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コーギーとお昼寝

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太陽が昇る海4

鹿島と千葉と言う知己を得て、俺の世界は少しだけ広がった。
2人が外に出る必要性自体感じていなかった俺を外に連れ出して、そこで出会うもの一つ一つに刺激を受けた。
千葉の誘いで都心の大きな劇場で映画を見たり船橋ヘルスセンターにテレビの公開生放送を見に行ったりと、とにかく土日になれば外に連れ出してくるような始末だ。
東京は基本的に俺の外出を歓迎したけれどあんまり連れ出されるので少しは仕事をしろと鹿島を諫めた事もあったぐらいだったが、それでも反省しないのが鹿島なので結局そのまま連れだされるのだ。
『そう言えば俺、東京タワー見たことないから行かない?』
「東京タワー……確かに見たことなかと」
『でしょ?だから見に行こうよ、千葉も行くって』
「分かった。待ち合わせは東京駅でよか?」
そう聞くのは付喪神に与えられた特殊な移動方法(俗にいうワープだ)を使わないという確認でもある。
ワープは便利なのだが、やると結構疲れるので緊急時か出雲に行く時ぐらいしか使わないようにというのが八幡の指示だった。
『うん。土曜日の午後3時ね。それじゃ』
電話を切ると東京が呆れたように溜息を吐きながら「またお出かけ?」と聞いてくる。
「うん、今度は東京タワー」
「住金さんは末っ子を自由にさせ過ぎじゃない……?」
「さあ?」

****

東京駅の改札口千葉・鹿島と合流し、地下鉄と徒歩で東京タワーを目指すことにした。
小中学生くらいの子供が三人で東京タワーに行くのは今だったら目立つだろうが、俺たちは人ならざる身ゆえに人目に付きにくいので問題は特になかった。
「ここだね、」
なだらかな坂を上り切ったとき、千葉がふいに足を止めた。
その目の前には赤と白のまっすぐにそびえ立つ美しい電波塔。
「おっきかねー」
「だね、鹿島と君津は初めてだっけ?」
「俺は東京ってあんまり縁ないもん」
俺は秋晴れの青空に突き刺さる赤と白の美しい塔の姿に見とれていた。
「君津ー?」
くいっと俺の顔を掴んで鹿島が自分の方に向ける。
空と同じブルーの瞳が俺の方に突き刺さってきて鹿島の顔の綺麗さを痛感した。
「君津、鹿島。早く並ばないといつまで経っても展望台いけないよ」
千葉がそう言いながらチケット売り場の行列へと歩き出す。
深い赤の瞳がきらりと瞬いて、奇麗だと思った。




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片恋よさようなら

「わたしは、よっかいち」
彼女はゆっくりと言葉を吐いて俺に手を伸ばした。
一瞬だけ見えた美しく輝く黒い瞳に、俺は一目で恋に落ちたのだ。

片恋よさようなら

四日市と出会ったのは、本社の片隅のうす暗い倉庫だった。
計画のまま肉体を持たずにいた存在であった彼女はほとんど見る事が出来なかったが、ときおり一瞬だけ見えることがあった。
その姿が今も網膜の奥に焼き付いている。

****

その後、俺はずっと四日市との再会を待ち望んだ。
あの美しい黒の瞳と再び出会い、触れる日を願っていたのだ。
しかしその夢は永遠に失われた。
「四日市の計画なら破棄されましたよ?」
「なっ……!」
「光から聞いてませんでした?」
「八幡さん、その言い方は」
踵を返して布団にこもると、ギリリと奥歯をかみしめた。



俺はもうあの子と出会う事が出来ないのだ。

それだけが俺の胸の奥に渦巻いた。
こうして俺は思い出したくもない真黒な暗黒期を迎えることになる。


「……きみが、君津なん?」
「そうばい」
君津の瞳には、四日市と同じ色があった。
艶やかで宝石のような漆黒。
(ああこの子は、四日市の生き写しだ)
「八幡弁なんやね、まあええけど。俺は八幡製鉄堺製鉄所な」
そうして俺は彼に手を伸ばした。


太陽の昇る海で言及した「八幡が操業して少し経った堺のもとに行くわけ」です。
操業開始直後(昭和36年上半期)に四日市と出会って、破棄されたのがその年の秋(建設事務所設置が9月)となります。いちおう。

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太陽が昇る海3

釜石が周囲から見て特別な存在であることに気付いたのはそれから2~3日経ってからの事だった。
朝から俺を近所の無人直売所に行かせて新鮮な野菜を買い込んで作った天ぷらの美味しさ。
八幡は釜石に会いに行くからと上機嫌で出て行った時の声のハリ。
俺を愛してくれているはずの八幡にもあんな顔をする人がいるのだということに、あの頃の俺は少なからず嫉妬をしたのだ。
「八幡、また大阪に行くん?」
「そろそろ堺の様子を見に行かないといけなくて」
「俺のこと気にしてくれんの?」
「私だって仕事なんですよ」
八幡は聞き分けのない子供を宥めるような声でそんなことを言う。
堺とはまだ会ったことは無かったが、既に操業開始から5年が経って既に安定的に動いていたことを考えれば八幡が気にかける必要はあまりなかったはずなのだ。
その理由は後々知ることになるのだが当時の俺にはそんなことは関係のない事だ。
「ここに残ってくれんといや」
「だからそれは無理なんです……戸田、明日は君津の好きなもの作ってあげてください」
「だってさ。諦めなよ、君津」
「うー……」
俺が渋々と言う顔と雰囲気で八幡から離れると、行ってきますとだけ告げてうちを出て行った。
「君津はほんとに八幡好きに育ったな」
「何なん」
「いや、何でもない。明日、何食べたい?」
「チキンカレー」
「了解。明日直売所行くよ」
今思い返せばきっと東京は俺が八幡の特別にはなれないことを分かっていたのだ。
俺と八幡と東京だけの小さな世界はきっと釜石の存在を理解した時からひびが入りだしたのだと、今なら分かる。

