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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

毛布の中に逃げ込んで

君津さんがもう何日も部屋から出てこないんです、と連絡を受けて大きなカバンにありったけの食糧やらあいつの好きそうな本やら詰め込んで車を飛ばして着いたときにはもう夜だった。
「きみつー」
鍵がかかって開かない部屋にやれやれとため息を吐く。
君津の部屋の合鍵は自立した時に返してしまったし、鹿島や千葉が持っていると聞いた覚えはない。まさかあの二人のうちのどっちかが持ってたらさすがに妹分としては泣く。
君津の性格なら玄関の近くのどこかに合鍵を隠しててもいいはずだ。じゃあ、隠すなら?王道の場所だと鹿島や千葉に悪用されるから避けるだろう、しかし忘れにくくていざという時取り出しやすい場所でないといざという時困るはずだ。……電気メーター?
メーターを開けてみると何も入っていない。
じゃあ水道だろうか、と水道メーターのふたを開けると内側の穴に部屋の合鍵が針金で括ってあった。ご丁寧に君津の部屋の部屋番号が手書きされたキーホルダーもついてる。
合鍵で部屋の鍵を開けると真っ暗で「入るぞ」と声をかける。
いつも小奇麗にしてる君津にしては埃とゴミのたまった部屋の隅で君津がすやすや眠っていた。
眼の下にはクマと泣いて腫れた目、市販の痛み止めと睡眠薬を酒で流し込んだ(※良い子はマネしてはいけません)形跡もある。
「君津、生き……いや、死なないか」
私達は工場とともに生まれ、工場と共に死ぬ。君津製鉄所がこの地上から消え去る日まで、私達は死ぬことが許されない。自ら死ぬことを許されずに生きることは、実は恐ろしいほど消耗することを私は知っている。
「お前、相当疲れてるだろ?」
今年は自然災害が多く、特に千葉は被害が大きかった。
その癖それを口に出さず甘えもせずに黙々と仕事をした反動がこれなのだ。
この部屋でいちばん肌触りのいい毛布を選んで君津の身体をくるんでやり、頭の下にもビーズクッションを置いてやる。
今だけは毛布に逃げたっていいさ。誰になにを言われようと私が守ってやるから、今はゆっくり寝ればいい。
(……今度鹿島から手の抜き方ってもんを教えてもらうべきだよな)
やれやれと呟いてから職員に無事を確認したことと数日休ませてやって欲しい事をメールすると、即座に所長に伝える旨が帰ってきた。


「おやすみ、君津」

お前を傷つけるもののない眠りの世界で、今だけは全てを忘れておくれ。


東京ちゃんと君津。千葉方面は災難続きですね……

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逢いに行く人

金曜日の夜、定時に事務所を出ると小さい車にありったけの荷物を積んで走り出せば救援物資を積んだ車で賑わっていた。
高速を飛ばして二時間弱、辿り着いたのは可愛い兄貴分の住む寮の一室。寮に向かう道も完全に真っ暗闇で、持って来た太陽光電池で動くランタンをつけて歩き出す。
いつものようにチャイムを鳴らそうとしたら動かなかったので「入るぞ」と声をかければ遠くから「どうぞー」と声がかかる。
「君津、遅くなったけど見舞いに来たぞ」
家主は香り付きのロウソクの匂いが漂う薄暗い部屋で足をぐるぐる巻きにしてベッドに寝ころんでいた。
「別に文句はねえよ、そっちだって仕事あんだろ。道の様子どうだった?」
「高速は動いてるけど国道は駄目だな。特に山のほうは全滅。物流どうなってるか分からんから食料とか電気類あるだけ持ってきた」
「助かる、まだ電気復旧してねえのにもうロウソクねえんだよ」
「体はどの程度動く?」
「右足が重めの捻挫、一応湿布貼ってるけど痛みが全然引かない。あと右足の骨も折れてる」
「それで痛み止めと湿布要求してきたのか」
途切れ途切れに寄越してきた連絡にあった要求の品をカバンから引っぱり出し、張り替えるぞとその足を覗き込んだ。
貼ってあった湿布をはがせば右足首は赤く腫れあがり、内出血も伴っているのか患部はグロテスクな色合いだ。
湿布を張り直して、骨折したらしい箇所にはありあわせの金属棒で添え木がしてあった。
「とりあえずパンと牛乳食って痛み止め飲んで寝ちまえ」
「まだ9時すぎだろ」
「真っ暗でやる事ないのに起きててもしょうがないだろ、私は本社と戸畑さんにお前の状況報告しないとならないしな」
ここネット繋がるかね?とスマホを起動させてみるが調子はあまりよろしくない。本当にダメだったら災害時用のフリーWi-Fi捕まえるしかなさそうだ。
「俺がやる、自分の状況は自分が一番わかるしな」
「……仕事中毒め。お前自前のパソコンかスマホ使えるか?」
「充電切れた。事務所の電気使うのも気が引けるからどっちも充電してない」
「だと思ったよ、車に発電機積んどいたからベランダ貸してくれれば2~3日は持つだろ」
ちょっと取ってくるわと立ち上がれば「なあ、」と君津が声を上げた。
「ありがとうな」
「当然だろ、お前と私はセットで君津製鉄所なんだから」




