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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

敵に牡蠣を送る

今日、岩手から箱いっぱいの牡蠣が届いた。
送り主である釜石シーウェイブスからは一緒に手紙も同封され、せっかくなので今日は牡蠣鍋にしようと思う。
粉末出汁を溶かしたお湯に味噌を溶かし入れ、地元産白菜やニンジンを牡蠣のむき身と一緒に鍋に入れて蓋をする。
そうして煮えるまで手紙に目を通すことにした。
三菱重工相模原ダイナボアーズへ、という書き出しから始まる丁寧な文体の手紙からは微かにインクのにおいがする。

冬も盛りの二月、随分と寒くなってまいりました。お風邪を召されたりなどしておりませんでしょうか。
先日Twitterで自分たちを『見習いたい良きライバル』と呼んでくれた喜びを140文字に詰め込むことが出来ず、こうして久しぶりに筆を執った次第です。
最初に対面してもう20年は経っているはずですが未だこうして上に行くことも出来ないままで足掻き続ける自分を、ライバルと呼んでくれることが時にひどく面映ゆく思える事があります。
それはきっと自分のコンプレックスという奴なのでしょう。
ライバルだとダイナボアーズに認められたとき、そのコンプレックスからひととき解放された気がするのです。
親会社の元から離れざるを得ない状況に陥り、資金力のなさに苦しみ、東北の冷たい風雪に打たれながら、それでもラグビーをしている釜石シーウェイブスを尊敬すると言って貰えることが俺は心から嬉しく思えたのです。
このラグビーボールを抱きしめて張りる事だけを考える日々をあと何年続けられるかという不安はきっと互いに抱き続けるものだろうと思いますが、それでもともに前を向こうと告げてくれることが心底頼もしく思います。
まだラグビーの季節は続きます、どうか何事もなく過ごせるようにという祈りを込めて三陸の冬の名物・牡蠣も一緒に贈ります。
次は釜石のあの美しい空を望むスタジアムで会いましょう。
釜石シーウェイブス

便せん二枚に綴られた丁寧な筆致の手紙を読み返し、その心持ちの温かさに心が緩む。
「……釜石に行くのが楽しみになったな」
次に会うときは三陸の焼き牡蠣を食べよう。
親愛なるライバルからの贈り物でこの寒々しい雪の夜を超えた話を酒の肴にして。


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ダイナボアーズとシーウェイブス

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最高のライバルと最高のゲームを

久しぶりのサンゴリアスからの電話は俺にある頼み事をするためのものだった。
「サンゴリアスのファンクラブ向け先行販売?」
『そう。今度お前とやる試合の会場熊谷だからさ、うちから遠征に行きたい人向けに枠確保して貰えないかと思って』
「うちのファンクラブ優先枠か一般枠削ってお前のファンクラブ用に確保して先行販売か」
まん延防止措置の関係で収容数には限界があるから、サンゴリアスファン向け優先枠を作るという事はそのどちらかを削るという事にもなる。
府中から熊谷なら日帰り範囲内だから来てくれるお客さんも多いだろう。集客を増やすためにもプラスに働くだろう。
(そうなるとどこを削るかって話になりそうなのがなあ)
正直に言えば自分のファンクラブの枠は削りたくないので引き受けないという選択肢もある。

『きつい頼みかもしんないけど、お前とのゲームはひとりでも多くの人に直接見て欲しいんだよ』

サンゴリアスの電話越しの声は悲痛にも響いた。
確かにそれは分かる。互いの死力を尽くすギリギリのゲームの楽しさ、美しさを多くの人に見て欲しい気持ちは俺にだってあるのだ。
『なあ、頼むよ。一番のライバルだって、そう思ってくれてるならさ』
サンゴリアスのその痛切な言葉心を揺さぶってくる。
「……分かった、サンゴリアスのファンクラブ向け優先枠が確保できるか相談してみるよ」
『ありがとう、いい返事が来るのを待ってる』
「あとで書類送ってもらえると助かる、どのぐらいあればいいかとか分かんないし」
『了解、即作って送るわ!』
電話が切れると何だか嬉しいような面はゆいような気分で受話器を置いた。
サンゴリアスが俺を一番のライバルだと思ってくれていることが、俺との試合が一番見て欲しいゲームだと思っていることが、こんなにも嬉しいなんて知りようがない。
「希望の席数用意できるといいんだけど」
そう呟きながらいつものスタジアムの図面を広げて、どんな風に席数を用意するか考えてみたりするのだった。



