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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

半世紀を踊って歩く

「そういえば50周年だったんですよね」
撤収作業のあとの打ち上げで、イーグルスがさっき気付いたという口ぶりでそう告げた。
いちおう自分の所から出す広報では50周年記念という事は繰り返し告知していたが、イーグルスには言っていなかった気がする。
「言い忘れてた」
「だから今日はここ奢りますよ、誕生日祝いの勝利はあげられなかったですしね」
「イーグルスが先に決めておいていたのはそういう事か」
事前に抑えていたというしゃぶしゃぶ食べ放題の店に連れられたのはそういう事らしい。
アルコール&ソフトドリンク呑み放題の一番高い和牛コースを無断で注文したのも気遣い、というより年の瀬で寒くなる財布の心配のような気もする。
「……まあいい、奢りなら遠慮せず美味しく頂いていくか」
「ええ」
さっそく届いた野菜とつみれを鍋に入れ、最初の一杯を軽く掲げる。
自分はぬるめの日本酒を、イーグルスはオレンジジュースだ。
「誕生日おめでとうございました」
「ああ」
軽く合わせてからぬるめの日本酒で軽く体をほぐす。
「楽しい50年だったな」
「そのうち20年は僕がいた訳ですね」
「ブレイブルーパスさんの背を見つめて、イーグルスに横から追い抜かれて、どんどんラグビー界が賑わっていくのを見つめてきて、
……本当に騒がしい50年だった」
そう呟きながら箸を取って肉をしゃぶしゃぶと湯がき、口に運ぶ。
安いながらも和牛だけあり、悪くない味だ。
「そう思うとまあまあ長く生きられたものだな」
50年、半世紀というのは思ったよりも長い。
レッズやシーウェイブスのように違う生き方を求められる日が、レッドスパークスのようにこの世を去ることを命ぜられる日が、いつか来るかもしれない。
「明日はどうなるか分からないこの時代によく生かしてもらえたものだ」
ラグビー界のみならず産業界はは大変革を迎えている。
自分も家族もその荒海を乗り越えられるのだろうか、傷を負わずに生きて行けるか自信はない。

「何言ってるんですか!
毎日練習して、思いっきりラグビーして、試合後に美味しいもの食べて、たまに一緒に代表の試合見て大はしゃぎして、選手とファンと家族と手をつなぎながら愉快にしてたら50年なんて一瞬ですよ!」

最後に弱気で「……ブラックラムズ先輩の受け売りですけど」と付け足したイーグルスに、ふっと小さく笑みが漏れた。
「50年後も同じ舞台でラグビーしてくれるか?」
「もちろん!」


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ダイナボアーズとイーグルス。
50周年おめでとうございます!

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二度目の奇跡は降りてこない

*先に2度目の奇跡は呼ばせない を読むとこの二人の話が通じやすいかも知れない

「やっぱアレは奇跡やったな?」
試合後のスティーラーズ先輩がサラリと言い放ったその一言に俺は小さく苦笑いが漏れた。
「最後のトップリーグの時の事やっぱり気にしてたんじゃないですか~」
冗談交じりに俺はあの日のことを思い出す。
最後のトップリーグの準々決勝、俺にとっては初めての大舞台の懸かった試合だった。
鍔競り合いの緊迫したあの試合をギリギリでねじ伏せたあの日のことを思い出す。
「そらここ数年で一番悔しかったからなあ、アレ」
「大先輩に悔しいと思わせるゲームもう一度やってやろうと思ったんですけどねー、もうスタメンの時点でやる気MAXだったし」
「そらそーやろ、二度も負けた鉄人の名が廃るわ」
「確かに」
あの試合はいつだったっけ、とスマホの写真を見返すと今年の5月だった。
もっと前だった気がするのは今年ずっと忙しなくいたせいだろうか?
遠くでスティーラーズさんとこのスタッフさんが呼んでいるのが見える。
「悪いけど俺今日早上がりせわあかんから片付け頼むわ」
「了解です。あとお土産どーぞ」
カバンからとりだしたのはトマトの詰め合わせ。
「……何でトマト?」
「お米とお酒はあげません」
おれん家ファームのお米とお酒をカバンから見せびらかすと「お前嫌いなもん俺に押し付けよったんか?!」と叫びだす。
トマトは嫌いな訳じゃない。ただ今日は気分じゃないだけ。


(リーグ戦ではおもいきり勝ってやろ!)

