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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

うなぎよりもうしのにく

本日、土用丑の日。
世間はうなぎだうなぎだと騒ぐ中、俺の姉は一人ステーキをむさぼっていた。
「牛の肉だね」
「うのつくものだし問題はないだろ、それにうなぎの旬は冬だぞ」
自粛の風潮も少しは落ち着いたからと久しぶりに一緒に食事しようという話になったのはいいけど、どうせなら普段食べないうなぎが良かった。
「ザブトンがいい色になってきたな、お前も食え」
いい色に焼けた希少部位の肉を差し出してくるので俺は大人しくそれを塩で食う。
上質な肉の脂がじわりと舌に広がって溶けていく。しみじみと美味い。
「美味い……」
「だろ?あ、すいませんビールの大瓶追加で!」
肉とビールと時々美味いナムル。幸せだし精はつく。
ああ、でもやっぱり少しうなぎが恋しい。
「尼崎」
「うん?」
「土用丑の日って言うとどうしても夏のイメージだけど、土用は年に四回ある。そして最近、寒の土用の丑の日にうなぎを食うってのがある……あとは分かるな?」
「冬にうなぎ驕ってくれるの?」
「お前が仕事頑張ればな」
冷たいビールが俺のジョッキに注がれる。
「夏の土用が終われば立夏、夏も盛りになる。ビールと肉で乗り切んぞ」
実にいい笑顔でほくそ笑む俺の姉は実にイケメンだった。



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尼崎と此花ネキ。

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悪夢のあとを生きている

地響きのような着弾音、燃える街で人々を防空壕に押し込んでいく。
とにかく、一人でも生き延びさせる。この街の未来の守るために。
その焦燥感だけが傷ついてぼろぼろの身体を突き動かす。
火傷のひりひりとした痛み、骨が折れたような痛み、生ぬるい血が垂れる横っ腹。動くべきじゃないと分かってても体は焦燥感で動いている。
燃え盛る街を彷徨う子どもと目が合った時、頭上からグラマンの音が耳を突いた。
その子供を腕に抱えて、抱えて……

目が開いた。きょろきょろと視線を回せば何度も暮らしている家だった。
重い身体を動かすとデジタルの目覚まし時計は2020.7.14という日付を示していて、あれが夢だったと分かった。
悪夢を見ることは何度もあったけれど慣れることは一度だってない。
その証拠に寝間着が汗で湿っている、手足も頭もひどい寝汗でじっとりとして不愉快だ。
帯を解いて肌着も脱ぎ捨ててお湯で湿らせた濡れタオルで腕をぬぐうと、少しは寝汗もマシになる。
誰かの声を聴いて甘えたいような、けれど最年長として甘えてしまうべきではないような、複雑な思いを逡巡させながらゆっくりと全身を濡れタオルで拭っていく。
身体にいくつか残る古傷は皮膚が薄いせいで青ざめたようになっていて、温かい濡れタオルでようやく血の気を取り戻した。
全身をぬぐい終えると新しい下着と着物に着替え、ついでに薄い長羽織も着ることにした。
汗だらけの寝間着と下着、枕カバーは洗濯した。もっとも、今日洗ったところで梅雨だから夜までには乾かないだろう。
案ずるように猫の姿をしたサッカー部が近寄ってくる。
虎舞の虎によく似た黄色と黒の毛並みは自分のところの部活たちに共通の姿であるけれど、人型を取れないまま自分のところにいるのはいまやこの子だけだ。
「……長く生きると、いいことも増えるがそれ以上に嫌なことが増えてく気がするなあ」
よしよしと撫ぜれば励まし方が分からないのか全身を自分に委ねてきた。
その毛並みを撫でながら今日という日を、想う。



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釜石おじじと悪夢の向き合い方。
釜石艦砲射撃の日に寄せて。

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触れ合えないこんな夜には

うっかりカビだのキノコだの生やしそうな長雨の季節はまだまだ続きそうだ。
窓の外に降り続く雨に何度目かのため息をついた。
どうせやる事がないからと久しぶりにカメラの整備をしよう、そう思って道具を棚からカメラを取り出す。
ファインダーの埃を飛ばし、レンズや液晶を磨いて、本体も軽くぬぐえば少しは綺麗になった。他のレンズもちゃんと磨いてきれいに整理すれば本体は大丈夫だろう。
あとはカメラデータの整理でもしよう。
日常使いのノートPCとカメラを繋いでみれば、写っていたのはすべて個人的な日常の写真だ。
試合や練習時の風景写真用のSDではなく日常用のものを刺しっぱなしにしてたんだろう。
シーズン終了のときにみんなで食事した時の写真だとか、新ユニお披露目の時に浮かれて撮った写真だとか、駅前に応援横断幕を張ってもらった時の奴とか、そんな結構日常的なものが多い。
「あ」
これは去年あたり、二人で出かけた時のものだ。
確かあの時は少し遠出をしようと二人で大磯のほうまで行ったのだった。
モノトーンでまとめられた服に帆布の青いカバンを下げて、ただ海を見ている写真だった。
こうして見ると美しい人なのだ、という事を思い出す。ちょっと話し方に癖があるだけで。
その時撮った写真はみんなブラックラムズさんが被写体のものばかりだ。
(……もう、しばらく会えてないな)
画面越しに会う事はあるけれど、長雨と外出自粛の余波で逢いに行くのが少々おっくうになっているのが事実だった。
「どうしよ、」

