忍者ブログ

コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

ともに燃える高炉の火となって

「おかえんなさい、姐さん」
ロングコートを着込み、マスクをした姐さんが「まだ起きてたのね」と聞いてきた。
「試合もあらへんのに早寝する理由あらへんでしょう」
先ほどまで眺めていたツイッターの画面は26年前の今日への想いの言葉が流れている。
姐さんは「そうよね」と呟くと衣類と両手は除菌スプレーを、マスクはゴミ箱に放り投げていく。
「そういや加古川さんは?行くとき一緒でしたよね?」
「自分のところ戻ってったわよ」
「ああ」
「……今年は去年より少なかったわ、つどいに来てた人」
姐さんはよほどの理由がなければ毎年東遊園地の震災のつどいに足を運んでいたが、そんな風に言うのを初めて聞いた。
「このご時世ですからね」
一度触れたものは全部除菌、喋るときはマスク着用、人との接触は最小限に。
このご時世ゆえに言われていることは仕方ないと思っても寂しいとかやるせないとか思うぐらいは許してほしい。
「ああ、そういえば今日の試合で流すはずやった動画なんですけどまだフルバージョン見てないですよね?」
今日行われるはずだったホームの開幕戦は新型コロナにより延期となり、今日お披露目するはずだった動画はネットに公開された。
姐さんは本当なら言ってくれれば事前に見られたのに開幕戦で見たいからと敢えて見ていないから、公開されたら一緒に見て貰う約束だった。
「そうね、見せてくれる?」
液晶画面を除菌シートで軽くぬぐってから動画を全画面で映す。
ほなと呟いて再生ボタンをクリックすると、優美な神戸ポートタワーとともに柔らかな男性の歌声から始まる四分の動画が始まった。
サビの部分で笑う選手たちと突き抜けるような青空が神戸の山並みとともに見えたとき、ボロッと姐さんは雫をこぼした。
俺自身もあの頃のように長く不安な夜と厳しい自粛や規制に疲れていた。
だから希望を語ろうと思いながら作った動画が、姐さんの心の柔らかな場所に染みていく。
「ごめんなさいね、ハンカチ……「姐さん」
姐さんの顔を自分のほうに向けさせて、姐さんの目を見ると紺色の瞳が深い涙のしずくでうるんでいるのが見えた。

「俺は姐さんやスポンサーさんやファンの人らがおらんかったら生きていけん脆い存在やけど、その分はちゃんとラグビーで返したい。
せやから、その、……俺も一緒に戦いたいって、思うとるから。信じて欲しい」

上手くまとまらない言葉の粒が火花のような熱を持って零れ落ちていく。
「企業の事とかようわからんし、病気の流行が落ち着くタイミングとか、そういうのも分からんけどな、俺は姐さんに支えられてきたから、俺も支えられるようになりたい……って言うか、ならんとあかんって思うてる。
俺はラグビーするために生きとるから出来るかどうかわからんけど、」
上手くまとまらない感情が姐さんの耳に注がれていく。
そしてそれは少しずつ姐さんの心の裡のひびを埋めていくのが、ふれながらわかった。
「馬鹿ね。あんたはもうずっと前から私を支えてきてるじゃない」
姐さんが笑う。
その心の裡に同じ火が灯された。