****

あれは確か夏も終わりの8月の末頃だった。
「俺は住友金属鹿島、君と友達になりに来たんだ」
突如俺の元にやってきた少年は海の青とキャラメルカラーを纏い、波の輝きに似た笑顔をこぼした。
いつだって鹿島はわが道を突き進んでいて、こうやってわざわざ脱走してまで俺のところに来てしまうようなところがあった。
「……ともだち」
「うん、友達。うち年上ばっかりで年の近い人いないから対等な友達が欲しかったんだよね」
俺は少し返事に迷いつつも、こくりと頷くと「じゃあ、よろしくね」と鹿島は笑う。
そうして友達になった鹿島は俺の小さな世界に入ったひびを大きくさせてきた。
和歌山が不在の時にこっそりと抜け出してはわざわざこの君津の地まで遊びに来て、時には千葉の元まで連れ出すことさえあった。
「ちーばー!」
「鹿島じゃん、ひさしぶりー」
俺よりも少しだけ年上の少年がふわりと笑って手を振る。
ワインレッドの瞳の温かさは俺たちを歓迎しているものだという事はすぐに分かった。
川崎製鉄千葉と鹿島は会社こそ違えど友達になっていて、こうして君津の町から外に出ない俺を引っ張り出すことさえあった。
2~3度遊んでいくうちに周囲を振り回す傍若無人な鹿島とそれを面白がる最年長の千葉を諫めるのが俺の役割のようになっていて、呆れながらも俺自身それを楽しんですらいた。
鹿島の底抜けの明るさと千葉の面白がりな気質は俺の周囲にはないものだった。





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17.6.17千葉について少し追記

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太陽が昇る海2

施設内はまだ設備が十全ではないので、俺は会社の借り上げた部屋に東京と一緒に暮らすことになった。
本来なら八幡が共に暮らすことになるのだが、まだ操業開始から日の浅い堺の存在や豊橋の製鉄所構想もあって八幡はかなり多忙だったので代わりにという事だった。
「君津ー、夕飯食べないのー?」
「食べるに決まっとろうが!」
「……前から疑問だったんだけど、なんであんた北九弁なの?」
「知らん。気づいたらこうやった」
この頃の俺はずっと北九弁を使っていて、東京はいつもそれを変なものを見るように見てくるのだ。
もっとも、この頃の君津の街なかは八幡から多くの人が転居してきて町中には北九弁が響いているような状態だったので決して不自然なものではない。
とはいっても一応俺はこの土地で生まれた付喪神なので東京からすれば不自然に見えたのだろう。
「君津、戸田、邪魔しますよ」
「八幡が来たばい!」
バタバタと俺がその声の方に突進していけば、仕事上がりのスーツを纏った八幡の姿があった。
そして迎えに来た俺を見ると軽く目じりを下げて喜ぶので、俺はそれを見るといつも幸せな気持ちになれた。
「八幡、何しよん?」
「君津の顔見にですよ」
そうして俺の頭を軽く撫ぜてからいつも部屋にあがってきた。
机の上には東京が自ら拵えた魚の煮つけと青菜のおひたしにごはんとみそ汁が並ぶ。
食事作りは見た目こそ幼いがひとり暮らしの長く、まだ《男子厨房に立つべからず》という時代の名残りもあって東京の役割になっていた。
いつ八幡が訪れてもいいように三人分の夕飯を作っているから東京がふらりとやってきても対応できたし、残っても近所に住む顔見知りの胃に収まっていた。
「戸田は本当に料理が上手ですねえ」
「一人が長かったからね、あと君津は好き嫌いしない」
「そうですよ、しっかり食べないと大きくなれませんよ。食べることも私たちの務めです」
「分かった……」
「明日は来客があるんですから、人前で好き嫌いしないでくださいね」
「来客って?」
「ああ、明日釜石と都内で会うんです。そのついでに君津や戸田の顔を見に行きたいと。君津とはまだ会ってないでしょう?」
「なるほど。ついでにご飯も食べてくってこと?」
「そういう事です」
釜石の名前はうっすらと聞き覚えがあった。
(八幡の知り合い、かぁ)
どんな人なのだろうかと考えてみたけれど、全く想像がつかない。
ただ八幡がその名前をあげたときに、ひどく楽しそうな顔をしていたことだけが瞼に焼き付いていた。

****

あくる日の昼過ぎ、釜石は八幡と共にうちへやってきた。
5月の眩しい日差しで冷たいものが食べたいからと東京が作ったひやむぎと、八百屋に出ていた蕨やたけのこの天ぷらが食卓を彩った。
「初めまして、富士製鉄釜石製鉄所じゃ。よろしゅうな」
青い単衣の着物に身を包んだ八幡よりも年上らしい男性が俺に笑いかけながら軽く頭を撫ぜてくる。
その後ろで八幡がどこかとろりと溶けたような瞳で俺たちを見ていた。
「子供の頃の八幡によぉ似とるな」
「そうですか?」
「髪質とか目元の印象とかそっくりじゃぞ」
「よく分かりませんけど……釜石が言うなら、そうなんでしょうね」
「おう。君津、お前はきっと今に賢くなるぞ」
「八幡よりおおきなって仕事いっぱいするようになれるん?」
「間違いなくなれるぞ」
釜石の無邪気な褒め言葉を受け入れて素直に喜ばしい気持ちでいた。
いま思えば無邪気なものだと笑ってしまうが、そんなこともあったのだと温かな気持ちにもなれる良い思い出だ。


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【パラレル】遣らずの雨(R18)

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