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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

雪降れば君たちの温もり

1950年代のある冬の日。
日本海側で大雪になった理由を天気予報士が解説しているラジオを聞いていた葺合が、ふとラジオを止めた。
「どうかしたの?」
「少し電話してくる」
そう言って黒電話をジーコジーコと回してから、「もしもし」とゆっくり口を開けた。
「久慈、そちらの雪は大丈夫か」
その名前を聞いてなるほどと腑に落ちた。
うちで唯一砂鉄精錬を行う久慈のにいさまの住む三陸の北端の様子が心配になったのだ。
「うん、かんてん?……ああ、半纏、半纏が欲しいのか。西宮」
「えっ」
「久慈が半纏を寄こしてほしいらしい」
そう言って黒電話の受話器を私に寄こしてきたので、それを受け取ると『もしもし?』と久慈のにいさまの声がした。
「お久しぶりです、久慈のにいさま」
『ひさしぶり。さっき葺合君にも頼んだのだけれどこちらに半纏を4着ほど送ってほしいんだ。
この寒さで暖房の効きが悪くて事務方の人たちが寒そうにしてるものだから、少しでも暖かくしてもらおうと思ってね』
「久慈のにいさまは半纏使わないんですか?」
『ぼくは別に平気、材料費は明後日にでも送るよ』
いつもの口ぶりでにいさまは平気と笑うけれど、あちらはずいぶんと寒かろう。
過剰なほどの遠慮は久慈のにいさまの悪癖だという事はよく知っているから一枚多く寄こすことにしよう。
「そんな材料費なんて」
すると葺合が私の持っていた受話器を掴んで「それくらいなら俺の個人的な金で出す、親父さんも少しは出してくれるだろうし心配はするな」と告げて私に受話器を返した。
『……葺合がそう言うならそうさせてもらうよ。男物の半纏を4枚、お願いするね』
縫い物はさほど得意ではないけれどこの間神戸さんからミシンを譲ってもらったばかりだ。
葺合にはしばらく夕食を外で食事を済ませてもらうようにお願いして、仕事終わりから寝るまでの時間を半纏づくりに当てればすぐに用意できるはずだ。
「わかりました、大人の男性用のものをお送りしますね」
『ありがとう、西宮』
久慈が安堵の声色でそう告げるので「お互い様です」と答える。
うちの鉄の品質は久慈のにいさまが作った砂鉄銑によるところも大きいし、なにより尊敬できるにいさまなのだ。それぐらい苦ではない。
そうして作った半纏を、兄さまは終生大事に着てくれた。それだけで十分だった。


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西宮と葺合と久慈。

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初冬の苺はまだ酸い

「真岡、手土産の苺もいいけど仕事の話をしましょう」
「……神戸ねーさまは怖いなあ」
ボソッと呟きながら私にいちごの箱を預けてきたのは真岡ちゃんだ。
見た目こそ10歳ほどの少女ではあるが、うちの会社のアルミ事業をほぼ一人で担い電力事業においても姉さんに次ぐ規模を持つ彼女には少々性格的に問題があった。
私たちから離れて一ずっと人で暮らしてる事や真岡の専門であるアルミについて私たちが口出ししづらくて放任気味に育てたせいか、少々自主自立が過ぎる節がある。
見た目は反抗期の小学生だがいかんせん中身は大人なので口も頭もよく回る。
姉さんに対しても慇懃無礼で4年前の品質偽装事件で怒りが達した姉さんは、半ばその憤懣をぶつけるように厳しく接するようになった。
「とりあえず言われたものは全部持ってきましたよ。
真岡発電所関係を赤いファイルに、アルミの製造状況に関しては青いファイルに入れてきました」
ざっと目を通した姉さんは私にも赤いファイルを渡してきた。
私も目を通してみると、内容は今年9月に開館した発電所の見学施設の利用状況や運営の維持管理に関する資料だった。
あらもないし読みやすく出来ていて問題は無いように見える。
(……言えばちゃんと仕事やるのよねえ)
ただちょっと、姉さんとの仲が微妙なだけで。
間に立ってる私のほうは胃がキリキリする気分で、二人の間に漂う嫌な沈黙にどうすることも出来ない。
「とりあえずまじめに仕事はしてるのね」
「そりゃもう、神戸のねーさまと違ってアルミの主力工場ですから」
「うちは鉄の会社よ?」
「でもアルミもうちの柱ですよ」
また始まった。一歩間違えると喧嘩になる奴だ。
ふたりの皮肉の応酬にちょっと疲れてしまったので台所で頂いた苺をざっと水洗いすると、そのままぱくりと頬張る。