そんなことを思いながら「また今度ー」と言って去っていくのだった。

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スピアーズとスティーラーズ

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後片付け

この頃よく懐かしいものを見つけることがある。
長年手を付けられずにいた物置や荷物も今のうちに片付けなくちゃという妙な焦りがあるせいだろう。
昔のユニフォームや死蔵されてたグッツやチラシ、今となっては誰のかも分からないペンやイヤホン、隙間から出てきた小銭。
「ブルース、また小銭出てきましたけどいりまス?」
「だから要らん」
とりあえず出てきた小銭はプロテインシェイク(これも誰のか分からない)にいれてみる。
「こうして大掃除してみると色々出てくるもんやなあ」
キューデン先輩が何袋目かのごみ袋の口をしばって、新しいごみ袋を開けてくれる。
「ほんとですよネー。あ、先輩たち欲しいのあれバ持って行ってくださイ」
どうせここにあるもののほとんどは自分の手元には残せないものだ。
いくつかは親が手元に残してくれるだろうが、ほとんどは捨てるか人に譲るかするしかない。
妹にもいくつかあげたがせっかくなら二人にも何か貰って行って欲しい気持ちがあった。
「レッドスパークス」
「はい?」
「ちょっと奥のほうにあって取れないんだが、練習着って書いてないか?」
物置の奥に鎮座していた段ボールをブルースが指さすので、腕を伸ばして引っ張り出す。
20年以上前の練習着が未使用のまま出てきたので「まだ残ってたんデスネ」とつぶやいた。
「貰ってきまス?」
「……ガレージセールとかやる予定ないんなら」
ブルースがそう答えるので、じゃあこれは人にあげようと人にあげるものスペースに置いておく。
未使用のうちわやペンも出てきたし、この辺と一緒に贈ってしまおう。
(みんなへの形見分けぐらいにはなりますかネ?)
一緒に古い資料も出てきたが引き取り手がいなければ捨ててしまう事になるだろう。
「レッドスパークス、」
「はい?」
キューデン先輩が「ずいぶん出たな」と告げる。
「ホントですネ」
「ごみも荷物も思い出も大掃除するといっぱい出てくるから嫌んなるわ、いっぺんごみ外にまとめとくな」
ごみも思い出も55年分あると思うと、確かに多すぎて嫌になってしまう。
大掃除はまだ終わりそうにない。


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レッドスパークスとブルースとキューデンヴォルテクス。
ラストイベント動画見ました……?

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夜の散歩道

「長良川の鵜飼いって一年中やってるわけじゃないんだな」
何となく寝付けないから、という理由でサンゴリアスと夜の岐阜散歩に出ることになった。
ホテルを抜け出し、繁華街の賑わいを味わい、月夜のふもとに輝く岐阜城を拝み、気づけば長良川の岸辺に腰を下ろしていた。
「10月から来年5月までは休みなんだよ」
「じゃあどう頑張っても見れないじゃん、オフシーズンだし」
サンゴリアスがどこか不満げに声をあげる。
遠征ついでの観光であれが見れないこれが無いなど文句を言うな、と言い返す。
「そうだけどさ」
「明日、お前が試合に勝ったら飛騨牛のみそ焼き奢るって言ったろ」
「そうだったわ、逆に俺が負けたら栄のハブでコラボドリンク全部奢るんだっけ」
サンゴリアスが「まあ俺が勝つけど」と不敵に笑う。
生まれて一度も挫折を味わうこと無く健やかに生きてきた若造のくせに、こういう時に強者の風格を滲ませるのが上手だ。
「岐阜はセカンダリーホームみたいなもんだからな、地の利はこっちにある」
「そんな申請してないでしょ」
「愛知県民みんなそう思ってるぞ」
ちょっと大げさに言う愉快な煽りあい。
川辺の冷たい風と夜半の月がシリアスで愉快な空気を盛り上げてくれる。
「ま、決戦はもう少し先だけどね」
「そうだけどな。ぼちぼちホテルに戻るか?」
「うん、寝よ寝よ。さっさと寝て英気を養わなきゃね」




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ヴェルブリッツとサンゴリアス。岐阜での試合楽しみですね。

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名残

試合や練習のないときは東花園の駅にいる。
駅員として難波行き列車を見送ると赤・黄色・臙脂の三台の自販機が目に入る。
黄色はサンゴリアスの、臙脂はうちのマスコットが印刷された自販機で、もう5年くらいはこの並びだ。
「……レッドスパークスの自販機、まだ残しといてくれとるんやな」
この春にこの世を去ると告げて以降とんと音沙汰のない長身の男を思い出す。
まあ契約の都合とかで撤去されていないだけかもしれないが、こうしてまだあの名前がここにあることを喜ばしく思う。
レッドスパークスに久しぶりに連絡を取ってみようか、という気分になる。
携帯で自販機の写真を撮って『お前のとこの自販機は元気よ』という短いメッセージを添えて送りつける。
ついでにあったかい缶コーヒーでも買って、ぼんやり高架駅からの景色を眺めつつちびちびとコーヒーを飲む。
缶コーヒーを三分の二も飲んだころ、携帯がメッセージの到着を知らせてくる。
もちろん送り主はレッドスパークスだ。
『私も元気ですよ』
短いメッセージとともに自撮りが届く。
少し痩せたような気がするが表情の明るさは最後に会ったときと変わらない。
『ちと痩せたな、でも元気そうでええわ』
お前がここを去った後もこの自販機が名残りのように残り続けることを祈る。


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ライナーズとレッドスパークス。
東花園駅の自販機にまだスパーキーがいると聞いた感動で書いた……

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