観光客でにぎわう街を手漕ぎの木造船はとことこ進んでいく。
「潮来って船漕ぎ出来るんだねえ」
鹿島が意外そうな顔で日本酒をあおっている。
木造船の上には小さなちゃぶ台と重箱のお弁当、そして親しい仲間たち。
「この町の船は車や自転車と同じですからね」
「水辺の街ならではって感じだよねえ」
「確かにそんな気がするです!」
神栖と行方が弁当を食べていた手を止めてそう呟いた。
岸辺を歩く猫や行きかう観光客を眺めるのは楽しいものだ。
「ああ、もうすぐですよ」
「なにが?」
細い水路を抜けて、さあっと目の前に広い水辺が広がって来る。
川をつたって届く風が心地よい。
「利根川です」
坂東太郎の異名をとる関東一の大河の波は穏やかで、初夏の日差しを十分に浴びてキラキラと輝いている。
「ってことはあの向こう岸が千葉だね」
「向こう岸まで行ってもいいですけど、手漕ぎだと少ししんどいんで戻りますよ」
「潮来、交代する?」
「神栖と私だけなら交代してもいいんですけどね」
船を方向転換させながらゆっくりと船は進んでいく。
初夏の日差しと風が、心地よかった。
鹿行組。あやめ祭りが開幕しましたね。