こんなの見てたらよけいに逢いたくなっちゃったじゃないか。


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イーグルスとブラックラムズ。いちゃついて欲しい。

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かささぎの橋をかけて

降り止まない雨とじめじめとした梅雨空と空気に情緒がかき乱される。
昔からこの季節はどうも苦手だ。まして大雨ともなればなおさらのことで、ないはずの古傷がうずくような感覚すらする。
クーラーをつけてみてもすぐに部屋が冷える訳ではない。
(……釜石に逢いたい)
こうなるといつだって自分の支えだった人のことばかり思いだす。
己の師にして最年長である釜石は、国家の威信を以て完璧であろうとしなくてもよいと言ってくれる唯一のひとなのだ。
とりあえず電話でもかけてみよう。あの声を聴ければ少しは穏やかでいられる気がする。
携帯電話を鳴らすとベルが鳴り終わらぬうちにその声が私の耳に届く。
『八幡、どうかしたか?』
「ただ釜石の声を聴きたくなったんですよ」
『そうか、そっちは大雨だろう?身の安全には気を付けろよ』
「もちろんですよ」
今宵は七夕。
この雨では天の川にかささぎの橋を架けることはできないだろうが、電話の一つかけたって誰も怒りはしないだろう。


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八幡釜石の七夕

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夏越の祓

6月30日、広島市内某所。
静かに曇る空を見上げながらこの後どうしようかと少しばかり考える。
父親に呼ばれて広島市内の本社まで来たが昼過ぎには用事が片付き、ようやく再開された練習が始まるまではだいぶ余裕がある。
久しぶりにパルコかゆめタウンにでも行って新しいトレーニンググッツでも見に行こうかと思案していると、ポケットに入れていた電話が鳴った。
「マーズ兄さん、どうかしましたか」
『いや、今暇しよるか?』
「そうですね、本社に呼び出されたのは早く用事が済んだので新しいトレーニンググッツでも探そうかと」
『ちゅうことは市内に居るんか、ならちょうどええな。いま宇品の工場に居るけえ護国神社の六月祓に行かんか』
「良いですよ」
待ち合わせ場所を決めるとすぐに電話が切れた。

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護国神社の駐車場に車を止めると、思ったよりも参道は賑わっていた。
平日昼間でこの病禍のご時世によくもまあみんな来るなとつぶやくと「こういう時ほど神頼みなんじゃろ」と兄さんは笑った。
六月祓というのは6月の最終日に行われるお祓い行事で、茅の輪くぐりと言えば分かりやすいだろうか。
青々とした茅で作った大きな輪を八の字にくぐって厄払いをするアレだ。
「でも何で六月祓なんです?」
「上半期の厄落としだな、それに今シーズンのこととか新リーグのこととかもお祈りしてこようと思って」
「あー……今年はほんとに大変でしたもんね」
今年上半期に起きた様々な出来事が脳裏を通り過ぎていく。
下半期のほうもはたして穏やかに過ごせるのか?と思えば頭を抱えたくなる不安要素ばかりだ。
「ついてる厄は少ないほうがいいしなあ」
「ですねえ」
そうこうしていると茅の輪くぐりも自分たちの番になる。
ぐるぐると輪をくぐり、ぶつかって付いた茅もちゃんと払い落とす。
「……少し体も軽くなった気がしますね」
「そうだな」
ついでに神社もお参りしていこうと言って本殿のほうへ足を延ばすと、同じような考えの人たちが距離を保ちつつ並んでいる。

「そういやあ、新リーグの参加申し込みどうしたんだ?」

いかにも暇つぶしのようにそう切り出した兄さんの目は、どこか淡い不安の色があった。
(……本当はこのこと聞きたかったのかな)
申し込みチーム名の発表は明日だ。
事前に知って心の準備がしたいと思ったって不思議じゃないのかもしれない。
「参加するって話、あったろう」
「ええ」
「出しましたよ」
僕があっけなく答えると、「そうか」とつぶやいた。
「再来年には広島ダービー復活か」
「はい」
兄さんがどこか嬉しそうに呟くので、僕も心が穏やかになる。
明日から7月。本格的な夏は近い。



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レッドレグリオンズとブルーズ―マーズ。
広島ダービー復活確定めでたい!

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