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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

堕ちる太陽と消えない月

どうせ福岡まで来たのだし、久し振りに会ってやろうかと思ったのだ。
市営の運動場の片隅で彼はあの頃よりも少しだけ暗くなった瞳でボールを磨いていた。
こっそりとその中に忍び込んで意外によく整備された芝生の上に腰を下ろした。
「生きとったんやなあ」
「第一声がそれですか」
ボールを磨く手は止まることもなく、視線もこっちに移すことはない。
少し前に世界遺産にまでなった官営製鉄所の名を冠する彼の瞳の深い黒を、何度敗北の悲しみで染めてやりたいと思った事だろう。
「下位リーグなんて見てられひんからなあ、神戸んとこのと違って俺は忙しゅうてあかんのや」
神戸はよく釜石に早くトップリーグへ帰ってきて欲しいと嘆いている、その気持ちは正直さっぱりわからない。
こいつにに帰って来いと言ったことは無いし、もし奇跡的に昇格してきたってあの頃のあいつは永遠に帰ってこない。
「その割にはよくこんなとこまで一人で来れましたね」
「……今どきはネットでちゃちゃっと調べられるからなあ」
二つ目のボールを磨きにかかるが、それでも視線はこっちを見ない。
それでいいのだ。
今はもう水平線の向こうに沈んだ太陽でしかないこいつに、今も1部リーグにかじりつく自分は眩しいのだということを分かっている。
あの頃、日本が天井知らずの成長を走り抜けていたあの時代に競い合っていた。
誰よりも勝ちたかったあの背中は半世紀もの月日の中に溶けて消えたまま、その光は弟分が継いだけれど彼もまた神戸から伝え聞く限りまだまだのようだ。
「せいぜい2部リーグに落ちない程度の努力はしたらどうです?随分1位と勝ち点差ついてるみたいですけど」
「あれはあいつの実力からしたら順当やろ、それに俺が2部に落ちるならあんたもこんなとこに燻っとらんで2部に来てもっぺんやったろや。そん時は完膚なきまでに負かしたる」
そう告げるとボールの尖った方で思い切りみぞおちを殴られた。
石炭の黒さに似た目に映るのは、怒りと闘志だ。
「……闘志がまだ消えてへんならええ」
そう笑うと、なんとも不愉快そうにこちらをにらんで「早よ大阪帰れ」と呟いた。




ライナーズさんと鞘ヶ谷。

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滴り落ちる水辺の秋

ばちゃーん!と大きな水音がして、目の前の海を見ると俺の可愛い弟が海に落ちていた。
幸い冷静な様子の弟は溺れることもなく冷静だった。
「何してんの?」
「ごめん……」
自力で岸壁まで泳いできた弟を水辺から引き上げる。
秋の北海道のしんと冷えた海水のせいで体は冷え切っていて、急いで所内の移動に使ってる小型車に乗り込ませた。
濡れた服を脱がせて後部座席に乗せてあったタオルで体をぬぐう。
「ったく、なんで海に落ちたんだか……」
「なんか海に呼ばれた気がして海の中覗き込んでたら体のバランス崩して落ちちゃった」
茶化したような表情でそう笑う弟に肝が冷えそうになるのはこっちの方だ。
車に積んであった大人用の作業着を着させ、とりあえず弟のところの事務所に連れて行こうとエンジンをかけた。
「海はさ、俺が産まれた時から変わらないよね」
「……そりゃそうだろ」
「ああこんな風に永遠不変のものでありたかったなあと思ったわけ」
「高炉廃止でも告げられたか?」
「いや、そう言う事じゃなくてさ。なんだろ、僕とかにも寿命ってあるんだなあって」
弟の言うことは確かにもっともであった。
人の手によって生まれた不完全な存在たる自分たちは過ちも寿命も存在した。
「……じゃあ寿命が来る前にしたいことは全部するとして、今日は一緒に飯食うか」
「それそっちがしたいだけじゃん」
「なんか食いたいもんは?」
「ジンギスカン、それも生ラムの奴が良い」





室蘭兄弟の話。

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僕は死なねばならぬのだ

バリトンボイスが私の耳に心地よく届いた。
昼下がりのリビングには私と丸岡だけがその部屋にいて、ソファーでうたた寝していた私を緩やかに目覚めへと呼び起こした。
「……マル?」
「春江、起こしちゃった?」
「別にいいよ」
のろのろと起き上がって、台所の冷蔵庫から取り出したキンと冷えた麦茶を目覚めの一杯にと飲み干す。
丸岡の手には、一冊の本があった。
「それを朗読してたの?」
「うん」
「頭から聞かせて」
私が丸岡に麦茶を差し出してそう告げる。
ぺらりとページを戻すと、すっち小さく彼は息を吸い込んだ。
「“春はやいある日/父母はそわそわと客を迎える仕度をした/わたしの見合いのためとわかった“」
それは、妙な薄暗さを含んだ声であることに気付く。
不本意な結婚を痛切なことばで語るその詩は、何故か私の心の琴線を突いてくる。
失望と諦めと恐怖がことばのうちに混在する。
「“わたしは死ななければならない/誰もわたしを知らない/花も知らないと思いながら“」
そうしておもむろに近くにあった紙切れを本に挟むと、「こういう詩だよ」と丸岡は告げる。
これはたぶん、丸岡の言葉の代わりなのだ。
告げる事の出来ない、薄暗くて寂しい言葉たちを、詩の上に載せて語るためのことばだ。
「……さみしい詩だね」
「うん。でもね、この詩の作者は不本意な結婚をしたけれど離婚して、兄を頼って上京して詩の世界で活躍した」
もし合併が結婚と同じであるのならば、離婚するように独立することは出来るのだろうか。
ぼんやりと、考える。





