してるらしくて何も言わなくても月2でうちに押しかけて来るしな……」
「あー、そらなんつーか、ご愁傷さん……」
「栗饅頭の残り貰ってくか?」
「じゃあ貰うわ、あと3時半までここで休むのは?」
「俺の昼寝を邪魔しないならいい」
「りょーかい」
俺が昼寝の準備を始めると此花は鞄から文庫本を引っぱり出す。
和歌山もそうだがほっといて欲しい時はほっとくという事が出来るのは大事だと思う。
クーラーの冷気を浴びながら静かに目を閉じれば心地よい眠りが近づいて来るのだった。



小倉と此花。
小倉の自称兄はぼんやり頭の中にあるので出るかどうかは不明。

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桜雨の降る夜に

夜風に桜の花びらがひらりと舞うのが見えた。
己の名そのものである植物は春を鮮やかに彩るが、すぐに散っていくそのさまはなんとも寂しいものである。
「やあ、桜島のねーさん」
「……此花」
同じ町に住み同じ植物の名を冠した彼女はコンビニの袋を手にひらりと手を振った。
がさがさと袋を揺らしながら隣に近寄った彼女は「夜桜見物?」と聞いてきた。
「まあ、そんなところだ」
「ふうん」
「此花は」
「私はただ酒と食料の買い出しがてら散歩にね」
「そうか」
特に話すこともなくただ隣に立って道を往く。
工業地帯にほど近い住宅地の中の公園は喧騒から遠く、夜の風のみが静かに吹き渡る。
お互い何かを問う事はしなかった。
きっと問うてしまえば同じ男への恨み言が口をついてしまう気がして、それはこの美しい宵に聞かせるにはあまりに薄汚いものであるからだった。
「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない……だっけ」
「フィリップ・マーロウか」
「それだ。タフで優しくなくてはいけないって、しんどいと思わない?」
彼女のその言葉は遠回しな弱音だった。
兄弟たちの前ではそうあろうとする女のささやかな同意を求めるその言葉に、私は小さく頷いた。
「そうか」
それは良かったというように微かに表情を緩める。
「私もどれだけ素晴らしい存在であろうととしても御仏の前では弱い存在にすぎない、それでもいいと言ってくれるのが仏だと私は思っている」
弱くもろいものであろうとも、この命が絶えるその日まで生きて行かねばならぬ。
それは何度春を迎えて花を咲かせようとも夜風に吹かれてその命を散らす桜のように。




桜島と此花。虚しさも苦しさも全部胸の内に飲み込んで生きるという事。

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改元、ときどき新年度

*新年号出たねって言う小ネタです


*八幡さんと千葉くんと神戸さん
「新年号、令和ですか……」
八幡さんがテレビを見ながらつぶやいた。
新年号と新年度に向けた会議の手を止めて新年号を確認すると、隣にいた神戸さんが「大変そうねえ」と呟いた。
「新社名に新年号、あとこの会議が終わったら山陽特殊鋼に挨拶してオバコにも連絡入れて……あと何がありましたっけね……」
「ここまで被ると大変でしょ?」
「ホントですよ」
神戸さんはからかい交じりにそう言うけれど、むしろ俺は前の改元の時よりお祭り騒ぎなこの感じが結構楽しく思える。
「俺は結構楽しみですよ、新しい時代」
「若い子はいいですよね呑気で、とりあえず会議の続きやりますよ」
テレビの電源を落とした八幡さんは再び僕らの方を向いて会議を始めるのだった。