東京と君津。がんばっぺ、千葉。

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100歳なので。

式典が終わってふと思ったのは「いいものたべたい」だった。
今頃鹿島や君津くんなんかは大慌てだろうけどこっちは雨一粒も降りそうにない青天で、なんかそう言う気分になったのだ。
「という訳で八幡さんお寿司奢ってください」
「……そう言うのは旧住金組の和歌山の役回りじゃないんですか?」
「一応和歌山俺より年下なんで」
きょうの式典には和歌山と八幡さんが来てたけど、こういうのは最年長にたかるべきという判断である。
和歌山が申し訳なさそうにすいませんと小声で詫びてくるけれど、和歌山は別に詫びなくていいと思う。此花もたぶん居たらこういうと思うし。
「というか、もうさっき予約取っちゃったんですよね。摂津本山の生粋」
「待って尼崎待って!あそこ一人で一万五千円ぐらいするよね?!」
それを聞いた八幡さんが膝から崩れ落ちた。
此花がここにいたら間違いなく大爆笑だった(ついでにケーキも買って貰えって言うと思う)ろうに、と思うけどまあいいだろう。
「八幡さん、無理なら俺も少し出しますよ?」
「和歌山こういう時ぐらい奢って貰うべきだと思うよ?だってこの間の鹿島のカチコミも、此花が荒れた夜も、和歌山が堺の面倒見てるのも全部八幡さんのせいだし」
「いやそこまでは「わかりました」
八幡さんがはーっと深く長い溜息を洩らしてから、宣言する。
「気の済むまで好きなだけ食べればいいでしょう」
俺がほらね?と和歌山に笑えば、何とも言えない面持ちをしていた。
これくらいの暴挙があったとしてもいいだろう。だって俺、きょうで100歳なんだから。




尼崎と八幡と和歌山
旧住金推しとしては八幡もたまには痛い目見てもいいと思う。

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夕焼け空と晩夏のビール

真夜中に過ぎ去った台風の傷跡の修繕に追われて気づけば空はオレンジに燃えていた。
「うゎ、もう夕方じゃん……ずっと泊りがけだったしもう帰ろ」
残りは明日やるからと周囲に宣言して外に出ると枯れ葉がいっぱいで掃除しなきゃなあとため息が漏れた。
社員寮の俺専用のお部屋のドアを開けるとむわっとした熱気が来くる。
クーラーをつけようとすると全然動かなくて、事務所の電気は自前だから平気だったけど社員寮のほうは外部から電気引き込んでるから止まってるんだったと思い出した。
仕方ないので窓を開けるとやっぱりまだ湿った暑い空気で満ちている。
どうするかなあ、と少し考えてから僕はつばさを呼び出した。
「呼ばれましたけど何に使うんです?」
つばさは言われた通り大きなタライを持ってきた。
「冷蔵庫の氷突っ込んで行水するの、他のもいくつか溶けちゃったからつばさも半分食べてよ」
「わかりました」
そう言うとつばさは野球人らしいたくましい腕でタライに氷水を張り始めた。
僕の方は半分溶けた冷凍食品を溶かす(ガスが生きてて良かったとこの時だけは本当に思った)ことにした。
君津が作ってくれた凍らせたカレーだとか、湯せんで溶かすタイプのハンバーグだとか、此花がくれた冷凍野菜だとか、全部一緒くたにお湯で解凍した。
元から料理しないから生鮮食品がほとんどないのが不幸中の幸いかもしれない。
「出来ましたよ」
水を張ったタライには氷や保冷剤がたっぷりと投げ込まれ、足をつければびっくりするぐらい冷たい。しかも一緒に買い置きのお酒まで冷やされてる。
「つばさはほんと出来た子だねえ、アントンもだけど!」
「それほどでもありますね」
つばさの鹿毛を撫でてやれば僅かに表情が緩むのが分かる。
君津なんかは首より下が人間とは言え鹿に表情ってあんのか?なんて失礼なことを言うけど、よく見ればわかるものなのだ。
「もー!お前って子は!高いビールあげちゃう!」
ちょっとお高めの缶ビールを渡せば上機嫌で開け始める。ほんと遠慮のない奴である。いつものことだけど。
俺もビール開けちゃおうと栓を開ければほんのりと冷たい。


