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コーギーとお昼寝

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花の季節は

国営ひたち海浜公園は一年中何かの花が見ごろになっている。
この公園を象徴するネモフィラはもう終わりかけだが、ちょうど今は見ごろを迎えたカリフォルニアポピーが海からの風に心地よさそうに揺られている。
ひたちなかはこの季節が一等好きだった。
夏や梅雨ほど暑苦しくなく春ほど忙しくない、ちょうどこの初夏の季節が。
一年中何かと気ぜわしいひたちなかにとってはゴールデンウィーク終わりから梅雨入りまでのこの短い季節はふらふらとこの公園の敷地を散歩して過ごしていた。
賑やかな隣人たちやたくさんの仕事から一歩距離を置いて、初夏の風を浴びながらふらふらと気ままにこの広い公園の敷地を巡る。
そのささやかな楽しみは、誰にも打ち崩されることのない休日だ。
ローズガーデンにはまだつぼみを開いたばかりの真紅の薔薇。
その傍らにはハマナスが背伸びをするように勢いよく濃桜色の花を咲かせている。




この花たちが散る頃には、ひたちなかは一年で一番忙しい季節を迎える。

微かな息抜きを彩るように花たちは咲いていた。


ひたちなかの休日。

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夏が忍び寄る

鹿島が言うには、夏は忍び寄るものだという。
心地よい春の日差しがだんだんと厳しさを増し、長袖では暑いくらいの気候になる。
それは忍び寄るというよりもダッシュで駆け寄ってくると呼ぶ方が正しい気がした。
「神栖、霊柩車が来るよ」
コンビニからの帰り道、突然鹿島がそんなことを言う。
「この辺りに葬儀場なんてないのに?」
「ほら、あそこ」
真っ黒の細長い車だ。
霊柩車というよりもリムジンに似ている気がしたけれど、鹿島には何が違うものでも見ているのだろうか。
その車は横断歩道に立つ僕らの前を通り過ぎ、走り去っていった。
「あれ、ただのリムジンじゃ?」
「気配で分からない?」
「……1千年以上生きてる自分と一緒にされても困る」
「そうかな?こう暑いと死んだ人間の気配が忍び寄ってくるから」
……忍び寄って来てるのは、夏じゃなくて幽霊じゃないか。





神栖と鹿島。

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影踏み

奥出雲の森の静けさの中をあてどなく歩くのが好きだ。
森の沈黙だけが私の心を癒してくれる。
ぱあっと開けた場所に残る、古いたたら場の跡地。
しゃがみ込んで、石畳に触れる。
ひやりとした冷たさの奥に、解けた鉄の朱色が広がってきた。
たたら場は私の魂の郷里であった。
三日三晩かけて木炭を燃やし、砂鉄を溶かし、人々は懸命に汗を流す。
その姿を記憶した石畳が彷徨える私に遠き日の姿を幻視させた。


(私は、たたら場の最後の後継者なのだ)

それが、いつだって私を奮い立たせた。
私の技術を評価したあの人も私をそう呼んだのだ。
森の奥に密かに隠れるたたら場は、鳥のさえずりだけが響いていた。


安来ちゃんの自意識の話。

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許し合えない二人と雨

恨む事は疲れることだが、許す事は存外難しい。
「だーかーらー、あたしはすみとものこんかんとしてだね?100ねんつかえてきたみなんだ、それをおまえらのつごーでむりやり……」
「此花、呑み過ぎじゃぞ」
「なにがのみすぎなもんだい、たかがうぃすきーで」
グラスに新しい氷を入れると琥珀色の液体を注いでいく。
此花は酒に強い。日本酒の一升瓶を一晩で飲み干しても翌朝にはケロッとしてるような驚異的な肝臓の持ち主である。
しかし先ほどからすきっ腹に流し込むように飲むものだからいつもより酔いの周りが早く、しかも水もろくろく飲まないものだからもう出来上がっている。
「此花、もう終いじゃ。もう最後の瓶が空になった」
空っぽの瓶を振ってやれば酒臭い溜息を吐いた。
「……なあ、あんたにはわかるか。なれしたしんだなまえをすてるさびしさが」
「お前さんを見てれば何となく想像はつくな」
八幡がここにいたら言い合いになっていただろうが、今晩は二人ぽっちだ。
東京の、慣れ親しんだ定宿の一室。その窓辺は過去の名残もほとんど見つけられないほど変わり果ててしまった。
変わることは宿命で、その中で変わらずに生きていく孤独の慰めを彼女は住友の名に求めたのだろうか。
存外、此花も寂しいのだろう。
「あたしはすみとものなのもとにいきてしぬつもりだった」
「おう」
「なのにそれを、おまえらがうばった。えいえんにあたしはすみとものなからきりはなされたんだ」
此花は酔いのせいで舌たらずに響く拗ねた子供のような口ぶりをする。
それを宥めるように背筋を撫でながら告げていく。
「でも、お前には弟たちがいるじゃろう。尼崎や和歌山や鹿島が」
「そうきまったんだ、うけいれるほかない。あたしがゆるげばあいつらがこまるだろう」
「ああ。でも心情的に受け入れ難い、そういう事じゃろう?」
「……そう」
「そういうのは時間の経過の中で受け入れていくしかないんじゃないのか?」
「できてるわけ?」
「なにが?」
「じかんけいかによるうけいれ」
此花もえぐいところを突いてくるものだ。
長く生きるなかで、まだうけいれられてないことの一つぐらい、やっぱりあるのだ。
「……出来てるさ」
そう、ほんの少し嘘をついた。




釜石と此花。

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朝食は始発の前に

午前5時前、まだ薄暗い部屋のカーテンを開ければ初夏の日差しが布団の上に落ちた。
いつものようにやかんに温度計を指してからお湯を沸かし、昨日の残りのごはんも温め直しておく。
80度のお湯でお茶を淹れ、温めたごはんには塩昆布と梅干を一つ。
あとは兄さんを起こしてご飯にお茶をかけるのみだ。
食卓の上にはお茶漬けと昨日貰った漬物の残りが少し。
「兄さん、朝だよ」
「……なんだ、兄弟か」
「早く着替えて朝ご飯食べよう」
「おう」
2人で朝ご飯を食べることも、まあたまにはある。
この気仙沼の宿舎は僕らが共用で使っている部屋であり、子どもの頃はよくここで一緒に過ごしたものだった。
「「いただきます」」
食卓の上には茶漬けと漬物だけ。
愛想のない食卓だが、大して料理が上手い訳でもない僕らにはこれが限界なのである。
夜なら魚でも焼くけれどさすがに面倒だ。
「……お前の淹れるお茶は美味いねえ」
「そうかな」
「美味いよ」
率直な褒め言葉が、胸に温かく落ちていく。





気仙沼線と大船渡線。
ツイッターで「フォロワーさんの好き要素を詰め込んだ小説をいつか書く」というのをやったら同居してる二人のごはんというリクエストを頂いたので。

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