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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

梅が咲いたら君の季節

「まあ、そう言うことだから」
「……そういう事ってレベルなの、これ」
自宅のこたつで寝転がっていたところに突撃していくつかの書類と説明をまくしたてて来た水戸に小さく不満を漏らす。
「土浦だってこれ今年で二年目だしもう慣れたでしょ?」
JR東日本水戸支社が主催する人気ソーシャルゲームとのコラボスタンプラリーは今回で二度目だけれど、今回はわざわざ土浦駅の看板にキャラクターのシールを張るという気合の入れようだ。
水戸駅に至っては駅のそこかしこに立て看板を置いたり駅の案内放送を俳優さんにお願いするという。
「やるなら徹底的にしなくちゃね、それに燭台切さんかっこいいじゃん」
このコラボのきっかけになった水戸徳川の刀剣をモチーフにしたキャラの名前を挙げて嬉々としている。
「梅の季節はとうらぶコラボの季節って認知されるぐらいにしたいよね!」
「……ついでにうちの博物館でやる土屋家の刀剣展のアピールもしといてよ」
「気が向いたらね。じゃ、あと取手のところにも説明してくるから」
そう言ってさらりとうちを出て行った県庁所在地を静かににらみつけるしか出来ないのだった。




土浦と水戸。今年もとうらぶコラボの季節が来たよ。

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あの日彼女は希望だった話

「小倉さん、お客さんが喫煙所に来てますよ」
「……喫煙所?」
「小倉さんに会いに来たって言うんですけど、小倉さんなら戸畑の本部事務所にいるって言ったら煙草吸って待ってるから来たら伝えるようにとって言って喫煙所行っちゃったんです」
顔馴染みの職員の様子からして、大方あいつだろうと予想がつく。
やれやれという面持ちで溜息を一つ漏らして「喫煙所行ってくるけん、後は頼んだ」と注げて喫煙所に向かう。
灰皿とベンチだけの喫煙所で新聞片手に座り込んでいたのは予想通りの相手だった。
「よう、久しぶり」
「……やっぱ此花か」
「やっぱって何さ」
「喫煙所で俺を待つ奴なんてお前しか知らん」
「あー、和歌山はいまは吸わないし八幡は煙草呑みだけど人を待つときに煙草は飲まないもんなあ……消去法的にあたしか」
納得したように此花が頷く。
せっかくなので俺の方も一服しようかと煙草に火を灯した。
「……お前さ、八幡や戸畑と一緒にされた事まだ恨んでるか」
「今更な話っちゃ」
「そうだけどお前をうちに迎え入れるとき言った事裏切っちまったなあって」
「『お前に世界を取らせてやる』……か」
「世界どころか日本一も取れなかったしなあ」
住友金属が新日本製鉄と合併した時、住金は国内3番手だった。
他にもあの合併では色々あったので此花なりに思うところがあるのだろうという事は常々感じていた。
「……和歌山がシームレスパイプの技術力で世界に認められとる、それで一応世界を取るって話は果たしたと思っとった」
「お前さんがそう思ってくれてるなら良かった」
此花は本気で世界を取りたかったのか、と今更ながら思い知らされる。
『八幡製鉄もUSスチールも、全部なぎ倒して世界を取る』
そう大ぼらを吹いた此花の手を取ったのは俺自身の意志だった。
浅野の旦那も安田さんもいないが、此花が俺を必要とした。ならばこの女と生きてやろうと、心から思って手を取った。




(やっぱり、あの日この女の手を取った俺は何ひとつ間違いじゃなかったな)


此花と小倉

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関西女子とショコラな話

『今年のバレンタインチョコ、届いたかしら?』
「届いたから電話してるんだよ」
『あらそう』
小さな箱には手作りのチョコレートケーキが2切れとホットチョコレートスプーン(金属製のスプーンの先にチョコレートがついている奴だ)が1つ。
神戸からのバレンタインプレゼントである。
「にしても2切れって他の奴にも配ったのかい?」
『もちろんよ、6号サイズで3ホールも焼いたのよ』
「……にしても神戸が料理って全然イメージ無いよねえ」
『随分な言い草ね、一度あなたに教えたじゃない。トルタ・カプレーゼの焼き方』
神戸は今は仕事のほとんどを加古川に譲っており(代表権だけは移していないようだが)生活においても加古川の方が何かと神戸の世話を焼いている印象があるが、言われて思い出した。