「あー……俺、めちゃくちゃ頑張ったなあ……」

飲み干したビールの心地いい冷たさとぬるい風だけがそこにある。
俺たちは仕事柄24時間365日仕事だけど、その頑張りがほんの少し報われるような味がするのが好きだ。
だって今日は頑張ったのだ。
「明日はお昼まで仕事したら3日ぐらい休も……」


鹿島さんとつばさ。

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夏の終わり、花火を光らせ

このところの驚異的な暑さは西日本を襲った台風とともに過ぎ去り、夏の湿度だけが残った。
仕事終わりに立ち寄ったコンビニの店頭で、和歌山が花火のセットに目を向けていたのに気づいて「買うのか?」と俺が聞けば和歌山はううんと小さく唸った。
「どうしようか」
「欲しいなら買えばいいだろ、港まつり行けなかったしな」
「じゃあ買おうかな。ライターも買わなきゃ」
そう言って100円ライターと一緒に花火セットを俺の持っていた籠に一緒に放り込んだ。

***

社員寮の狭い庭に水を張った洗面器(花火セットを買ってからバケツを持ってないことに気付いたので)と花火セットを広げると、花火セットについていた小さなろうそくに火をともす。
「ん」
「ありがと」
花火に火を灯せば白い煙と共にフシュ―と鮮やかな火花が夏の夜に飛び散る。
その手持ち花火をぼんやりと二人で眺めながら、夏の湿っぽい夜風が花火の煙を乗せて去っていくのが見えた。
「ねえ、海南」
「なんだよ」
「何で俺と一緒になってくれたの?」
「……なんでだったかな」
ハイボールを飲んでいた手を下ろして和歌山を見た。
勢い良く噴き出す花火を見つめる和歌山の顔つきはどこか不安で、その炎に燃え焦がされて死にたいと思っているように思えた。
見た目は良いとは思う。住友家の血なのか、和歌山は昔から女には困らない方だったのに俺のことをいたく気に入っているようで、それは今も変わらなかった。
「ね、なんで?」
今日の和歌山はちょっと憂鬱と不安に襲われているように見えた。
それが素直に表情に出ている。
「嘘つけないから、だな」
「まあ確かに俺もそう思うよ」
和歌山はいつだってのびのびとしていた。
南国の太陽の下、住友本家の庇護のもとに素直に育ったその眼差しはある種の育ちの良さがあった。
たぶん、その育ちの良さが俺は好きな気がする。
「だいいち、好きだとか嫌いだとかそう言うのに理由いらないだろ」
「そうだけどさ」
火の燃え尽きた花火を洗面器に漬けて、次の花火に火をつけた。

「お前の判断を俺は否定しないよ」

それはたぶん和歌山が今一番欲している言葉だった。
「うん」
「だからいちいち悲しむなよ、俺がいるだろ」
「……まあね」
和歌山がほんの少し笑う。
めんどくさい男と一緒になってしまったな、と思うけれどたぶん俺はこいつとずっしょ一緒にいる運命なのだ。
そのめんどくささも含めて愛せないほど俺は小さい男じゃないので、和歌山が納得するのならこれぐらいの事いくらだって言ってやれるのだ。





海南と和歌山。
たぶん海南がえふいー世界で一番いい男だと思う

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