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ワイルドナイツとサンゴリアス

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きみの記憶になれたなら

その封筒は正月の朝に届いた。
送り主は年の終わりとともに一人でこの世界を去った長身の友人で、小さいながら荷物も入っていた。
その封筒を開けたときに入っていたのは便せん3枚の手紙と、赤い布で出来た小物が二種類。
三枚目の便せんにはそれが自分の所に残っていたユニフォームやタオルで作った手作りの布ブレスレットとリストバンドだと書いてあった。
「……あいつもよく考えよる」
ゴムのないリストバンドをマジックテープで止めてみるとちょうどいい。
もう一つのブレスレットは別の時につけよう、と思って封筒に入れて机の奥にしまい込んだ。
『そんなん俺貰っとらんよ?!』
液晶越しにそう叫んだキューデンヴォルテクス先輩のせいで耳がキーンとした。
「オンライン越しいうてもデカい声はちょっと」
『あいつ……何なん……』
「うちで引き取った選手が多いんでその礼だって」
『俺にも形見分け言うて色々くれたけど手作りの品は貰ってないし』
ああ、そういう事か。言うなれば隣人としてのやきもちみたいなもの。
「先輩は何貰いよったとですか」
『あー……昔チームで売ってたとかいう赤いシュシュとか文房具とかシェイカーとかいろいろ』
「それがあいつなりの形見分けやったっちゃないんですか?」
置いていった男の気持ちは分からないけれど、忘れずにおくことは出来る。


(……まったく)

もう肌身離せなくなった赤いリストバンドに「余計な問題増やすなっちゃ」とつぶやいた。

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ブルースとキューデンヴォルテクス

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未来のために灯をともせ

マスクをつけて日の出前の薄暗いグラウンドの真ん中に段ボールを敷いて腰を下ろす。
「午前5時36分、あと10分ちょっとね」
段ボールに腰を下ろした姐さんがスマートフォンを確認する。
今年は久しぶりに二人でゆっくり話すのも兼ねて俺と姐さんのふたりで小さな集いを行う事にした。
「……あの時、うちのグラウンドほんと酷かったですね」
「液状化でボコボコになってたものね、何もできなくてごめんなさい」
「ええんですよ。あの後ジュビ……やのうて今はブルーレヴズか。あいつが静岡に呼んで練習場所貸してくれましたからね」
あの時の事はよく覚えている。
喜びに浮かれていた俺の心が恐怖に凍った一瞬で地獄のようになった街の景色を。
姐さんがなぜ歩けるのか不思議なぐらいに傷つきながら歩いていた背中を。
ボロボロになって歩けなくなった兄弟の事も。

「全部、忘れませんよ」

思ったよりもすぐに四半世紀が過ぎて、今ではあの日まだ生まれていなかった選手がリーグのほとんどを占めるようになった。
「そうね」
竹ろうそくの代わりに用意したろうそく型のLEDがゆらゆら揺れている。
いのちという奴は儚い、人間も俺たちもみなろうそくが消えるように一瞬で去っていく。
けれどその火が見せる灯は確かに俺たちを安心させてくれる。
「せやからラグビーで神戸のみんなを喜ばせられるってあの時心底分かった」
「私も仕事してラグビー見てあなたと話せる幸せを、忘れちゃいけないと17日が来ると思うのよ」
失ったものを数えるなと言った海外の偉い人がいたが、失ったとしても少しでも取り戻せないかと今でももがいている。
あのときは傷ついた景色とこころ・今は自由に声援をあげられるスタジアムを、取り戻すためにみんなで足掻いている。
「ちょっと曲かけても?」
「いいわよ」
今年のシーズンムービーに使ったバンドの曲をスマホから流す。
四つ打ちのリズムで歌われるどこか憂鬱な気持ちと、それでも未来を信じる言葉。
「姐さん今度のホームゲーム来てくださいね」
「心の復興支援チケットは対象外だけどね」
冗談交じりに姉さんが笑う。
姐さんはラグビーを見に来てくれて、俺は見に来てくれてる皆の応援を背負って走る。
それがこんなにも幸福なことだと思いだす。
朝焼け前の街に希望のトーチソングが響いている。