それはまだ、西宮と葺合が阪神製造所と呼ばれて一緒に暮らしていた頃の話だ。
「葺合にバレンタインのチョコを贈りたいと思うんだけど」
神戸の家でのいつものお茶会の最中、西宮が少し前からはやり始めたイベント名をあげると、神戸が「いいわね」とほほ笑んだ。
「バレンタインねえ……別に無理に流行に乗らなくても良いんじゃない?」
「別にそう言うんじゃなくて私がやってみたいなあって思っただけで!」
どこか慌てたように早口で色々と口走るけれど、要は年度末で忙しい時期ではあるものの大好きな葺合と恋人らしいことが出来たらという新婚らしい願望であった。
「まあ西宮がやりたいならやればいいよ」
「此花、あなた西宮の夫みたいなこと言うわね……」
「素直な感想口走っただけだよ」
神戸がチョコレートタルトの作り方を教えると言い出してそのまま台所へと連れて行かれ、ついでに加古川も参戦してのお菓子教室が始まったのである。
「イタリアのカプリ島って知ってる?」
「名前くらいはいちおう知ってるけど……なんで?」
「その島のお菓子でトルタ・カプレーゼって言うのがあってね、それがすごく美味しくて簡単なのよ。少し前に三宮のイタリアンで食べたんだけれど、すごく美味しかったからお店の人にレシピを聞いて最近よく作ってるのよ」
確認の目線を加古川に向けるとこくりと深く頷いた。
少しげんなりしてるようなのでもしかしたら、神戸と一緒にずっと一緒に食べているのかもしれない。少しだけ加古川には同情した。
西宮の方はグルメな神戸がお気に入りという時点で興味が惹かれるらしく、さっそく適当なチラシの裏紙とペンを準備して作る気満々だ。
嬉々として作り方を説明する神戸とそれを興味津々で記録する西宮に、私と加古川は少しのため息を漏らした。
「……姉さん、一度ハマるとずっとそれを作り続けるんですよね」
「なんか分かる気がする」
「最近トルタ・カプレーゼが常備されてることが多くて正直しばらくチョコレートケーキは要らない気分なんですよね」
「まあ本人たちが楽しそうだと止められないしなあ」
「そうなんですよね」
きゃっきゃと言いながらアーモンドとチョコレートで作るトルタ・カプレーゼを焼き上げ、後日葺合がバレンタインとは何ぞやと私に聞いてきたんだったか。

そして、現在。
「……まさかこれトルタ・カプレーゼ?!」
『今年は普通のチョコレートケーキよ、加古川の希望でね』
「そうかい、まあいいや。神戸、happy St. Valentine's Day!」
『Same to you!(あなたもね!)』




神戸と此花と西宮のバレンタイン話。
関西女子トリオにはキャッキャして欲しさある

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便りは来ない

目が覚めて一番最初に目に入ったのはいつもつけているお守りと黒い石。
いつも寝るときは枕元に置いているのだから当然と言えば当然のことだろう。
ピンと張りつめた冬の朝の空気に抗ってお守りと黒い石を首に飾る。
おはようさん、と囁くような筑豊訛りが響く。
「……配炭か」
この声は半世紀以上前に死んだ友人の声であった。
そう言えばこの石は彼が死んだときに形見として拾った石炭のかけらであったことを思い出す。
半世紀という月日の中で朧気になっていく友人を忘れるのが恐ろしくてこうしてあの日拾った石炭をネックレスにしたのだ、それすらも忘れてしまうとはつくづく嫌になる。
彼の元にいた選手数名がうちに来たとき、彼の記憶や声の一部がこちらに移されたらしく時折こうして彼の声を聴くことがあった。それも記憶にある限りここ5年ぐらいは聞いた記憶が無かった。
頭の中の掠れた断片的な記憶が再生させているものなのか、それともそれ以外の何かなのか。それすら判別がつかない。
彼のことを忘れるべきじゃない、と小さく自分に言い聞かせて布団から出ていく。
この石の意味すら忘れてしまったら、きっと君のことはどこにも残らなくなってしまうから。



キューデン先輩の話。

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世界の日差しが落ちる頃10

ファインティングブルが去ったのは3月も終わりの日だった。
周囲への挨拶を済ませて、ぶらぶらと三宮を散歩をしていた。
「桜見にまた行けたら良かったなあ」
「そういや昔行ったもんなあ、ライナーズとレッドハリケーンとお前と俺で」
ようやく梅が見ごろになった神戸に桜の気配は遠く、もう見ることが出来ないのだと思うという事は分かっていた。
街は夕焼けのオレンジから夜のとばりへと移り変わって行く。
さっと背筋を冷たい気配がした。
「死神が来よったみたいです」
ぽつりとファインティングブルが告げた。
俺には見えない何かが見えているのだろうか。
「……こっち来ないでくださいね」
その言葉の意味は分かっていた。
日暮れにファインティングブルの身体は溶けるように消えてく。
「ああ、」
太陽が沈むように、彼はどこかへ去ったのだ。

****

『……ほんと、この世はままならん事ばかりやわ』
電話越しにライナーズが呟いた。
見慣れたグラウンドの芝生の上にはいつものように秋晴れが続いている。
『親の都合で生まれ、他所へ移され、切り捨てられる。これ以上に寂しい事はあらへん』
「ほんとにな」
『でも僕らは親のおかげで生きられるんやから皮肉なもんやね、独立採算なんてしたら速攻赤字で死んでまう』
この国においてラグビーは現在のところ人気種目とは言えないのが現状だ。
トップリーグの観客動員は1万人を超えることは皆無で、平均動員ではJリーグに負けている。
ラグビー専用スタジアムも老朽化の著しい秩父宮と現在改修中の花園ぐらいしかなく、いま建設中の釜石のスタジアムは聞いた話だとラグビー専用にはならないらしい。
ワールドカップに向けての機運醸成についても上手くいっているとは正直あまり感じられない。
「独立採算で、自分の手で必死に生きようとして、それでもダメだったら諦めつくんかな」
『……どうなんやろうな』





自分の生き死にをかけた努力すらさせてもらえずに死ぬことの非業さを知っている。

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