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コーギーとお昼寝

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日出ずる国から南方の友へ

「おう、ブラックラムズやん。ひさしぶり」
カメラのセッティングを終えた我にそう声をかけてきたのはライナーズであった。
手には赤っぽい色味のジュースや軽食を携え、滅多に見ない赤いTシャツの上に日よけの長袖を羽織っている。
「ずいぶんと久しぶりだな、今回はトンガの応援か?」
「当然やろ、スタッフも選手もうちの関係者多くてほぼ俺やん」
「……観客の半分ぐらいが思っていても言わずにいた事を言うんじゃない」
客席は随分と埋まっており、誰もが赤地に白と赤十字の国旗やグッツをぶら下げている。
トンガ国旗やトンガへの支援や連帯を掲げるシャツを着た人々にふと視線が向き、シャッターを切る。
「日本ラグビーにとってのトンガって、ほんま大きな存在よな」
「在日トンガ人選手のみでチームが作れる程だからな」
今回の試合は日本代表候補と在日トンガ人チームによるチャリティーマッチである。
スクラムハーフを除き選手スタッフが全員トンガ人もしくはトンガの血を引く選手で構成されたチームで、このチャリティーマッチのために所属を問わず集められた。
「みいんなトンガを想ってここに来てくれたんよなあ」
ライナーズが飲んでいたジュースを飲みながらぽつりとつぶやく。
「募金あつめたりグッツ作ったりオタイを作ったり、みいんな何かしらの形でトンガを近しく思うてくれてるからこんな試合も開かれるんよな」
「然うだろうな。ちなみにオタイってなんだ?」
「トンガのフルーツジュース、飲みさしでええなら味見してもええけど」
そう言いつつ押し付けられたオタイはココナッツとスイカの味がした。
「異国の味がする」
「トンガから日本に来た味やからな」
ダラダラと話していると選手たちが入場し、二つのチームが相対するように並ぶ。

「̪シピタウが来るで」

浅黒い肌に赤をまとった男たちが声をあげる。
空間が震えるほどの声と、全身から匂い立つ闘志。
そして日本からの支援への感謝のこもったその踊りに全身がびりびりと震えるようだった。
「感謝!」
その一言でシピタウが終わる。
「……我らには良き友がいるな」
「せやろ?」
南方の美しき侍たちよ、闘え。祖国のために。



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ブラックラムズとライナーズ。
ちょっと遅刻したけどチャリティーマッチのお話でした。

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口ずさむブルーノート

夜の海に飲まれてしまいたい、と思った。
「……結局間に合わんかったな」
新しい引き取り先を探して奔走した5月がもうすぐ終わろうとしている。
さようならとか、ありがとうとか、そう言ってくれる奴はいてもうちにおいでよとはついぞ言って貰えなかった。
まだやりたい事は沢山あった。日本一の称号に触れることも無いまま自分はこれから長い長い眠りにつくのだ。
いちおう最後かもという気持ちで挨拶はしたし、今夜はひとりにして欲しいとも頼んだ。
この世界と別れるその時に泣いてしまう自分を見せたくないという最後の意地だった。
梅雨入り前の穏やかな海に足をつける、月の光と混ざって足がとろけていく感じがする。
「行くか」
ざぶん、ざぷん、と海の底へ歩みを進める。


またいつかこの海辺の練習場に帰る日まで、迎えを待っている。

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ブルースさんの話。早く戻って来いよ……

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宴の終わりに祝杯を

「と、いう訳でとりあえず乾杯!」
高々と掲げられたビールジョッキをカチンと鳴らして冷たいビールを一気に流し込む。
リーグワンアワードに合わせてお疲れ様会をしようと提案し、今日は有休をとって皆で飲み会となった。
来れないメンツははオンライン参加だがやはりその手には冷えたビールやジュースが握られている。
「にしてもまさか日比谷のミッドタウンで飲み会とはなあ」
サンゴリアスが感嘆の声をあげながらそんなことを言う。
この一室はパナソニックスポーツ本社の一番大きな会議室であり、そこを半日ほど俺が貸し切って行っている。
「これぐらいの役得がないとあの人たちの下なんてやってらんないよ」
「……お前いつか怒られるぞ」
「こんなことたまにしかしないよ」
そう言いながらサンゴリアスが作ったチャーシューを一口かじる。
「サンゴリアスは若いなあ」
スティーラーズ先輩が呆れ気味にそう笑いながら横からチャーシューを一枚攫って行く。
「ええか、社会人も半世紀やっとると嫌なことは手ぇ抜いたりせなやっていかれへんねんで」
「ラグビーには手を抜かないのに?」
「俺らは本業がラグビーやからバランスとらないけんのよ、それに意外とこいつ事務仕事好きやないからな」
事務仕事が嫌いというのは人に明かした覚えはないのに何で知ってるんだこの人。
実際、新会社での仕事もやるにはやったがそんなに好きではないのも事実だ。
ふうん、とサンゴリアスが呟きながら酒を飲む。
「ほな、来年は優勝俺に譲ってやー」
「「譲りません!」」
シンクロした台詞にお互い目を見張り、そして笑ってしまう。
「相変わらず仲が良いな」
ブラックラムズが面白がるようにそう告げてくる。
「偶然ですよ」
「あ、それ泡盛コーヒー!」
「良いのが手に入ってな。飲んだ事無いだろうと思って購入しておいた」
俺の優勝祝いだというコーヒー泡盛の瓶がポンと俺の横に置かれる。
「ストレートで飲むんですかこれ」
「其の辺は好みだな、割るなら豆乳がお勧めだ」
見慣れない酒なのでサンゴリアスにいいつまみを用意してもらう事にしよう。