丸岡と春江。
作中の詩の引用元はこちら

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夜雨の博多にて

「本降りですネ……」
窓の外を見て呟いた後輩の一言で、小雨だった雨が本降りになっていたことに気付いた。
「こげん雨やとうちば戻るんも面倒っちゃ」
「2人とも泊って行けばいいですヨ」
「いや、俺はいいよ。後輩の家に泊めてもらうのは性に合わないし折りたたみ傘あるから」
鞄から引っぱり出した折り畳み傘を見せてやると、二人の後輩はそれでもというように泊るようせがんでくる。
軽く酒が入ってることもありぐずぐず言う後輩たちに「この話は終わり」と宣言すると、ちょっとだけ納得いかない顔をしつつもそこまで言うのならばと送り出してもらえた。
本降りの夜は思ったよりも冷え込んでいて、酔いがどんどん抜けていく。
「……サヤ?」
「香椎さん、いや、今はキューデンヴォルテクスでしたっけ」
「どっちでもいいよ」
黒髪の下から覗く紺と橙の混ざり合った瞳は、自分にとって最初の後輩のものだった。
サヤこと新日鉄住金八幡ラグビー部は、この雨に降られたらしく全身ずぶ濡れで濡れネズミと呼ぶに相応しい有様だった。
思わず鞄に入れていたタオルを差し出すと黙って受け取ってきた。
「博多にいるなんて珍しいな」
「八幡さんの代理です」
北九州を代表する彼の親会社(正確には製鐵所か)の名前を挙げると納得してしまう。
俺たちは親会社が無ければ生きてゆけない。彼らに金銭的に支えられることでこの命脈を保っている。だから俺たちは彼らの仕事を手伝うのが日常となっている。
「これから帰りって時に雨に降られたってところか」
「まあ、そんなとこです」
「傘貸してやろうか?」
「別に平気です、雨が止むまで待つぐらい」
「駄目だ、この調子じゃ一晩中降ってもおかしくない」
「人間じゃあるまいし一晩ここで過ごしても風邪は引きませんよ」
いつからか彼の発言はひどく暗くなった。
ブルーマーズの暗さはまだ自虐の範疇なのだが、サヤのは聞いていてどこか痛々しく響くのだ。
「八幡さんが泣くぞ」
「あの人は私のためには泣きませんよ」
「しゃあしいぞサヤ、黙って駅まで送らせろ」
傘を押し付けてから鞄に入れてあった防水の上着を羽織ってその手を掴む。
どれだけひどい雨が降ろうとも、雨具ぐらいならいくらだって貸してやれるのだから。







キューデンさんと八幡さんとこの子。
ちなみにサヤという呼び名は練習拠点の鞘ヶ谷から貰いました。そのまま。

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君津くんと廃プラスチックリサイクル

君津は意外とごみの分別にうるさい。
「ったく、もう少しちゃんと分別しろよな……」
「いやあついめんどくさくて」
半分キレ気味ではあるけど鹿嶋市のクリーンカレンダーを確認しながらごみを分別してくれるから、見た目のわりに君津は根っこのところは面倒見がいいなと思う。だから堺に変な粘着されてるんだろうけどね。
「だいたい、ペットボトルは回り回ってうちで燃料になるんだからちゃんと分けろよな……」
「そう言えば毎年君津のところで加工した廃プラが来てるもんねえ」
「毎年1万トンそっちに送ってるんだけどな……」
「コークス炉の燃料送ってくれてありがとうね?タールやガスも俺たちが正しく機能するのに大切な副産品だしね」
「分かってるならもう少し分別に気を遣おうな……?」
「あはは、ごめんごめん。そういうのって人ににまかせっきりだから覚えられなくてさ」
「もう慣れたけどな、とりあえず燃えるゴミは明日回収日みたいだし今すぐに出して来い」
そう言って君津が燃えるゴミの袋を押し付けてくる。
まあゴミ出しぐらいはしないと駄目だよねえなんてのんきに考えてしまう。
「あ、そうだ。ゴミ出し終わったら冷蔵庫に入れてあるアイス食べようよ。此花からアイス屋さんに置いてあるようなおっきいアイス3つも貰ったんだよね」
「アイスクリームディッシャーこの家になかったと思うんだけど」
「でぃっしゃーってなに?」
「……もういい。後で買いに行くぞ」





君津と鹿島。廃プラスチックの話をして欲しかっただけ

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