----
スティーラーズさんと神戸ネキ。
悪いこと言わないから公式の動画(https://youtu.be/9asQpuDucdo)を見てくれ

拍手

PR

かなしいとやさしい

美味しいものには心を満たす魔法がかかっている。だから、悲しいことがあった時こそ美味しいものを食べる。
暇な時に作って冷凍していた餃子とから揚げはフライパンで揚げ焼きに。
大ぶりのカラフェに水洗いしたイチゴ、ざく切りの皮つき林檎、ざくざくと切ったみかんと安くなっていたレモン、シナモンパウダーやクローブと八角を少量、そして最後赤ワインをありったけ。
そしてカラフェの果物を取り分け用の大きいスプーンで軽くつぶして混ぜればサングリアだ。
いや、本来サングリアにスパイスは入れないんだけどから揚げとかに合わせるには少しそっち系の風味が欲しかったのだ。
果実の酸味とスパイスの風味が混ざり合って出来はまあ悪くない。配合なんかはもう少し考えたほうがいいだろう。
からりと上がった唐揚げは熱々をそのままいってしまう。
「あち」
冷たいサングリアでスパイシーな唐揚げを流し込めば、さっぱりして美味しく呑める。
LINEで『大丈夫ですか?』とサンデルフィスから連絡が来た。
『俺は平気、感染対策はしっかりな』
仕事終わりに俺の試合の中止が分かって心配してくれたのだろう。可愛いいとこだ。
そう、俺の開幕戦は中止になった。ヴェルブリッツさんのとこで感染者が出たためだ。
揚げたてのから揚げをやけどしないように気を付けながら口に放り込めば、油のうま味とスパイスの風味。
感染対策のため一年近く食の喜怒哀楽を誰とも分かち合えない日々が続いていて、それを耐え抜いてきたのにこのザマだ。
「……別に誰のせいでもないんだけどな」
このしんどさはみんな同じはずだ。だけどやっぱり悲しいものは悲しい。
自分に言い聞かせながら揚げ餃子をザクリと歯で割れば、ニラやにんにくのエネルギッシュな風味。
行儀も何も忘れて黙々と台所で飲む一人酒の沈黙は悲しいけれど、出来上がった料理のおいしさだけはやっぱり優しいのだ。



-----
サンゴリアスの話

拍手

うがい、手洗い、時々みかん

トイレ後の手洗いに浸かっている蛇口のわきに置いてあった石鹸に手を伸ばして気づく。
「あ、」
年の瀬に取り替えたばかりの薬用せっけんがもう親指ほどの大きさになっている。
ハンカチで手をぬぐってから備品倉庫から新しい石鹸を出しておくと、予備の石鹸の消耗の早さにため息が漏れた。
リーグの中断後は『冬までには終わるだろう』と言い聞かせていたものの、新型コロナウィルスの流行は未だ収まる気配を迎えないまま年を越してしまった。
(この調子だと開幕戦も怪しいな……)
協会は人徹底した対策の上での開催を発表したが、世間の反発のみならず倍々ゲームに増えていく感染者数を見て中止に変更される可能性もなくはない。
もし開幕延期となればオリンピックどころか23年のワールドカップにも影響が出かねない。
「シーウェイブス」
「釜石さん、どうかしましたか?」
ひょっこりと事務所に顔を出してきたのはマスク姿の釜石さんだった。
父であり自らの最大の応援者でもあるその人の手元には大きめの段ボールがひとつ。
「和歌山に頼んで蜜柑を送ってもらったからおすそ分けにな」
段ボールのヒモとテープを切り落とせば箱からはみかんの甘酸っぱい匂いがふわりと香る。
そういえばみかんなんて最近全く食べていなかったな、と思いながら一つ手に取れば小ぶりながらつややかでいい香りがした。
「選手や桜庭さんにも渡しといてくれるか?」
「あれ、事務所にGMいませんでした?」
「ひとに移す訳にもいかんじゃろ、わしとお前さんは移らんけどわしが原因で映ったらかなわんしな」
多分それがこの人なりの気遣いなのだろうと思う。
底抜けに人間に優しい人であることは自分がよく知っている。
「こっちはお前さんに、開幕戦見に行けそうもないから今日のうちに渡しておく」
そう言って戻っていった背中を見送ってからそろりと紙袋を開くと、紙マスクと消毒液のセットが入っていた。
それと一緒に出てきたのは地域の神社の必勝守り。
病禍のさなかにあっても闘う事をやめない事への祝福のようで、そのお守りを取り出すと絶対になくさないように財布につけておく。



