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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

偶像(アイドル)の妄執

俺が子どもだった頃の一番古い記憶は、色んな人が俺のところを去っていく姿だった。
砂丘と海と神社しかない退屈な街を去っていく人の多さが確かに俺の記憶にこびりついている。
此花は『お前のせいじゃないさ』と慰めてくれ、和歌山も去ろうとする仲間を引き留めようと苦心してくれた。
でもこれは俺の問題であるのだから自分でどうにかしないといけないと言う気持ちが俺の中には確かにあったのだ。
そんな時、ふと目についたのが当時隆盛を極めていたアイドルを追っかけてあらゆるところに現れる人々だった。
美しい歌声や相貌に魅了された人々は、テレビ局の前から自宅(当時は結構そう言う情報が出てたから)まで追いかけ回してその人の全てを知ろうとしていた。
「ねえ、俺もジュリーみたいになればみんな好きになってくれるかな?」
「お前はもう既にジュリー顔負けの美少年だと思うけどねえ」
此花は呆れながらそう答える。
「違うよ、ジュリーみたいに俺がみんなを魅了する存在になればここに残ってくれるかなって」
此花は驚いたように俺の顔を見てから、少し宙を見て考えた。
そうして考えてから「そうか」とつぶやく。
「和歌山もお前のところの職員がすぐいなくなる問題については悩んでるし、うちからも今度部活をそっちに移そうか考えてるが、お前自身が努力しなくていい訳じゃないよな」
俺がこくこくと頷く。
最高に愛される俺にさえなれば、みんなここにいてくれる。
今となっては妄執のようなその思いは今も俺の中にハッキリと残っているんだ。


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鹿島の昔話。偶像と書いてアイドルと読んでください。

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これは「好き」のはなし

*直江津が住金に来た直後ぐらいのお話

直江津はうちに統合される前から感情や欲求が希薄で、いつも淡々とした印象がある。
何が好きとかこうしたいって言う発言がほぼゼロみたいなタイプだったのでちょっと特殊なタイプでもある。
なので時々直江津が楽しそうにしてるのを見ると俺もその対象に目を向けて見たりする。
すると自分の作った製品が使われているのを日がな一日眺めたり、チタンに処理をして美しい色を作ることに妙な情熱を燃やしていたり。
要するに仕事が好きなのだなあという感想しか抱けなかったりするのである。
「直江津って仕事が好きなんだねえ」
「……好き?」
そう言って理解しがたいと言いたげに俺を見る。
「俺にはそういう風に見えるって話」
「そもそも仕事に対して感情が付随してたのか」
「え、まさか俺たちには感情ないと思ってたの?」
「だって必要ないだろう」
直江津がしれっとそう答えたので、俺たちの間には随分齟齬があったことに気づく。
というか俺や八幡さんとかにも感情がなかったらもっとコミュニケーションは円滑だったと思うんだけどな~~~~~~~!!!!!!!(俺の心の叫び)
でも確かに製鉄所の神様として祀られてる俺たちには本来感情は不要だ、というのは分かる。
神様なら神様らしく黙って人間の営みを見守ってあげればいいのに、感情や欲求を持って周囲の職員や関係者と日々わいわいやっている訳だ。
「少なくとも俺や此花にはあるはずだよ、感情」
「そうだったのか」
意外そうに直江津が呟いた。
「そうじゃなきゃ俺は海南を愛したりしないもの」
俺のその言葉に直江津はそれもそうかという風に頷く。
好きとか愛するとかが不必要だとするなら、製鉄所を動かすのに必要な物って何だろう?
脳裏に浮かんだ疑問に対してある冷たい答えが出る。
「そもそも俺たち自身が不要な物なのかもしれないね」
製鉄所を生み出したのは人間だ。
その人間たちは分担して健全に操業・管理ができるはずで、俺たちが手助けせずとも円滑に機械を動かしてその役割を全うできるはずなのだ。
「不要なのに在るのか」
「根本的にはね。でも俺たちがいることで職員は余裕を持てるでしょ」
「……不必要と余裕は紙一重か。その余裕のために感情があり、感情があるために好きや愛があるのか」
「たぶんね」
「俺には感情という余裕がないのか」
「余裕は余裕だよ、無いことが悪なわけじゃない」
直江津は感情や欲求が希薄で、いつも淡々とした印象がある。
けれどそれもまた直江津という個を構成する一部なのだ。

