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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

花火の咲かない夜の空

残暑の残るドラックストアの隅に割引になった花火が積まれていて、それに何となく手を延ばした。
「で、あなたたちを呼んだんですよ」
筑西と桜川がきゃあきゃあと声をあげながら花火が火を噴くさまを楽しむ横で、結城は折りたたみいすに腰かけたままつぶやいた。
「……普通に小山の花火見に行きゃいいだろ」
「それはそれ、これはこれです」
下館もおそらく同じことを思い出してるのだろう。

「もうここで花火は見られないと思ってたんだがな」

少し前まで筑西市川島地区には小さな花火大会があった。
とはいっても近隣の住人しか来ないようなかなり小規模なものだ。
小規模ではあったが大会の日には、空き地に屋台が並び河川敷には花火を見に来る人が集まる近隣の風物詩であった。
その花火大会も鬼怒川の堤防工事と来客数の減少を理由に終了となり、もうこの夜空に花火は咲くことがなくなってしまった。
「花火のない夏ってのはどうも寂しくていけないな」
「小貝川の花火もあるくせに」
「それはそれだよ」
筑西と桜川の見ていた花火の火の勢いが少しづつ消えていく。
「新しいのつけてー!」
「はいはい」
過去は川の流れのように遠ざかる。
新しい時代が積み重なれば遠くなっていくものを、私たちはひそかに記憶し続けている。




いつかの夏の結城+下館。
今年は花火大会が軒並み中止になって寂しいですね。

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ホットケーキとパンケーキ

小倉の駅前でばったりとばたに遭遇した時の第一声は「内緒にしてくれますか」だった。
自粛自粛のこのご時世だ、散歩にしては遠すぎる距離の移動を咎められるのは困ると思ったのだろう。
「……別にお前さんを困らしたい理由はない」
そう告げると安堵したように表情が緩んだ。
「なら良かった」
「むしろ俺もそこらへん歩いてるほうが怒られるだろ」
「そうですね、私も黙ってます」
お互いそう言いあいながらぶらぶらと平和通り沿いを歩いているととある古い雑居ビルに入っていく。
「なんか用事でもあるのか」
「馴染みの店があるんです」
戸畑の後ろについていくと雑居ビルの3階へと迷いなく登ってゆき、古い木の扉を開けた。
赤いじゅうたんが敷き詰められ、レトロなカーテンや古いテーブルの並ぶ底はミルクホールの雰囲気がある。
本当に馴染みなのか店主はさっそくアイスコーヒーを二人分出してきて「予約のものは少しお待ちを」を言ってくる。
「ほんとに馴染みなんだな」
「ええ」
古めかしいがよく手入れされた机やいすは座り心地がよく、ガラスの灰皿やいくつかの新聞の横に喫煙可の看板もある。
ありがたく煙草に火をつけ、スポーツ紙を開いた。
競馬欄を再確認してからスマホで馬券購入の手続きをする。
「競馬場行ってたんですか」
「ああ。でもよくよく考えたら今無観客なんだよな……もちろん黙っててくれるよな?」
「私も小倉さんを困らせる理由はないので」
お互い様という結論に至ったのちに馬券の購入手続きを終えてスマホをしまうと、遠くから何かの焼ける香ばしい匂いがした。
「お待たせいたしました、ホットケーキです」
店主が出してきたのは厚さ2センチはあろうかという分厚い3枚重ねのパンケーキだった。
こんなに分厚いのは初めて見たが店主も焼くのに一苦労しそうな代物だ、予約のものと言っていたのはおそらくこれだろうが予約制なのも察しが付く。
さっそく戸畑はざくざくとフォークで切ると何もつけずにかじりついた。
焼きたての湯気と香りは辛党の自分の目にもおいしそうに見える。
「……最近はやりだよな、ホットケーキ」
「ええ。家で作るのもいいですけど私はここの分厚いホットケーキが好きで」
どうにも我慢できなくてと戸畑が苦笑いを漏らすが、確かにこれは素人では作れそうもない。
「そういやホットケーキとパンケーキってどう違うんだろうな」
「一般的にはほぼ同じものですよ、甘さや厚みやかけるものなど細かい違いはありますけどね」
開いていた馬券購入サイトを閉じて地元のニュースサイトを開く。
八幡の高炉閉鎖前倒しの文字がトップニュースを飾っているが、その写真は俺の高炉だ。
違うのに同じものとして扱われることへの嫌悪感がかすかに胸に落ちる。
「本当に同じなのか」
戸畑は俺の手元のスマホを見て俺の意図を読んだのだろう、ひとくちコーヒーでのどを潤してからいう。
「小倉さんが自分を自分だと信ずる限りは、別物であり続けるでしょうね」
ぼんやりとした答えだが、今はもうそれにすがるほかないのだろう。



小倉と戸畑。八幡であって八幡でない二人の話。

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一万巻の祈り

煌めく糸をひと針、またひと針と刺していく。
その間だけはすべての雑念が払われて凪いだ海にいるような心地になれる。
紫から青へと変わる布は夜空になり、黄金色に光る糸は夏の星空になり、遠くに混ざる水色は水平線になる。
星空の下にはわれらの可愛い末弟・周南とその良人である呉ののうしろ姿を。足元には果てしない白砂の大地を。
輪郭を縫い取ったところで窓の外に目を向ける。
5月、新緑と青空の季節だ。しかしそこには人気は無い。
昨今の病禍により人々は日を浴びることなく暮らしていることを思い知らされる。

(……あの二人は、どうしているのだろう)