「まだちょっと酸っぱいかな」

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加古川ちゃんと神戸ネキと真岡ちゃん

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ほんとの祝福は3年後

インターネット電話をつないだタブレットによく冷えたビールと柿の種を手に、テレビを付ければもう抽選会は始まっている。
「19年大会の抽選会の時もこうやってオンラインで繋いだよな」
『あの時はみんな仕事でバタついてたからね』と冷静に突っ込むワイルドナイツに『まあみんなで楽しめるのが一番でしょ』と楽し気なブレイブルーパス先輩の横にはブレイブループちゃんもいる。
それを横目に死の組がどうこうと言い出す千葉トリオに、イングランドって何組やった?と言い出すスティーラーズさんに大阪コンビと、今回もやっぱり騒がしい。
(まあトップリーグ全員で抽選会見守ろうと思うとこうするしかないんだよなあ)
全国各地に散らばる面々が一堂に会するのはこんなご時世でなくても難しく、けれどオンラインでもただ喋りながら見守るのも楽しいものだ。

『日本はグループD入り!』

Japanの文字が書かれた球が出た瞬間にそう言ったのはブルースだった。
「グループDだとイングランド?」
『あとアルゼンチンだね、でもイングランドなら去年エディーと試合できなかったし良いんじゃない?』
ワイルドナイツは楽し気なのに対して『6月に全英代表との試合が在るだろうに』と呟くのはブラックラムズさんである。
「でもライオンズってエディーが監督だっけ?」
『確かウォーレン・ガットランドだったような……』
『イーグルスが言うならそうなのだろうな』
「イングランドも良いけどアルゼンチンも最近オールブラックスに勝ったりしてて強いよなあ、あとどこだっけ?」
即座に答えてきたのはイーグルスだった。
『オセアニア一位と北米2位ですね。オセアニアはサモアかトンガ、北米はカナダが有力ですかね』
「あー……なんかすごいめんどくさそうな気配すんな」
『ですね、だからブルースさんも機敏に反応したんじゃないですか?藤井さんのところ行ったみたいですし』
そういやブルースのところのヘッドコーチはずっと日本代表に帯同していたことを思い出し、だからこそ挙動に注目していたのかもしれない。
『でも見る側としては楽しい組み合わせでいいじゃない』
ワイルドナイツが薄く笑いつつハイボールに口を付ける。
「そうなんだよな」
まずはこの最高に楽しそうな組み合わせに入れた幸運への感謝の祝杯を捧げよう。




