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コーギーとお昼寝

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飛田給の帰り道

スタッフジャケットを着て試合後の混雑した道の誘導を手伝っていると、観客がみな楽しそうにしているのが見えて嬉しくなる。
黄色いタオルマフラーを巻いた人も赤いレプリカジャージの人も混ざり合う混雑した道。
だけどマスクから出た目元は今日を楽しみにしてくれていた笑顔がよく分かるし、みなこの余韻を味わうように楽し気に見える。
「お疲れ、その立て看板持つよ」
運営スタッフのジャケットを着たブレイブルーパス先輩が俺のほうに来てくれた。
「じゃーオネガイシマス」
持っていた道案内の立て看板を先輩に渡して、俺は様子を見ながらのアナウンスに徹する。
(前はこんなとこまでしなかったんだけどなあ)
新リーグでは試合運営も俺たちの仕事になったから駅までの道の安全確保もこっちに丸投げされてしまって試合が終わってからも気はいまいち休まらない。
けれどこうして見送っていく人々が試合を楽しんでくれたのが目に見えてわかるのは悪くない。
ようやく人の波が落ち着いてスタジアムの設営撤去に向かうと、夜空に味の素スタジアムがぼうっと浮かび上がる。
「綺麗だよな」
「スタジアムが?」
「うん、この夜の闇の中にぼうっとスタジアムが浮かんでるの結構好きなんだよ」
「わかる。ナイターのあとの帰り道も俺は好きだな、ちょっと寂しいんだけどまだ楽しかった余韻が夜の道いっぱいに漂ってる感じ」
誘導用に建てた柵を解体しながらそんな話が弾む。
「帰り道に一杯飲んでいくのも楽しいよな、まあ今は難しいけどさ」
「このご時世だしね、先輩この後どうするの?」
「キッチンカーの人にお願いして取り置きして貰ったジビエカレー食べながらよその試合のダイジェスト見る」
「取り置きかー、俺も頼めばよかったな。というか先輩んち行っていい?」
「お前は最後まで責任もって撤去と片付けやれよ、ホームゲームだろ」
「そうだけどさー」
畳んだ柵を俺に持たせると「一足先に帰るわ」と言って帰っていく。
ひどいせんぱいだ、と文句の一つも言いたいが仕方がない。今日はホームで勝ち点貰った俺がやろう。
柵を所定の位置まで運ぶために歩いていると少しづつテントは片付けられ、ごみが収集されていき、スタッフたちは片付けの進捗確認に勤しんでいる。
けれどワイルドナイツはこの景色をもうしばらく見れないことが確定していて、新しい舞台に立てなかったレッドスパークスのような奴もいる。

「……この苦労も試合できるからこそ、だよなあ」

柵をもとの場所に戻してちょっと溜息を吐く。
うちに帰れるまでもうひと頑張りだ。

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サンゴリアスとブレイブルーパス。
府中ダービー見てきました。

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悲しいときは肉を食え

神戸の先輩曰く『多少のしんどいことは肉と酒と睡眠で帳消しにできる』という。
そんな言葉のせいか今、俺の手元には焼肉とホットプレートとビールとサラダがある。
ホットプレートはアルカスから借り、肉はスーパーで売っていた一番高い焼き肉用牛肉、二種類のたれに貰い物の岩塩。
白米(炊くのが面倒だった)の代わりに大盛りのサラダ、ビールはよく冷えたプレモル。
「……いただきます」
よく熱したホットプレートには隙間なく肉を並べ、その匂いを肴に酒を飲む。
(出てしまったものは仕方ないって言われてもね)
試合中止へのお詫びの電話の時にスピアーズから言われた慰めがツキンと心に刺さる。
肉をひっくり返しながら向こうの心持ちを想像すると、ただただ自分のふがいなさを恥じるばかりだ。
再び増加傾向に転じた感染者数の数字を見ているとぼんやりとした不安に押しつぶされそうになる。
この先本当に新リーグを進められるのか、多発する問題と困難を切り抜ける方策はないか、そんなことばかり考えてしまう。
肉はしっかり両面に焼き目をつけて、貰い物の岩塩を軽くすりおろして二枚の肉を一口でほうばる。
「……うま」
肉の脂のうま味と赤身のうま味が舌に広がってくる。
ひとくち食べただけで頬が緩むような肉と脂のうま味で、心がふっと食に向けられる。
肉の脂をビールで流し込んで思う切り息を吸い込めばホップの香りが鼻へ抜けていく。
まずはこの肉を美味しく食べる事だけ考えよう、まずはそこからだ。