「リーグワンアワード始まりますよ!」

イーグルスの声がテレビのほうから響く。
俺が飲んでいる間に機材を全部セッティングしておいてくれていたらしい。
「今シーズンも終わるね」
その最後の記念式典が画面越しに華やかに始まった。

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ワイルドナイツと愉快な仲間たち。

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最後のゲームは目前に

*短編集です

・ミラクルセブンは諦めない(グリーンロケッツ+ヒート)
「う゛あ゛ー……」
試合終了の瞬間、張りつめていた神経がぷつりとほどけて脱力する。
どうにか掴み取った残留の可能性にどうやら相当やられていたみたいだ。
「グリーンロケッツ、何その声」
隣にいたヒートが呆れたようにそう聞いてくる。
「まずは1勝だなと思って」
残るためには勝利を積み重ねていかなくちゃいけない。
明日のアークスも、スピアーズも、みんなそれぞれもがいている中で何を言ってるんだと言われそうな事実だ。
でも勝利の積み重ねの上にしか残留の2文字は手に入れられない。
「俺だって昇格かかってるんだからね?」
「そりゃそうだけどさ」
「次勝って昇格するから」
まるでもう確定された事実のようにヒートが口走る。
「違うよ、このミラクルセブンが残るんだから」

・今日の友は明日のライバル(サンゴリアス+ブレイブルーパス)
「まさか花園で府中ダービーとはねえ」
先輩が呆れたような困ったような声でビールを飲み干すと「ほんとだよね」と苦笑いをする。
今年3度目となった府中ダービー。
せめて秩父宮開催ならなあと言いたいところだけど、なっちゃったものは仕方ない。
「まあ花園も久しぶりだから良いけどさ」
「そういや俺も久しぶりかも、あそこの芝の上行くの何年ぶりだろ?」
「ライナーズが降格する前が最後じゃないか?」
お好み焼きを肴にビールを飲みながらこうして普通に話していても、明日はライバルとしてあの芝の上で出会う。
「楽しみだね」

・赤い風は夢を見た(レッドハリケーンズ)
分かっていても寂しいわあ、と呟いてみたところで事実は変わりようがない。
金曜日の夜に改めて見返すD3降格の審査結果にため息を履いてみる。
「ちゅーか、これでシャイニングアークスのドアホが降格したらどうするんやろうな?」
おじいさまと両親の判断は絶対、審査会の結果も覆る事は無い。
けれどまだどこかでこれが夢だったならと思ってしまうのは自分の心の弱さだろうか。
「……まあ、さっさと戻ったればええだけやろうけどな」
シャトルズがそう宣言したように自分もそれを夢見るぐらいは許される。

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夢が散れども二人は生きる

「腑に落ちんな」
いつものように黒を纏ったブラックラムズのじーちゃんがそう呟いた。
本当ならファンがつどっていたはずの秩父宮はお詫び文が張り出され、来場してくれたファンには頭を下げるしかできない。
「俺かて腑に落ちんわ、要するに協会のミスやし」
「ミスは誰しも犯すものだが今回ばかりは同意見だな」
特に俺にとって今日は特別な一戦だった。
「きょうがD1でやる最後の試合やったのにな」
再編成によるD3への自動降格が決まっている身にとって、泣いても笑っても今日がD1でする最後のゲーム。
死ぬ訳ではないとしても最後の日にケチついたみたいでけったくそ悪い、というのは飾らぬ本音。
「非公式試合でも組むか?」
「それもええかもな」
魔法瓶から出てきたコーヒーを一口飲みながら、ほうっと軽く一息つく。
ちょっと怒りは落ち着いた気もするが今やるべきことは皆に詫びる事だろう。
「協会への文句は後回しやな」
「ああ、仕事は未だ有るしな」



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レッドハリケーンズとブラックラムズ。
今回の試合中止ホント……協会がクソ……(口癖)

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