まともに顔を合わせていないのではないだろうか。ひとりでつらく悲しんではおるまいか。
そんな風に思うのは自分にとって周南のみならずその良人、そしてその兄たちももまた自分にとって大切な人だからなのだ。
かつて国営の名を冠した人の思惑によって出会い、新たな名を得て共に働いた日々は手が届きそうなほどに近いがすでに過去のことになってしまった。
良人として選んだ呉を失う未来が定められた周南を想う。
そして二人の幸いを願って神仏に何度となく祈ったことを、その祈りが届かなかった無力さを、思う。
そして、兄よりも先に死ぬことを宿命づけられた弟のことを泣くことすらできなかった次屋のことを想う。
そのことを誰かのせいにできたらばどれだけよかっただろう。
紫の空に向かって手を延ばす二人を布に描くことは祈りであり贖罪であり供養であるのかもしれない。
「……祈りとは、無力だ」
しかし終わりのない荒行のように延々と祈りを重ねること以外に詫びる手を知らなかった。




桜島さんのはなし。

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アンソロ参加のお知らせ

こんにちわ、もしくはこんばんわ。管理人です。
茨城県アンソロ「死ぬまでに行きたい茨城」に参加しました。ほぼほぼ結城さんの話です。
最近は製鉄とラグビーしか書いてないので久しぶりに結城さんを読むことができる貴重な機会となっております。いやここでも書けという話なんですが。

詳細はアンソロ公式サイトか、主催さんによるサンプルをご覧ください。

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夜明けまで語れたら

外出自粛のこの頃、とにかく人との雑談が恋しくなりがちで気づくと誰かに連絡してしまう。
特に酒が入るといやに寂しくなっててきとうに連絡をつなげてみる。
今日は西宮と神戸のほうと連絡がつながって「ひさしぶり」と声をかける。
『久しぶりって程じゃないわよ、3日ぶり』
「そんな頻繁に連絡してたっけ」
西宮が何かを確認すると『今月半ばからほぼ3~4日おきに連絡もらってますね……』と言う。
人恋しくなってる自覚はあるがそこまでやってたのかと思うと「なんかごめん」としか言いようがない。
『そういえばお気に入りの飲み屋が閉まってるとか言ってたわね』
「緊急事態宣言出てすぐに閉まっちゃって、いちおう配達はしてくれるんだけど人と話さないと飲んだ気しなくて」
『今いろんなもので前で頼めますもんね』
「ほんとになー、西宮いまなに食ってるの?」
『お取り寄せした北海道のカチョカバロと山梨の無添加ワインです、これがすっごい美味しくて……』
液晶画面に映されたワインの瓶と焼いたチーズの画像はいかにも美味しそうだ。
『ホットプレートでお野菜も一緒に焼いてるんですけどこのお野菜もおいしいんですよ』
『完全に酒飲みねえ』
「神戸は?」
『木曜は休肝日にしてるのよ。代わりにチャイを淹れてもらってるとこ』
そう言ってると神戸の横から小さめのマグを持った手が伸びてきた。
『スティーラーズ、挨拶』
『ああ、いつもお世話んなってますー』
いつもの赤毛をナイトキャップにしまい込みゆったりしたパジャマのスティーラーズがへらりと笑って手を振った。
「スティーラーズか、こっちは本格的に久しぶりだな」
『そうですねえ、姐さんがここでお茶する時しかお会いしませんもんねえ』
「ラグビーも休みだし暇してるだろ」
『そりゃーそうですよぉ』
「サッカーも中止だしなあ、千葉とかも泣いてるだろ」
『うん、本当はこの連休に遠征がてら顔見に来てくれる約束だったんだけど試合が中止になっちゃったからやっぱりさみしいわね』
『ラグビーも中盤のいいとこでリーグ戦終わっちゃったからほんと嫌よね』
『こればっかりはどうにもなりませんって。お二人もお体気を付けて、俺はここで退散さしてもらいますねー』
そう言ってスティーラーズが画面から消えていくのを手を振って見送れば『ま、あの子がすねてこないぶんましなのかしらね』と神戸が言う。
「拗ねてるのは神戸のほうだろ」
『べつにすねてないわよ』
『そういう人のほうがすねてるように見えたりしますよね』
「西宮もこう言ってるぞ」
『すねてないわよ』
不機嫌そうに神戸がチャイを飲むと、西宮がそういえばと話を切り出す。
『私チャイって飲んだことないんですけどスパイス入ってるんですよね?』
『そうよ、生姜とシナモンとカルダモンを紅茶と煮だして牛乳と砂糖を入れてね。生姜入ってるから指先の冷えに効くし、寝る前に飲むとよく寝られる気がするのよね』
『へえ、私も試してみようかな』
『茶葉はニルギリで作ると美味しくできるわよ、水も硬めのミネラルウォーターを沸かしてね。
スパイスは粉末のを使うんだけど私は粉を買っても使いきれないから普通のひね生姜を薄切りにして使っちゃうのよね。あ、シナモンとかカルダモンも買ったやつ余ってるから今度あげるわ。
あとはー……「長いな!」
思わず私が渾身の突っ込みを淹いれると『いいじゃない別に』と不満を漏らす。
「ほんとに紅茶好きだよな」
『そうね、此花はあんまり飲まないわよね』
「出されれば飲むけど高い紅茶を少量より安い麦茶がぶ飲みしたいだけ」
『あなたそういうタイプよね、量より質というか』
『それはちょっとわかりますね』
「西宮ー……もどっちかと言えば神戸タイプか」
『そうですね。私たくさん食べるタイプじゃないですし多少高くてもおいしいもの食べたいじゃないですか』
『一人だからこその自由ね』
「味方がいない……」
『まあそういう日もあるわよ』
終わりのない雑談をグダグダと続ければちょっとは寂しさも消えていく。
新しい酒に口をつけてると神戸がおすすめの茶葉の話をしだすので、それをぬるく眺めながら終わらない夜を過ごしている。


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