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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

レールに呼ばれる

数日、仕事で遠方へ行くことになった。
目的は自社製品の利用状況の視察。それについてきて欲しいと請われたためだった。
水島は少し寂しそうにしていたけれどお土産を買っておくと言ったら少し期限が良くなったあたり、意外と現金な性格をしているよなあと苦笑いしつつもどういうのが好きだろうかと考えたりもした。
「……なんだか、遠くに来ましたねえ」
オーストラリア内陸部の巨大鉱山。
そこを走る鉱山列車のレールは私が手掛ける特別なものだった。
砂と岩だけが延々と広がる世界の果てのごとき鉱山へつながる一本のレール。
日々使われてピカピカに磨かれたレールの表面は日々とてつもない重みに耐えて荷物を運ぶ証拠で、これが私たちの手で生み出したものなのだと思うと実に感慨深いもがあった。

むかし、八幡さんに言われたことがある。
『数ある鉄製品の中でもレールは特別だと思いませんか』
『……何故ですか?』
『鉄道は文明開化の礎で、その礎にあるのがレールなんです。そして鉄道にまつわるものの中でもいち早く国産化したのがレールであり、そのレールが今も私や鉄道会社によって支えられている』
鉄道に必要なレールの国産化に取り組み今も日本の鉄道用レールの生産を担う八幡さんが言うのならばそうなんだろう、と思ったのを覚えている。

海外からの輸入で手探りで始めた技術を我が物にし、それが今や海外で売ることのできる製品になっている。
それは八幡さんのみならず私の姉である京浜や神戸さん、此花さんと言った多くの先人たちの努力の積み重ねの先に出来上がったものなのだ。
「福山さーん、行きますよー」
「はい」
私は鉄を作る。レールを作る。
そしてそのレールはいつか、私の知らない遠くの景色を見せてくれる。




福山ちゃんとレールのお話。
PS3の大河内賞受賞とか大宮てっぱくのレールについての展示を見てたら、レールって製鉄においてめちゃくちゃ重要な産品だなあと思ったので。

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柏餅しかない休日

ラグビーの試合が無くても練習と仕事は付きまとう。
そしてこの連休を使ったイベントもあっちこっちで盛りだくさん、となるともはや休みとは言えなくなる。
「……疲れた」
「このミラクルセブンも同じだよ……」
ふふふと死んだような声を上げたシャイニングアークスとグリーンロケッツがうちで死んだように寝ころんでいた。
家に帰ったら、昨日畳返しをして綺麗になったばかりの畳に横たわる男二人は普通に心臓が悪い。
合鍵の隠し場所バレてるから引っぱり出して侵入したんだろう。
「ほんとにお疲れなんだねぇ」
福岡で買って来たとんこつラーメンのセットと焼きたて餃子を出してあげると、むくりと起き上がって食べ始めた。
「このミラクルセブンは仕事と練習しかなかったんですよ?!練習がオフでも仕事は通常運転!うちの姉は仕事休みでずっと寝てたのに!」
「そっちはまだいいじゃないですか、仕事と練習だけで。うちなんか幕張のイベント行ったらレッドハリケーンズいたんですよ?!極力顔合わせないようにはしてましたけどその気疲れと言ったら!」
(よくもまあ食べながら器用に怒るものだなあ)
こういう時は何も言い返さないでおくが吉だし、俺は冷蔵庫のお漬物やバカガイ(船橋近辺で採れる貝だ)の酒蒸しや菜の花の辛し和えをどんどん並べていく。
そしてそれが吸い込まれるように二人の胃に入っていく。食欲は無限大だ。
「お米食べる?」
「「食べる!!」」
(……まだ食べるんだ)
このままだと俺の分がなくなってしまいそうだ。
今朝炊いて急速冷凍したご飯をとりあえず三人分解凍して、一つは自分用に確保した、
さっきコンビニで買って来た柏餅、あとはもうこれで勘弁してもらおう。
「ねー、もうデザートの柏餅しかないんだけどいーい?」
「このグリーンロケッツは酒盛りしたいんだけど」
「いいですね、明日は練習も無いですし仕事も休ませてもらいましょうか?」
……10連休出来なかった二人の無念はまだ続くらしい。