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ワイルドナイツの話

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素敵か?ホリデイ

「クーリスマスはおーどしーをかーっけてーくるー♪」
「なんやその悲しいホリデイ」
帰り道はクリスマスの色に賑やかな包まれているのにそんなことを歌いだすレッドハリケーンズにおもわずツッコミが漏れた。
「せやかて開幕前の仕事と年内中にやっとかないとアカン仕事に脅される気ぃしません?」
「そういいつつわざわざクリスマスイブに試合ぶち当ててDJ呼んだりしたやん」
クリスマスイブに合わせて行われた最後のプレシーズンマッチ。
そこに妙な気合を入れてイベントやりまくったのはレッドハリケーンズのほうで、俺のほうは大して何もしていない。
(まあ楽しませてもらったけどな!)
楽しい事は良い事だがこういうイベントごとに対するテンションの温度差は俺が歳だからなのか?といつも思う。
「せっかくのクリスマスですし」
「そーいうとこが若い子の発想なんよなあ、俺らそんなにクリスマス特別扱いしいひんもん」
俺の答えにあんまりぴんと来ていないようで「え~?」と首をかしげる。
「俺なんかクリスマスって言われてもそういやそんなんあったな程度やから、脅される感じないわ」
「でもクリスマスが来た!今年が終わるのに全然仕事納まらへん!って感じしません?」
「あー、今年もー……あと7日?やもんな」
指折り日付を数えるとすっかり年の瀬だという事に気づかされる。
という事は新リーグは2週間後か?うわ速い。
「2021年もあと7日って言われるとぞわってするんでやめてもらえます?」
「ま、頑張って仕事納めて正月明けたらラグビーの事だけ考えられるようにしとかんとな?」
「はあい」
イルミネーションとクリスマスカラーに包まれた町は、もうすぐ年越しの色に染まる。
新しい幕が上がるまでもう10日ちょっとだ。



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ライナーズとレッドハリケーンズ

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ミラクルセブンは宇宙を目指す

『JRの車内アナウンスってまたとんでもない企画通しましたよね……』
シャイニングアークスがぽつりとそんなことを言う。
「はちみつ売り出したシャイニングアークスよりは良識的だと思うけどな~」
『どっちもまあまあ突飛だと思うよ』
作業しながら三人でオンライン通話をするのはコロナの流行以降よくやるようになったけど、つい妙な雑談に走ってしまう。
今日のテーマはどうやらこのミラクルセブンの話らしい。
「我孫子や天王台の駅はよく使うし、東葛エリアの動脈である常磐線でアナウンスやれればいい宣伝になるじゃない?」
『それはわかりますけどよくJRを丸め込めたなって話ですよ』
『市原のジェフさんとかもアナウンスはやったことないんじゃない?』
「どーだろーねー、でもミラクルセブンもそれなりに頑張ってお願いしたんだよ?」
『そりゃそうでしょうよ』
「シャイニングアークスもミッ〇ーにユニ着て貰えば?」
『前向きに検討します』
きっぱりと拒絶されたので「ちえーっ」とつぶやいて不機嫌さを出してみても付き合いの長い二人には通じない。
『ディズニーで思ったけどグリーンロケッツの所の新しいマスコットさー、ベイマッ〇スに似てない?』
『脱ぐと新しい顔が出てくるのは謎の魚っぽいですよね』
『ぽいぽい、白くて丸いから洗うのも大変そう』
「ちょっと二人とも好き勝手言わないでよね!ミラクルセブンの最近の頑張りの成果なのに!」
ムキーッと画面越しに怒ってみればスピアーズは『ごめんごめん』とちゃんと詫びてくれる。
『こういう企画はむしろグリーンロケッツのほうが得意ですもんね』
「……スピアーズはともかくシャイニングアークスはいまいち反省してる感じがない気がするけどもういいや」
シャイニングアークスが割と辛辣なこと言うのはいつもの事だし。
それでもこうして暇があれば喋るのは千葉のラグビーを三人で盛り上げていくというたちば的なものもあるけど、結局楽しいという部分もある。
こういうのもツッコミがいなくちゃ面白くないしね。


