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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

アド街と芸術祭と県北と

「……解せぬ」
テレビの電源を落としてぽつりと常陸太田が呟いた。
「なんだってあっしンとこの鯨が丘商店街が出ないんで?!あっこはうちじゃ有数の観光地!だいたい奥久慈ってーンならうちの全域も紹介するべきじゃないんで?!」
バンバンと机をたたく常陸太田にジト目で答えるのは常陸大宮だ。
「そん気持ちは分かるけんど、そもそもお前そう言うキャラやったっけ……?」
「あっしを書くのが年単位で久しぶり過ぎて作者が過去の文章読み返したらこんな感じだったんでしゃーねぇだよ!」
ちなみにこれは本当の話で、最近シリアス目の話ばかり書いていたので県北内陸組のキャラを完璧に忘れていて頭を抱えました。
そもそもこういうコメディ寄りの話自体久しぶりなのである。しゃーない。
「すごい久しぶりのメタセリフ……」
大子町が冷静に呟いた。
夜食にと持って来た焼き立てのアップルパイを食卓に置いてから、「まあ今回は僕のところの町内全域が対象で二人のところは一部のみだった訳ですし……」とフォローになってないフォローが漏れる。
「竜神大吊橋も舟納豆も出ましたし、ね?」
「何よりの不満は県北芸術祭の話が微塵も出ねぇ事だ!アレにうちがどんだけかけてることか………わざわざ道の駅も作って……」
「確かにあれが出らんのは違和感あんね、もうすぐ始まるっちゅうんに」
「だろー?」
「で、でも、きっとたくさん来てくれますよ!秋は観光シーズンですし!」
「来て貰わねーとこっちが困ンだよ……」




県北芸術祭は9月17日開幕です。


アド街奥久慈見てて気になったのが「県北芸術祭は?」だった私です。みんなおいでよ。

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スタジアムに行く話

待ち合わせは広島駅の改札、手持ちのお金は少し多めに持って行った。
呉とのデートなんて久しぶりだし気合を入れてメイクもして新幹線に飛び乗ったのに、目的の人物よりも前に再会したのは意外な人物だった。
「周南、」
「広畑ひさしぶりじゃん、でもなんでここに?」
「呉に誘われた」
「ならおしゃれする必要なかったじゃん……」
赤いワンピースはネットで一目惚れしておととい注文した新品で、球場に誘われた時に着て行こうと即決したものだ。
お気に入りの茶色い麻のアルパルガータ(ひも付きのウェッジソールの靴だ)だって呉のために選んだのに。
「だって、場所が場所だから……」
「何のこと?」
「呉に言うなよって言われてるから、言わない。」
悪戯小僧みたいな顔をして笑う広畑に僕はちょっとだけぷうっという顔をした。
(僕にナニ隠すのさ!)
もったいぶられてもこっちは不服だ。
「周南、待たせてすまない」
カープのユニフォームを来た呉が八幡と光を連れて僕に手を振る。
本格的にデートじゃなくなってきたなあこれ。
「呉!久しぶり」
「ああ、半月ぶりだな」
「球場行くんでしょ、行こう!」

****

呉が取ったのはこのスタジアムが誇る、バーベキューが出来るテラス席。
広々としたテラスからは外野が一望できて観客席の賑わいも良く見える。
下のテラスに目を向けると呉のところの従業員がいる事に気付く、見覚えのある顔がちらほら見えたから呉のところの所長が丸ごと貸しきって呉が一番小さいところを借りたのだろう。
でもここは40人まで入れるらしから、このスペースに5人きりと言うのは結構贅沢な空間の使い方だ。
(……確かにこれなら人数いた方が良いか)
優勝マジックもついたことだし呉からのお祝い金みたいなものだろう。
「周南、」
「まさかここに来れるなんてびっくりした」
「このスタジアムが出来たとき、ここに来てみたいって言ってただろう」
「覚えてたんだ……!」
呉が少し気恥ずかしそうに視線を逸らすので、「ありがと」と僕がほほ笑んだ。
プレイボールの声が響くまで、もう少し。





カープが優勝間近なので日新製鋼を書く練習ついでにカープネタです。
ちなみに、延々とそれゆけカープを聞きながら書いています。洗脳されそう。

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君津と毛染め

「君津、そろそろ髪染め直したら?」
久しぶりにうちへ来た東京がそう告げる。
自分たちは人間と違い髪の毛が伸びることはあまりないのだが、本来の毛の色を抜いて金色に染めた髪は定期的に染め直さないと色が黒ずんでくるのだ。
「あー……ほんとだ、少し黒ずんでら」
「だから染め直せば?って」
「わーってるよ、だいたい俺が最初染めた時は全否定だったくせに」
そうなのだ。
最初に俺が髪を染めて金髪にしていたのを見たとき、東京は「あり得ない」と全否定だった。
『大人になるってそう言う意味じゃないだろ!』
『東京には関係なかろーが!』
『だからって金髪はねーよ……八幡なら失神してるわ……』
実際話を聞いてやってきた八幡も黒く染め戻せと言っていたのだが、俺にとってこの金髪は自立の象徴であったし鹿島のあの淡い茶髪や千葉の赤い瞳に対する憧れもあったので今更黒に戻す気にもなれずこれだけはいう事を聞かないで押し通したのだ。
ちなみに、鹿島と千葉は『アリじゃない?』『目立つしいいと思うよー』と肯定的だった。
歳を重ねるごとに方言も抜けていき、カラーコンタクトが世に出回るようになってからはカラコンを付けて青い瞳にもなった。
そうして八幡に守られる子どもでも、四日市の生まれ変わりでもない、ただの君津の姿がようやくできたのだ。
「でも結局許したろ?」
「まあな、八幡が何も言わないなら私や光はケチのつけようがないだろ。今じゃその金髪がお前らしさだしな」
東京は苦笑いしつつ俺を見る。
でも俺はちゃんと≪俺≫になれているのだろうか、とたまに考える。