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和歌山と直江津。

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雪降れば君たちの温もり

1950年代のある冬の日。
日本海側で大雪になった理由を天気予報士が解説しているラジオを聞いていた葺合が、ふとラジオを止めた。
「どうかしたの?」
「少し電話してくる」
そう言って黒電話をジーコジーコと回してから、「もしもし」とゆっくり口を開けた。
「久慈、そちらの雪は大丈夫か」
その名前を聞いてなるほどと腑に落ちた。
うちで唯一砂鉄精錬を行う久慈のにいさまの住む三陸の北端の様子が心配になったのだ。
「うん、かんてん?……ああ、半纏、半纏が欲しいのか。西宮」
「えっ」
「久慈が半纏を寄こしてほしいらしい」
そう言って黒電話の受話器を私に寄こしてきたので、それを受け取ると『もしもし?』と久慈のにいさまの声がした。
「お久しぶりです、久慈のにいさま」
『ひさしぶり。さっき葺合君にも頼んだのだけれどこちらに半纏を4着ほど送ってほしいんだ。
この寒さで暖房の効きが悪くて事務方の人たちが寒そうにしてるものだから、少しでも暖かくしてもらおうと思ってね』
「久慈のにいさまは半纏使わないんですか?」
『ぼくは別に平気、材料費は明後日にでも送るよ』
いつもの口ぶりでにいさまは平気と笑うけれど、あちらはずいぶんと寒かろう。
過剰なほどの遠慮は久慈のにいさまの悪癖だという事はよく知っているから一枚多く寄こすことにしよう。
「そんな材料費なんて」
すると葺合が私の持っていた受話器を掴んで「それくらいなら俺の個人的な金で出す、親父さんも少しは出してくれるだろうし心配はするな」と告げて私に受話器を返した。
『……葺合がそう言うならそうさせてもらうよ。男物の半纏を4枚、お願いするね』
縫い物はさほど得意ではないけれどこの間神戸さんからミシンを譲ってもらったばかりだ。
葺合にはしばらく夕食を外で食事を済ませてもらうようにお願いして、仕事終わりから寝るまでの時間を半纏づくりに当てればすぐに用意できるはずだ。
「わかりました、大人の男性用のものをお送りしますね」
『ありがとう、西宮』
久慈が安堵の声色でそう告げるので「お互い様です」と答える。
うちの鉄の品質は久慈のにいさまが作った砂鉄銑によるところも大きいし、なにより尊敬できるにいさまなのだ。それぐらい苦ではない。
そうして作った半纏を、兄さまは終生大事に着てくれた。それだけで十分だった。


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西宮と葺合と久慈。

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彼は俺たちを愛さない

※これは「君に還る日のために」2話のころの堺と君津です。
先に「君に還る日のために」「太陽が昇る海」を読まないと少々わかりづらい可能性があります。ご了承ください。


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初恋をした日の話

まだ南陽と呼ばれていた時の周南と出会った時、既に周南は女物の服を着て女の子のように振る舞っていた。
最初一目見た時は女の子だと思っていたが、あちらには女の服を着て女のように振る舞う末っ子がいると噂には聞いていたのでこの子がそうなのだと気付いたときは正直少しショックなくらいだった。
「僕が南陽製造所だよ、よろしくね」
花が咲いたような笑顔と共にその手を伸ばす彼(と呼ぶべきなのか未だ判別できない)はまるでテレビで見るアイドルのようであった。
しかしこの美少女が男の子であるという事実に眩暈を感じると同時に、その可愛らしさや美しさにドキドキしたのも事実でひどく心が高鳴った。
完全なる一目惚れだった。
「呉、挨拶」
見惚れていた自分に兄がそうつつくので「呉製鉄所です」と告げると、白く細いながらも仕事をするものらしい骨っぽさのある手を差し出してきて僕らは握手をした。

***

結婚しようか、と言う話になったのはそれからわりあいすぐの話だった。
「……えっ?」
「だって、僕らもうすぐ同じ会社になるし僕も呉とならきっと楽しく生きていけると思ったから」
実にけろりとした顔でそう言ってくるので、バクバクする心臓をぎゅっと抑えた。
こんな事がずっと続いたら死んでしまう!そんな気持ちの方が大きかった。


「呉、僕ら二人でどこまでも続く青い海の果てを見にいこう」

この新会社を発案したのは八幡さんだけれど、ともに青い海の果てを目指すことを選んだのは兄さんと桜島さんで、それについていくだけだと思っていた。
けれど、本当は違うのだ。兄さんや桜島さんをあの青い海の果てに連れて行くのは自分の役割で、その相棒になるのが今この目の前にいる南陽なのだと分かったとき選ぶ答えは一つしかなかった。



「この長い航海を南陽が支えてくれるなら、どこまでも」


呉と周南の馴れ初め。前半はお蔵入りにしたお話からだけどもしかしたらまた引っぱり出すかもしれない。

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