『うちのグラウンドの枇杷が豊作だからコンポートを作ったんだが、ちょっと量が多いんで良かったら一つ貰ってくれないか?』
ブラックラムズ先輩からそんな電話が来たので、本社からの帰り道に先輩のところに顔を出すことにした。
二子玉川の駅を一歩出れば湿気が纏わりついてひどく蒸し暑く、梅雨の晴れ間の日差しが肌に突き刺さるように暑い。
「来て貰って悪いな」
先輩の暮らす部屋を訪ねるとモノクロでスタイリッシュな部屋の雰囲気にそぐわない枇杷の葉っぱが山のように積まれている。
「この葉っぱは何にするんですか?」
「枇杷の葉を乾燥させてお茶にしたり焼酎に漬け込むんだ、親が割と好きなんで毎年剪定した時に出た葉っぱで作ってるんだが此の光景を見せては居なかったか」
「先輩のところのグラウンドに枇杷の木があるのは知ってましたけどね」
枇杷の葉は新鮮な青い香りがしてグラウンドの芝の匂いに少し似て心地よく、その香りを嗅ぎながら作業する先輩の顔を眺めるのは退屈しない。
葉っぱと枝を分けて、使い古しのタオルで枇杷の葉っぱを綺麗に拭く。ただそれだけの単純作業だ。
やがて先輩は葉っぱを全て干し網に並べて外に干して行く。
「此れで良し、と。待たせて悪いな」
「お気になさらず。今日はもう仕事終わってるのでゆっくり帰っても怒られませんから」
「其れならば良いんだがな」
冷蔵庫からタッパーに入れられたコンポートが出てきて、それを薄いビニールに入れて渡してくる。
明るいオレンジの果肉は夏によく映える色味だ。
「じゃあ、先輩の手料理うちでおいしく楽しみますね」
僕がそんな風に笑うと「そうだな」と先輩も穏やかに微笑んだ。
------
イーグルスとブラックラムズ。
ブラックラムズのグラウンドに枇杷の木があるという話をTwitterで見たので。