*おまけ:グリーンロケッツとスティーラーズ
『俺の動画に何で反応してくれたん?』
お昼休みにスマホを見たらスティーラーズからの短いメッセージが届いてた。
(今日あげてたあの動画のことだよね)
きのうのトンガの噴火で思うところがありすぎた、というのもあるけれど見たときに刺さった言葉があったからだ。
≪ラグビーに傷や、悲しみをなくすことはできない≫
≪だけど、痛みを分かち合うことは出来る≫
昨日今日と俺たちは痛みを分かち合う日になっていて、だからこそ刺さったのかもしれない。
なので俺の返事はこうだ。
『一緒に想う日だったからかな』

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スティーラーズと神戸ネキのはなし。
今日もこの日が来ましたね……今年の動画もすごくいいので見てね……。

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最近のあれこれ話

*小ネタ詰め合わせ

・厄払いに行きたい(ブルーレヴズ)
「開幕したのに全然試合が出来ない……」
コロナによる試合中止のお詫びメールを送信すると気分が落ち込む。
ましてそれが続くと気分が落ち込み過ぎて悲しくなる。
スマホを開くと兄さんやヴェルブリッツさんから心配のメッセージが届き、ちょっと申し訳ない気分になる。
(……俺のせいなのかな)
何が至らなかったのかとずっとうじうじ悩んでしまい、身体にカビでも生えそうだ。
「いや、やめよう。来週こそ試合ができるはず!たぶん!」
そうなるようにどこかの神社に御祈願に行こう、厄を落として晴れやかに次の試合を迎えるのだ。

・赤い電車(レッドハリケーンズ+ライナーズ)
「我ながらこんだけ真赤に出来ると気分アガるわー」
「ホンマやなあ」
久しぶりに大阪の町中まで出たら、レッドハリケーンズにジャックされたエキナカを連れまわされることになった。
期間限定とはいえ地元の地下鉄と大々的にコラボできるのは強い。
「よくこんな予算ひねり出したなあ」
「スポンサーさんとうちの親のお陰です~」
どや顔のレッドハリケーンズにちょっとほっこりしてしまう。
(うちの親も東花園の駅こんぐらい弄る許可出してくれれば面白いけどなあ)
俺もそのうちこういう企画書出してみてもええかなあ。
「あ、レッドハリケーンズ電車もうすぐ来るって!乗りましょ!」
暗いニュースの多い今日この頃においても楽しそうな後輩はいいものだ。

・真黒に染まる(ブラックラムズ)
新しい企画の提案書ひとつひとつに目を通すと心がワクワクする。
自分のために周囲が頑張ってくれている喜び、新しい企画への興奮、そしてそれが出来るという喜び。
「ドキュメンタリー番組に、駅広告の増量、地元の新成人招待、駒沢での交流イベントに、公式の漫画連載……未だ我々にもやれる事が有ると云うのは嬉しいものだな」
黒と羊に染まる街並みを想像するだけで頬が緩む。
まだ我らはメジャースポーツへ向かう道の途上、やれる事は無限大だ。
「もう少し頑張るか」

・青とオレンジの交わる場所で(シャイニングアークス+スピアーズ)
『ハーフタイム抽選会の景品多すぎない?』
「良いじゃないですか、せっかくの千葉ダービーですよ?」
打ち合わせの途中でスピアーズが呆れ気味に零した一言に思わず言い返す。
「秩父宮は全席指定で場所もいいんですから少しでも行こうと思えるような仕掛けづくりをしていきたいと思って企画したんです」
『企画力で負けた感がすごい……というか俺も佃煮欲しい……』
「この間味見で頂いた詰め合わせセットの残りで良ければ持って行きますよ」
『海苔の佃煮!あと地元産板海苔も!』
「はいはい」
他愛もない話をしながらラグビーの事を考えられるのは幸福だ。
「あ、お返しは勝ち点で良いですよ」『それは無理』

・うどん屋にて(ブルース+キューデンヴォルテクス)
「また大変なことになりよったなあ」
仕事で立ち寄った博多の街でキューデン先輩が飯を奢ってくれることになった。
「大変なこと?」
「division3開幕戦消えたと思ったら広島は緊急事態宣言出るし福岡も増えてきたしな」
「ああ……でもおい達は出来る事ばやるしか出来んでしょう」
ファインティングブルズやレッドスパークスは見る事も出来なかった新しい世界にいて、その世界は未だ苦境の中でもがいいている。
「生きて居なけりゃもがくことも出来んですからね」
「ホントになあ」

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