「かわりに、ミラクルセブンが優勝したら宇宙旅行プレゼントしてよね」

冗談交じりにそう告げると『はいはい』と呆れ気味にシャイニングアークスが返すのだった。

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グリーンロケッツとシャイニングアークスとスピアーズ

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半世紀を踊って歩く

「そういえば50周年だったんですよね」
撤収作業のあとの打ち上げで、イーグルスがさっき気付いたという口ぶりでそう告げた。
いちおう自分の所から出す広報では50周年記念という事は繰り返し告知していたが、イーグルスには言っていなかった気がする。
「言い忘れてた」
「だから今日はここ奢りますよ、誕生日祝いの勝利はあげられなかったですしね」
「イーグルスが先に決めておいていたのはそういう事か」
事前に抑えていたというしゃぶしゃぶ食べ放題の店に連れられたのはそういう事らしい。
アルコール&ソフトドリンク呑み放題の一番高い和牛コースを無断で注文したのも気遣い、というより年の瀬で寒くなる財布の心配のような気もする。
「……まあいい、奢りなら遠慮せず美味しく頂いていくか」
「ええ」
さっそく届いた野菜とつみれを鍋に入れ、最初の一杯を軽く掲げる。
自分はぬるめの日本酒を、イーグルスはオレンジジュースだ。
「誕生日おめでとうございました」
「ああ」
軽く合わせてからぬるめの日本酒で軽く体をほぐす。
「楽しい50年だったな」
「そのうち20年は僕がいた訳ですね」
「ブレイブルーパスさんの背を見つめて、イーグルスに横から追い抜かれて、どんどんラグビー界が賑わっていくのを見つめてきて、
……本当に騒がしい50年だった」
そう呟きながら箸を取って肉をしゃぶしゃぶと湯がき、口に運ぶ。
安いながらも和牛だけあり、悪くない味だ。
「そう思うとまあまあ長く生きられたものだな」
50年、半世紀というのは思ったよりも長い。
レッズやシーウェイブスのように違う生き方を求められる日が、レッドスパークスのようにこの世を去ることを命ぜられる日が、いつか来るかもしれない。
「明日はどうなるか分からないこの時代によく生かしてもらえたものだ」
ラグビー界のみならず産業界はは大変革を迎えている。
自分も家族もその荒海を乗り越えられるのだろうか、傷を負わずに生きて行けるか自信はない。

「何言ってるんですか!
毎日練習して、思いっきりラグビーして、試合後に美味しいもの食べて、たまに一緒に代表の試合見て大はしゃぎして、選手とファンと家族と手をつなぎながら愉快にしてたら50年なんて一瞬ですよ!」

最後に弱気で「……ブラックラムズ先輩の受け売りですけど」と付け足したイーグルスに、ふっと小さく笑みが漏れた。
「50年後も同じ舞台でラグビーしてくれるか?」
「もちろん!」


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ダイナボアーズとイーグルス。
50周年おめでとうございます!

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