長い間そこに在り続ければ変わる事や消えていくこともあるという事実を、誰が否定できよう。
「こんな海辺で晩酌かいな、サントリーサンゴリアス」
「……ええ」
神戸の名を背負うその人からは珍しく煙草の匂いがした。
煙草が健康に良いという常識はいつの間にか消えさり、今やスポーツマンは喫煙をしなくなった。
しかし戦前生まれの彼だけは時折こうして煙草を嗜んでいるようであった。
「響か、俺にも少し分けてくれひんか?」
「どうぞ」
自社の誇るジャパニーズウィスキーの最高峰とも称されるそれを小さなグラスにストレートで出してやれば、彼は一口それを口に含む。
「美味い」
「そりゃあ、ジャパニーズウィスキーの最高峰ですから」
自らの親と呼ぶべき存在の生み出した至高の酒だ、不味いはずがない。
「で、ご用件は?」
「ただの夕涼み、どっかの赤い鷲みたいに極端に嫌う奴もおるからいまや気軽に煙草も呑めんしなあ」
呑気にそう呟きながらふうっと煙を吐きだした。
「ああ……でもあいつは悪い奴じゃないんですよ?先輩のことをよく敬うし頭も悪くない」
「でも隙あらば胸筋や腹筋揉みたがるのはアカンやろ」
同じ府中の後輩へのフォローが台無しである。
あの後輩の悪癖だけは同じ府中の青い狼と共通の悩みであった。
「……今シーズン、誰に昇格してきて欲しい?」
「下なんか見てるとそのうち自分が落ちますよ」
こんな脈絡のない会話も、たぶん8月が来るまでのことなのだろう。
サンゴリさんとスティーラーズさん。特に内容はない。