「兄弟、餅食うか?」
ビニール袋片手に気仙沼までやって来た兄さんは珍しく手土産付きだった。
「正月でもないのに?」
「一関の方だと隙あらば餅つくからな……」
「ああ、あっちは餅文化なんだっけ。お茶でも入れるよ」
「冷たい奴で頼む」
冷蔵庫から氷と一緒に冷たい水出し緑茶を取り出すと、ビニール袋から次から次へと小さなパックに入った餅が次から次へと出てくる。
小ぶりのパックが総勢10個、確かにこれは一人で食べるには多すぎる。
「多くない?」
「おばちゃんに持たされた」
「ああ……」
「残ったら南リアスにやるから好きなの選んでいいぞ」
「じゃあずんだとみたらし貰うね。兄さんは?」
「俺は向こうで食わされたからいい」
セロテープでとめられたパックを開くと、ずんだ餅の鮮やかな緑が食欲をそそる。
冷たい緑茶が夏の身体を程よく冷ましてくれて気持がいい。
「じゃ、いただきます」
「おう」
つきたてのお餅は箸で掴んでも分かるぐらいに柔らかく、美味しそうだ。
一口ほうばれば仙台でもお馴染みのあの味である。
兄さんは冷たい緑茶を飲みながらため込んでいた書類(ここのところ一関にずっといたせいだ)を読み始めていた。
元々僕が生まれる前の南三陸の足であった路線の時代を想像させる真剣な眼差しだ。
(……昔はいっつもこういう顔してたのかなあ)
三陸が陸の孤島であった時代、政治によって歪められた奇怪な線形に振り回されながら一人で頑張っていた時代。
「兄さん、」
「うん?」
「……緑茶のお代わり要る?」
兄さんは手元のグラスを覗いてから、残りを一気に飲み干して「お代わりくれ」と答えた。
おまけ:盛駅にて
大船渡線「南リアス、餅食うか!」
南リアス線「たべる!」
日頃市線・赤崎線「「餅と聞いて!」」
大船渡線「お前らいたのかよ!」
南リアス「ふたりがきたらぜんぶたべちゃうでしょ!かえって!」
この後南リアスと日頃市・赤崎による餅争奪戦が繰り広げられたという……。
大船渡線と気仙沼線。
某くもじいの番組に大船渡線が登場した記念に。