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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

ガラスペンに愛を

青いガラスペンを頂いた。
透き通った空を固めたようなガラスペンを熊本さんがプレゼントしてくれたのだ。
「で俺を巻き込むんです?」
「お礼状どうしようか決まらなくて……鯖江はどう思う?」
「好きなの贈ればいいじゃないですか、熊本さんもそれが一番お望みだと思いますけど」
「それでもせっかくなら素敵なのが良いでしょう?」
「まあそうですけどね」
ああだこうだと言いあいながら結局買ったのは絵葉書を一枚こっきり。
冬の名残りの残る街から、春の足音が響きだす街へどんな思いを込めて贈ろうか?





フォロワさんへのお祝いに書いた熊本福井のはずがただの鯖江+福井になった。

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今宵は帰れない

窓の外の雪は夜になっても止む気配を見せず、思わず深いため息が漏れた。
県内各地の雪情報を見返すとどこもかしこも雪で立ち往生というひどい有様で、雪による死者の報告も出ていた。
「夜ご飯出来ましたよーっと」
「ありがとう、鯖江」
電子レンジのごはんに肉野菜炒めを乗せただけの簡素な食事ではあったが、こんな日は暖かいものが食べられるだけありがたい。
「にしてもこんなに雪降るの56豪雪以来なんでしたっけね」
「そうらしいわね、とにかく被害を最小限にってことで考えなくちゃ」
「うちの県庁所在地様はほんとにまじめで……ま、俺もいるんで仮眠とってきてくださいよ」
「鯖江が気にしなくても平気だから」
「気にするんですー」
そう言って寝袋を押し付けられると「食べ終わったら少し仮眠しておくわ」と伝えておいた。





福井と鯖江と大雪の話。

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あの娘の白い傘

福井はいつも年代物の白い傘を使っている。
年代物だというのに汚れの薄いそれは薄曇りの街ではよく目立った。
「まだあの白い傘使ってるんだ」
「気に入ってるのよ」
福井はふふっと汚れなき笑みをこぼして言う。
その傘は結城さんが買ってあげたものであることを俺は知っている。
ぱっと傘を開いて玄関を出る彼女を追いかけて俺もビニール傘を開いて後ろについていく。
街は冷たい冬の雨に打たれ、泥と混ざった雪が道路をぐしゃぐしゃにしていて、ただでさえ薄曇りの空をさらに暗い色に染め上げている。
そのなかであってもあの白い傘は特別華やかに生えた。
「鯖江、」
「……そこ曲がるとこでしたっけ」
「こっちに新しいコンビニが出来たから、近道しようと思って」
細い路地裏に入ると、白い傘は砂漠に咲く花のように目立った。


(……果たして結城さんはそこまで考えて福井にこの傘をあげたのだろうか)

ぼんやりとその後ろを歩きながら考える、ある冬の夕暮れ。


鯖江と福井。

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雪と柚子湯

「うん、今日はそう言うことだから……うん、お願いするね。それじゃあ」
電話を切ると買い物に出ていた福井ちゃんが帰って来ていた。
「春江、坂井には言い訳ついた?」
「いちおうね」
今日は久しぶりに福井ちゃんの家にお泊りすることにした。
夕方から降り出した雪のせいで帰るのが億劫になってしまったというのが一番大きな理由だけれど、ただ単に久しぶりに友達の家に泊まりたかったというのもあった。
こうやって泊まるのなんて何年振りだろう。
「夕食作っておくから、お風呂洗って沸かしてくれる?」
「了解」
気の置けない女友達と過ごす冬は嫌いじゃない。
「ああ、あとこれ」
そう言って渡されたのは小さなビニール袋。
隙間からは柑橘の爽やかな匂いと凹凸のある黄色くて真ん丸なもの。
「柚子?」
「今日は冬至だから柚子をね」
「……そっか、今日だっけ。うん、お風呂沸かすときにいっしょに入れておくね」
かさりと揺れるビニールから柑橘の匂い。
普段は入浴剤なんて入れないけれど、この匂いを嗅いでいたら俄然柚子湯の気分になって来た。
たまにはこういう日があったっていいよね。