どうか、今年こそはちゃんと最後のひと試合まで無事に迎えられますように。

---
釜石親子。ひと試合がこんなにも尊いこと、きっとないよね。

拍手

大みそか

大みそかのみそかというのは和暦においてその月の最終日の事を指し、大みそかの前日は小づごもりと言うそうだ。
いつだったかブラックラムズ先輩に教えてもらったことだ。
「年越しそばは大みそかの夜に食べるもの、ですからね」
これも先輩から教わった事だが。
昼間チームの食堂で食べた沖縄そばの麺の余りを貰ってきたのでこれを使う事にする。
残っていた小葱に冷凍の豚肉やキャベツ・ニンジン・玉ねぎを沖縄そばの麺と一緒に炒めて、ケチャップで味付けする。
沖縄では沖縄そばをケチャップ味の焼きそばにするのはよくあると聞いたし、ナポリタンだと思えば大丈夫だろう。
「……でも、年越しそばって感じではないかな?」
せめて縁起のいい感じにしようと白ごまを拝借して軽く振りかければ紅白で縁起がいい、気がする。
いただきますと小さく手を合わせると、野菜の火の通りが甘かったのか少々芯が残ってる。
サンゴリアスくんならいい具合に仕上げてくれたんだろうか。
しかたないと言い聞かせながら沖縄そばを口に運んでいくうち、壁の時計がもう2020年は残り一時間だと告げてくる。
日付が変わったら届くだろうメッセージも、年明け後すぐに始まる試合も、ようやく行われるリーグ戦も。

「……はやく年が明けないかな」

さよなら、2020。苦労も厄も全部おいて行きますね。

---
イーグルスくんの年の瀬。

拍手

ほんとの祝福は3年後

インターネット電話をつないだタブレットによく冷えたビールと柿の種を手に、テレビを付ければもう抽選会は始まっている。
「19年大会の抽選会の時もこうやってオンラインで繋いだよな」
『あの時はみんな仕事でバタついてたからね』と冷静に突っ込むワイルドナイツに『まあみんなで楽しめるのが一番でしょ』と楽し気なブレイブルーパス先輩の横にはブレイブループちゃんもいる。
それを横目に死の組がどうこうと言い出す千葉トリオに、イングランドって何組やった?と言い出すスティーラーズさんに大阪コンビと、今回もやっぱり騒がしい。
(まあトップリーグ全員で抽選会見守ろうと思うとこうするしかないんだよなあ)
全国各地に散らばる面々が一堂に会するのはこんなご時世でなくても難しく、けれどオンラインでもただ喋りながら見守るのも楽しいものだ。

『日本はグループD入り!』

Japanの文字が書かれた球が出た瞬間にそう言ったのはブルースだった。
「グループDだとイングランド?」
『あとアルゼンチンだね、でもイングランドなら去年エディーと試合できなかったし良いんじゃない?』
ワイルドナイツは楽し気なのに対して『6月に全英代表との試合が在るだろうに』と呟くのはブラックラムズさんである。
「でもライオンズってエディーが監督だっけ?」
『確かウォーレン・ガットランドだったような……』
『イーグルスが言うならそうなのだろうな』
「イングランドも良いけどアルゼンチンも最近オールブラックスに勝ったりしてて強いよなあ、あとどこだっけ?」
即座に答えてきたのはイーグルスだった。
『オセアニア一位と北米2位ですね。オセアニアはサモアかトンガ、北米はカナダが有力ですかね』
「あー……なんかすごいめんどくさそうな気配すんな」
『ですね、だからブルースさんも機敏に反応したんじゃないですか?藤井さんのところ行ったみたいですし』
そういやブルースのところのヘッドコーチはずっと日本代表に帯同していたことを思い出し、だからこそ挙動に注目していたのかもしれない。
『でも見る側としては楽しい組み合わせでいいじゃない』
ワイルドナイツが薄く笑いつつハイボールに口を付ける。
「そうなんだよな」
まずはこの最高に楽しそうな組み合わせに入れた幸運への感謝の祝杯を捧げよう。




----
23年大会の組み合わせ、出ましたね。

拍手

バーコード

カウンター

忍者アナライズ