忍者ブログ

コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

俺の太陽が消えたとしても

2010年、5月だというのに肌寒い雨の日に届いた夕刊のことを今もよく覚えている。
-三洋の白物家電事業、パナソニックへ統合-
それは事実上三洋電機の消失を意味していた。
生みの父と育ての母を繋いでいたその名前の消失は、俺の心の柔らかな部分に深く突き刺さった。
「ワイルドナイツ?」
気付くと辿り着いていたサンゴリアスのもとで、俺はこう頼んだ。
「おれをころしてくれ」
「は?」

「三洋電機のまま俺を殺してくれ」

サンゴリアスの手で殺されることが、俺の願いだった。
パナソニックに殺されるぐらいならば最後のライバルに息の根を止められたい。
ラグビー場の芝生と汗のにおいの中で死ぬことのみが望みだった。
「馬鹿か」「は?」
「人間だって親は先に死ぬのに、なんでお前は親と一緒に死のうとするんだよ」
「親が死んだら俺たちは残れないだろ」
「クラブチーム化すればいいだけのことじゃん、実際それでシーウェイブスさんとか元気に走り回ってるし」
確かにその人の名前を出されてしまうと否定できない。
21世紀の終わりとともに父親とともに消え去る可能性があった彼が、地域の人々の情熱によって生き延びて今も芝の上に生きて居る。
「それに優勝してお前が生き延びれば、三洋電機の名前が残せるだろ」
サンゴリアスはからりとしていた。
初夏の風のように湿り気のない言葉が俺の心を軽くした。
「それに、ここからは俺のエゴだけど」
「なに」
「お前がいないと日本ラグビーはつまんなくなると思うんだよな」
「……じゃあ、今日死ぬのはやめる」
「うん」
「死ぬのはお前の全勝優勝記録を越えて、シーウェイブスの最多優勝記録を越えて、世界に自分の名前を忘れられなくするまでにするよ」




それはあの地震から半月ほどの、健やかなほどよく晴れた日だった。
目が覚めると昨日まで赤かった髪の毛の一部が青く染まっていた。
それは三洋電機の消滅を示す痕跡であった。
明るい春の朝日の中で死んだ家族を思って泣きながら、それでも生きていくことを小さく母に詫びて過ごした。

----
ワイルドナイツの昔の話。
ガ〇アの夜明けが三洋電機だったから……

拍手

PR

君よ光であるために

*2011年ごろのお話です

「どうしてここまで貴方は献身的でいられるんですか?」
かずさマジックがそう問いかけてきたとき、彼はずっとこの問いがしたかったのだろうと思った。
新日鉄の合併話が浮上してきたのはもう半年前になるだろうか?
この数か月はずっと復興支援と釜石さんの看護に追われて半分忘れかけていたが、合併話の進捗情報はこの耳にも届いていた。
「不安か?」
「私めは貴方と同じようにクラブチームですが比較対象が近くにいますからね」
「比較対象?」
「住金鹿島の野球部ですよ、実績はあちらの方が数段上ですからね」
「そうなのか?最近の社会人野球には疎くてな」
兄がいた頃は多少の知識はあったが今の社会人野球となるとあまりよく分からないというのが素直なところなのだが、本人がそう言うのならばそうなのだろう。
「そうでしたか」
「でも自分自身で言うのならそうなんだろう」
「お恥ずかしながらそうなりますね、でも選手たちはみな素晴らしいんですよ?」
炎天下で復興作業に勤しむ選手たちを慈しむような眼で見つめる姿には確かに愛情があった。
「そうだろうな」
「……で、質問の答えは?」
再びモノクル越しに問いかけのまなざしが飛んできて、ああと少し考える。
(献身的でいられる理由、かあ)
自分ではあまり意識していなかった問いの答えをしばらく考える。
そうして数分にわたる熟考の末、出てきた答えはシンプルだった。

「この街とラグビーが好きだからだな」

愛する釜石の街があって、愛するラグビーが出来て、そんな自分たちを愛してくれる人がいる。
献身的であり続ける理由なんてきっとそれだけで十分だ。

拍手

8ミリフィルム

*少しだけ震災にまつわる描写があります

―2011年6月
楽しかったという気持ちと昔抱いた憧れとほんのわずかな失望が入り混じった顔でその人を見たのを覚えている。
「遠路はるばるありがとうな、ジュビロ。久しぶりにちゃんと試合が出来て嬉しかった」
「どうってことないですよ」
僕がそう呟くと小柄な先輩である彼はふいに足を止めた。
目の前に広がるのは茫洋とした更地。かつて街であっただろう痕跡が僅かばかり残るだけであった。
海にすべてをさらわれた街でラグビーをしたいと先に言ったのはこっちの方で、応えてくれなければきっと今日の試合は無かった。
「正直に言っていいんだぞ?お前さんぐらいの年代だと、うちの黄金期を知ってるからな」
その言葉は全部分かっているような響きだった。
「言いませんよ、強くても弱くても先輩は先輩です」
「……そか」
確かに僕はあの走って繋ぐ釜石のラグビーに憧れていたし、きっと僕以外のものもそうだろう。
その時の偉功をこの街と共に彼は背負って生きていくのだ。







ジュビロとシーウェイブス

拍手

全てが夢であったならば

60年代ごろのライナーズとブラックラムズと新日/鉄住金八/幡の話。
作中の列車時刻は雰囲気でどうぞ。

拍手

世界の日差しが落ちる頃10

ファインティングブルが去ったのは3月も終わりの日だった。
周囲への挨拶を済ませて、ぶらぶらと三宮を散歩をしていた。
「桜見にまた行けたら良かったなあ」
「そういや昔行ったもんなあ、ライナーズとレッドハリケーンとお前と俺で」
ようやく梅が見ごろになった神戸に桜の気配は遠く、もう見ることが出来ないのだと思うという事は分かっていた。
街は夕焼けのオレンジから夜のとばりへと移り変わって行く。
さっと背筋を冷たい気配がした。
「死神が来よったみたいです」
ぽつりとファインティングブルが告げた。
俺には見えない何かが見えているのだろうか。
「……こっち来ないでくださいね」
その言葉の意味は分かっていた。
日暮れにファインティングブルの身体は溶けるように消えてく。
「ああ、」
太陽が沈むように、彼はどこかへ去ったのだ。

****

『……ほんと、この世はままならん事ばかりやわ』
電話越しにライナーズが呟いた。
見慣れたグラウンドの芝生の上にはいつものように秋晴れが続いている。
『親の都合で生まれ、他所へ移され、切り捨てられる。これ以上に寂しい事はあらへん』
「ほんとにな」
『でも僕らは親のおかげで生きられるんやから皮肉なもんやね、独立採算なんてしたら速攻赤字で死んでまう』
この国においてラグビーは現在のところ人気種目とは言えないのが現状だ。
トップリーグの観客動員は1万人を超えることは皆無で、平均動員ではJリーグに負けている。
ラグビー専用スタジアムも老朽化の著しい秩父宮と現在改修中の花園ぐらいしかなく、いま建設中の釜石のスタジアムは聞いた話だとラグビー専用にはならないらしい。
ワールドカップに向けての機運醸成についても上手くいっているとは正直あまり感じられない。
「独立採算で、自分の手で必死に生きようとして、それでもダメだったら諦めつくんかな」
『……どうなんやろうな』





自分の生き死にをかけた努力すらさせてもらえずに死ぬことの非業さを知っている。

拍手

バーコード

カウンター

忍者アナライズ