福井ちゃんと春江ちゃん。
今日は冬至ですね。

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ある冬の朝・昼・晩

・朝
もう寺を出て半世紀以上過ぎたというのに、どうしても体が6時には目を覚ましてしまう。
永平寺領として生まれた時から雲水や典座の仕事をこなしていたせいもあり、早起きが身体に染みついて剥がれなくなっている。
寝間着を作務衣と半纏に変え、顔や歯を磨いて身支度を整える。
昨夜上志比が置いていった大根と鶏手羽の煮物と冷凍した玄米粥をレンジで温め、あとは漬物が数切れあればいい。
これが夏ならばパンに野菜を挟んで終わらせてしまうのだが冬になるとどうも暖かいものを欲してしまう。こうした横着も寺暮らしを止めたが故の特権であろう。
(……それでも粗食気味なのが治らんのは、仕方ないか)
生来の城下町である福井やもてなしを生業とするあわらとは事情が違うのである。
ほかほかの大根と鶏手羽の煮物に玄米粥に漬物に手を合わせ、五観の偈をいつものように唱えて食事をする。
汁一滴も残さずに平らげた後は食器をすすぎ、家のなかを一通りの掃き掃除をする。
「……さて、行くか」
半纏を和装コートに変えて、スニーカーを履けば朝の務めは終わりだ。

・昼
いつも昼過ぎには役場での仕事は終わるようになっている。
俗世の書類仕事には慣れたつもりでいるが、次々に出てくる新しい機械の使い方にはいつも悪戦苦闘してしまう。
鯖江などは一番に道具の使い方を覚えてしまうのでそれがうらやましく思うが、かといって教えてもらっても半分ぐらいしか理解できないため覚えることもまた修業と言い聞かせてしまうことが多い。
ようやく今の機材に慣れてきたが、また今度機械を一新するという話もあるので出来るならばあまり操作方法の変わらないものであってほしいと願うばかりである。
役場を出ると連絡用の携帯が鳴り響いた。
「勝山か、どうした?」
『おじいちゃんさあ、日本酒要らない?』
「日本酒?」
『だいぶ前に貰って来た日本酒が一升出て来たんだよ、未開封だから飲めるとは思うんだけど一升も飲み切れないし、おのくんもそんなに飲めないからいいって言うんだよねえ』
「……うちに白菜と豚肉があるから常夜鍋にするか?」
『あー、じゃあ今からそっち行っていい?』
「じゃあ鍋の準備でもしておくか」
早くも雪の降り始めた街を抜け、自宅に戻ってさっそく包丁を握る。
白菜を刻み、豚肉も食べやすい大きさに切り、そう言えば長ネギが残っていたのでついでにそれも入れてしまおう。
「ごめんくーださい!」
「どうぞー」
「もう野菜の準備出来てるんだね、さっそく作っていい?」
「おう」
土鍋にたっぷりの日本酒と作り置きの出汁(昆布・干ししいたけ・野菜の切れ端を煮込んで瓶に入れてあるのだ)をを入れて火にかけ、白菜と長ネギをたっぷり入れておく。
「そう言えばおじいちゃんいちおうお坊さんなのに常夜鍋食べていいの?」
「決まり事ってもんは時と状況によって変わるからな、仏の教えは原則で時と場合に応じて変えていくってだけ」
「おじいちゃん意外に生臭坊主だね」
「生臭じゃないわい」
野菜に半分火が通ったら豚肉を入れてもう少し。
その頃には酒精も飛んでいるだろうからゆっくり食べさせてもらおう。

・夜
仕事という仕事をこなしていたらもう10時を過ぎていた。
近隣の住職のない寺を回って積雪への備えをしていたらもう疲れ切ってしまったのである。
(……今日は軽く食べて寝よう)
湯を浴びてさっぱりした身体で台所に立つ。
乾燥うどんを湯がき、作り置きの出汁にたっぷりの乾燥野菜ときのこを入れて煮込んで醤油をひと回ししてからお湯で片栗粉を溶いて出汁に混ぜて煮立たせる。
あとは湯きりしたうどんにかけるだけだ。
人ではないが腹は減るのは不便であるが仕方ない。
この身体で今日も生きていく。




永平寺おじじの日常。

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