太陽が昇る海の後日談的な君津と東京の話。
サイトのデザイン少しいじった記念にまとめて更新してみました。

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太陽が昇る海6

出雲から帰って来てから時折堺は俺に絵ハガキを送ってよこした。
その内容は俺にとって心底どうでもいい内容だったが、見慣れない関西の風景の描かれたハガキは俺の興味をそそってきたので捨てたりはしなかった。
「君津、また堺からハガキだよ」
「今度は?」
「石切神社の絵だった、君津も偶には返事でも書けばいいのに」
「別に、」
「じゃあ代わりに返事書いとくよ」
「なんで」
「いっつつも向こうに手紙書かせるのは良くないと思って」
「……東京に任せるとろくなのにならんから、俺も書く」
そう言って俺をだまくらかしてはどこかから絵葉書を貰ってきて(大体は職員の家に死蔵されていた古い絵ハガキだった)住所と簡単な近況報告だけ書いて投かんした。
操業開始から2年目が過ぎた頃には、八幡は月に一度一週間の滞在していたのが季節の変わり目に1日だけ顔を出す程度になっていた。
「八幡はいつもああだから、」
東京が一度だけ八幡をなじったことがある。
久しぶりに君津のところに泊まるつもりです、と言う手紙が届いて俺はそれを楽しみにしていたのに八幡が釜石を優先して断りの電話を寄越してきたのだ。
後になってからそれが富士製鉄と八幡製鉄の併合の準備の会合であると知ったのだが、当時の俺はそんな事を何度となく体験していたものだからどうもやるせない気持ちになって布団にくるまっていた。
「仕事優先でこっちの気持ちなんて知ったこっちゃないんだ、あの人は」
それが東京の本音であることは分かっていた。
でも、あの人が優先したのは仕事ではなく釜石だったような、そんな気がした。

****

1968年(昭和43年)11月
第一高炉の火入れという晴れやかな記念日を迎えた製鉄所内はいつにもまして賑やかであった。
「君津、」
「……東京」
「こんなところで泣いちゃだめだよ」
「なんで、」
「今日から君津は一人前になるんだ、私よりもずっと大きくて八幡と対等な存在になる」
高炉が火入れするっていうのはそういう事だよ、と東京は言った。
「対等になれたら、八幡も俺の事大切にしてくれるんやろか」
「きっと、大丈夫だよ。だから行こう」







数日後、俺はヘアカラー剤を片手に一人で風呂場に入る。
ブリーチ剤で白くなった髪と少年と青年の過渡期の姿となった自分が鏡に映っている。
箱に書いてある通りに染め剤を作り、髪の毛に染料を塗りたくった。
多少染めむらができてしまったら恥ずかしいが仕方のない事だ、その時は潔く諦めることにしよう。
髪の毛に色が定着した後、髪の毛を洗い流すと黄色みを帯びた金髪が出来ていた。
八幡とは違う、ゴールドの髪は鹿島とは全く違う色ではあるけれど悪くはないと思った。



(これから、一人になるのだ)

八幡とともに立ち並ぶ存在であることの証明のように、立ち上る朝日の色をした髪はお湯を滴らせていた。


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太陽が昇る海5

11月はすべての神々が出雲の地に集う季節で、それは俺たちであっても同じだ。
10月も終わりとなれば、日本神話の最高神であるアマテラスノミコトと製鉄を司る神であるアメノマヒトツノカミ及びカナヤコカミとの邂逅のためちゃんとした衣装を整えて旅支度をすることになる。
すべての神が正服と呼ばれる冠に袍と袴を着用して(平安貴族をイメージしてもらうと分かりやすいだろうか)出雲大社に行くことになる。
八幡の横に一人の若い男の姿を見つけると、かちりと視線がかみ合った。
眼鏡越しに俺を見た青年は微かに唇を動かした。
そうして八幡も俺に気付いたのだろう、こちらを振り向くとすたすたとこちらに近寄ってきて「一人で来られたようですね」とほほ笑んだ。
「……きみが、君津なん?」
「そうばい」
「八幡弁なんやね、まあええけど。俺は八幡製鉄堺製鉄所な」
僅かに含みのある口ぶりで八幡が俺に手を差し出すので、一応の握手を返す。
堺がじっと俺の眼を覗き込むのでぷいっと視線を逸らした。
今思えばあれが始まりだったのだと分かる。
堺が俺を「よっかいち」と呼ぶたびに、俺はどうしようもなくいらだって「四日市じゃない」とむきになって返した。
四日市の存在の事は少しだけ聞いたことがある。
肉体を得ることのないまま消えていったという四日市と重ねられることはどうしようもなく嫌だった。
だというのに、堺はあの時はずっと俺を「よっかいち」と呼ぶのだ。


(俺は四日市じゃなかと、)

微かに歯ぎしりとともに八幡のもとを訪ねても、八幡はいつも不在だった。
「光、八幡はどこね?」
「いないの?」
「おらんかったから聞いとーと」
「ってことは、また釜石さんのお部屋行っちゃったのかな。ほんとあの人は……」
呆れたような溜息を吐いてから、光が思いついたように箱を取り出してくる。
「八幡さんが帰ってくるまでおやつ食べない?ちょうど土地神様からお菓子頂いたんだよ。蜜柑のお菓子」
「……食べる」
蜜柑のお菓子をは見ながら、俺は酷く苦しい気持ちになっていた。


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