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23年大会の組み合わせ、出ましたね。

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50年目の腐れ縁

「今回も馳走になるな」
そう言いながら東京近辺の美味い酒を広げてくるブラックラムズに「……気が早ないか」と思わず呆れてしまう。
もう50回近い交流戦の相手となるブラックラムズはまるでここを香椎にあるもう一つの家のように馴染んだ顔で酒を開ける。
まだもつ鍋の準備を始めたばかりだというのに家主を抜きに飲み始めるのもどうなのだろう。
「もちろん貴兄の呑む良い酒も十分に用意してある、第一に貴兄は日本酒を嗜まないだろう」
「まあ、出されれば飲むけどな。日本酒に慣れてへんだけやし」
ざくざくと切り刻んだ野菜やモツをそのまま市販のだし汁とにんにく醤油を混ぜたスープに入れて、野菜に火を通るまで煮るだけ。
料理としては簡素だがこの博多もつ鍋がブラックラムズはお気に入りのようで、交流戦のたびに振る舞っている。
「此れが貴兄の分だ、今回は八丈島で作られてる芋焼酎を用意した」
グラスにとくとくと注がれる芋焼酎からはほのかにサツマイモの甘い匂いが薫ってきて、初めて飲む酒にワクワクする心地だ。
まずはストレートで飲んでみるとサツマイモの甘さと焼酎の香りがふっとぬけてくる。
試合後の身体から緊張を抜き取ってくれるような程よい甘辛さが心地よい。
「……これはいい」
「貴兄の好みに合うようでよかった」
「ロックがええかな、氷とってくる」
「ああ」
グラスに氷を2つ3つ落としてカラカラと振り混ぜれば、温度差でゆらめくように酒が対流していくのが見える。
ついでに冷蔵庫から鍋の薬味を探してみると炭酸水もあったのでこれも飲んでしまおう。
「もう煮えたようだが食べて良い頃合いじゃないのか」
「ああ、そうしよ」
長い腐れ縁が持ってくるのは最高のゲームに知らぬ酒。
それだけがあればいくらでも逢う価値はあるというものだろう。




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キューデンヴォルテクスとブラックラムズ。
本日の練習試合が48回?とか続いてるらしいので。

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冬の湯船に愛が浮く

街も随分冷え込むようになってくるのを感じるたびに、もう冬だなと思い知らされる。
相変わらず厳しいこの街の冬を何度過ごしてきたかなんて数えたくもない。
されどここに生まれこの町の誇りとして生きてきた以上はこの冬の寒さに文句など付けることもできない。
それに、この12月1日という日は多くの人々が自分の誕生を祝う記念日なのだ。
紙袋に詰め込んだ祝いの品をぶら下げながら一人暮らす家の扉を開ける。
「おかえりなさい釜石!」
自分の冷えた体に遠慮もなく飛び掛かってきたのは割烹着に身を包んだ八幡だった。
マスク越しに八幡の熱い頬が触れ、抱きしめる腕の力もすんすんという匂いをかぐ音もこれが現実だと伝えてくる。
その一つ一つが妙に懐かしくてぽんぽんとその背中をたたくと、強く抱きしめ返される。
このところは流行り病で長距離移動を制限され、こうして対面で逢うのはずいぶんと久しぶりだ。
「お前仕事とかええんか?」
「ちゃんと終わらせてから来てますよ。ちゃんとマスクや消毒液も持ってきてますし……あ、手指消毒」
「手洗いうがいで良かろ」
「ならお風呂沸かしてありますから!お先にどうぞ」
そう言うと名残惜しそうに八幡が腕を放して荷物も運んでおいてくれるというので、遠慮なく一番風呂を浴びに行く。
自宅の古い風呂の扉を開ければふわりと温泉の香りがして、どこかの温泉場の湯の花でも入れておいてくれたのが分かる。
綺麗に体を洗い流して湯の華薫り立つ熱い湯に身を浸す。
じんわりと指先まで温かさと祝福が染みわたり、温泉の香りを体いっぱいに吸い込む。
(……それにしても今日は嫁でも貰った気分だな)
100歳もとうに過ぎ八幡の供給過多な愛情の受け取りには慣れているつもりだったが、こういう方向から来られるのは初めてでこそばゆい。
「着替え置いときますね」
扉越しに八幡がそう告げてくるので「おう」と答えると「夕飯も出来てますから」と答えてくる。
「今日のお前さんは嫁さんみたいだな、男なのが惜しいくらいだ」
「釜石にしかしませんけどね」
「確かにわし以外にこんなことするお前さんが想像つかん」
自分の事がずっと好きな男だという事はこの半世紀でよく分かった。
その愛を信じていると言えば聞こえはいいが、本当はただの甘えなのかもしれない。
「……今日は南部鱈のたらちりですよ。
それに色々プレゼントも預かってきてるので楽しみにしてくださいね」
今日はお湯だけでなく愛情で指先までよく温まれそうだ。




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八幡釜石。最初は足し算のつもりがカプっぽくなったのでカプ扱いです。

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