・呉さんと周南ちゃん
社名変更に伴うバタバタは変更当日になっても中々収まらず、小さくため息を漏らすと周南が「お疲れ様」と言いながらビニール袋を持ってきた。
「残り物のごはんでおにぎり作って来たよ」
「助かります」
ボトルのお茶とおにぎりを受け取ると「書類仕事やるより現場仕事の方が落ち着くよねえ」と周南が言うので、小さく頷いた。
おにぎりの中身は昨晩の残りのから揚げと七味マヨネーズというがっつり目の仕様だ。
「ああそうだ、新年号確認しといたよ。令和だって。それで桜島と次屋が役場向けの方のシステム改修に入ったから」
「桜島さんにもバタバタして貰ってしまいましたね、お礼言っといてください」
「分かった、落ち着いたら海でも行こうね」
「……はい」
僕らのブルーオーシャンを巡る旅は新年号の知らせと共に終わってしまったけれど、それでも日々は続いていく。
周南のいる日々も続いていく。
二個目のおにぎりを取りながらパソコンに向かい合った。

・加古川ちゃんと西宮さん
「こんなに賑やかな改元は初めてね」
西宮さんが苦笑いをしながら改元を知らせる大画面に目を向けていた。
近くの人からも新元号の話が飛び交い、三宮の街は新年号の話で持ちきりだ。
「そうですね、私改元は二度目ですけど」
「昭和のときも平成のときも似たようなものだったわよ」
「そうなんですね」
「なんかまた正月が来たみたい」
西宮さんのその評価は確かにしっくりくる。
「でも帰ったらまた改元絡みの仕事が積もってるんでしょうね」
「正月だってそうでしょ?」
新時代に向けて用事が終わったら、また仕事と言う日常に戻るのだ。

・広畑さんと釜石
「……た、広畑!」
声を張り上げた名古屋に起こされて起き上がると周囲がバタバタと走り回っているのに気づく。
ここが丸の内の本社であることに気付き、そう言えば一昨日から新社名や改元なんやでずっと丸の内にいたことを思い出した。
「釜石?」
「新元号出たぞ。令和だ、命令の令に平和の和。それで役場向けのプログラム改修始めるぞ」
むくりと起き上がるとパソコンスリープになっていたので再び立ち上げ直す。
何度目かの改元だけれど今回もやっぱりバタバタした改元ですっかり嫌になる。1年前に公表してくれればこんなに仕事しなくて済んだのに。
「お前さんもほんとは見たかったんじゃないのか、保育園」
釜石の言う保育園は今日から新しく出来る社内保育所のことだろう。
「高炉持ちが現場離れられないからしょうがないし……」
「そうだなぁ」
春うららかな空がふと視界に入るけれど、空模様とは逆に多忙な仕事に小さくため息を吐いた。

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春待つ日々に

日に日に暖かくなる日差しに春の近づきを感じながら、鞄に押し込めた書類を渡す相手を探しに行くと「今日はまだ来てないみたいです」と職員に告げられた。
「あの戸畑が?」
「今日は正午で上がられましたから寮にいるかもしれません」
なら寮に行って渡しておくかと足を向ける。
会社の寮で一階の日当たりのいい角部屋はたいてい俺のような付喪神の類に当てられることが多いが、戸畑のところもそれは同じらしく部屋はすぐに見つけられた。
「戸畑ぁ、」
ピンポンを鳴らしながらその名を呼べども反応はない。
鍵は閉まっているし、ポストは寮の住人共同で使っているからうっかり見られるのも少々困る。
仕方がないと寮のベランダの方に回り込むと戸畑の部屋の窓は空いていた。
いちおう人に見られていないことを確認してひょいとベランダを乗り越えると、戸畑は座布団を枕にすやすやと昼寝をしていた。
仕事終わりで疲れていて、日当たりと初春の風につい眠ってしまったという事か。
(……邪魔しない方がええな)
靴を脱いで戸畑の部屋に上がり込むと預かっていた書類とそれについてのメモ書きを置いておく。
よく眠る戸畑に近づいて薄い毛布を掛けてやれば、うちで預かっていた頃の和歌山を思い出させるような安らかで無邪気な寝顔をしている。
悪い子どもじゃあないのだ、せいぜい安らかに寝させてやろうじゃないか。
そうしてそっと戸畑の部屋を抜け出すと春の風と日差しが心地よい。
もうこのまま仕事を上がって一眠りしてしまおうか、という気分だ。





戸畑と小倉。この二人の関係性って何なんだろう、と考えてたらこうなった。

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