スピアーズとグリーンロケッツとシャイニングアークス。10連休もみんな大変です。

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いい湯と海と気まぐれドライブ

温泉行こう、と何の脈絡もなく大分が言うのを反射的に頷くとそのまま車に乗せられて北へと走り出す。
大分の市街地を抜けて国道10号線に入ればサルで有名な高崎山が見えてきた。
「そういやお前さん高崎山登ったことあったっけ?」
「……ない」
「じゃあ後で昇ってくか?」
「うん」
やがて潮風と硫黄の混ざり合う風が車内に流れ込んでくれば、そこはもう日本一の湯どころ・別府温泉だ。
坂に温泉宿が張り付き、あちこちから湯煙の立ち上る風情は日本一の湯どころにふさわしい。
「どこの温泉行くとか決めてるのか?」
「ううん」
「じゃあ砂湯入ったことは?」
「ない」
「よし、じゃあ砂湯行くか。このまま真っすぐ行けば見えるはずなんだが……」
国道をしばらく走っていくと砂湯のあった場所はショッピングモールになっていて、あれ?と思わず首をかしげた。
「……そういや別府来んのも久しぶりだったな」
この数年は大分という新しい弟分を猫かわいがりしすぎていたのもあるが、変に近いといつでも行けると思ってつい行かなくなってしまう。なんせ大分市と別府市は隣だし。
「砂湯、この近くに移転したんだって」
「そうだったのか、でもまあ別府は砂湯だけじゃないしな。他の湯どころ行くぞ!」
俺が運転変わるぞと大分に告げると、大分はうんと頷いて鍵を渡してきた。

****

久しぶりに来た日帰り温泉は運よく人のいない時刻で、貸し切りとなっていた。
ざぶんと肩までつかればいい気分になれるのは人間も神様も動物も一緒だと思う。
「あー……久しぶりの温泉もいいもんだなあ」
「うん」
仕事をさぼって温泉で昼風呂なんて贅沢普段はそうそうできるもんじゃない。いや時間休だからサボりじゃないけど。
「大分、」
「うん?」
「お前ほんとデカくなったよなあ」
それこそ大分に製鉄所を作るという計画段階の時から見てきているが、若くてデカいというのはすごいもんだといつも思ってしまう。
「ま、ヤなことも忘れたいことも全部お湯に流しとけ。な?」
「……うん」
風呂出たら冷たい牛乳でも買って海辺を散歩しよう。
そしたらきっと明日も仕事が出来る。




佐賀関と大分。この前大分旅行してきたよ記念に。

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水出し緑茶に栗饅頭

それは蒸し暑い初夏の昼下がり。
暑さに耐えかねてクーラーをつけて寝転がっていると、玄関からゴンゴンゴンという雑なノックと共に歌声が響いてきた.
「雪だるま~つくろ~ドアを開けて~♪」
この声は此花かと察して渋々腰をあげてやるが相変わらずノリノリで歌ってやがるので一応ドアスコープを覗くとやっぱり此花だった。
「あっち行ってアナ、って言ったほうがいいか?」
「そんなこと言うなよ」
お邪魔しますも言わずに部屋に上がり込むとそのままバタリと寝転がった。
「はー……北九クソ暑すぎない?」
「今日は夏日だとよ。しかも昨日の雨で湿気がひどいからそれでだろ」
「ったく暑いのはやだな」
冷蔵庫から水出しの緑茶(麦焼酎をコイツで割ると美味いのだ)と一緒に、ついでに栗饅頭も出してやると「珍しいな」と呟いた。
「お前は甘いもん食わないと思ってた」
「貰う分には食うぞ、たまに和歌山がチョコと酒の組み合わせとか持ってくるしな」
「へえ、でもこれ裏書き小倉になってんぞ」
「問答無用で持ってくる奴がいるんだよ」
小倉駅の近くの菓子屋の栗饅頭の個包装をべりべりと剥がしながら冷たい緑茶で流し込む。
勝ち栗の食感とあんこの甘みを緑茶で流し込むのは嫌いじゃないが、馬鹿の一つ覚えみたいに持ち込んでくる奴の顔を思い出して思わずため息が漏れた。
「あー……高浜の東京製綱か?」
「そうだよ」
東京製綱は金属製のロープなんかを作る会社で、そのうち小倉工場が自称・俺の兄にあたる。
まあ元々俺は小倉工場に金属製ロープの原料を作るために生まれたとはいえ、浅野や住友に移ってからも暇さえあれば構い倒されて食傷気味になったのもある。
「何年か前からニート生活突入で暇してるらしくて何も言わなくても月2でうちに押しかけて来るしな……」
「あー、そらなんつーか、ご愁傷さん……」
「栗饅頭の残り貰ってくか?」
「じゃあ貰うわ、あと3時半までここで休むのは?」
「俺の昼寝を邪魔しないならいい」
「りょーかい」
俺が昼寝の準備を始めると此花は鞄から文庫本を引っぱり出す。
和歌山もそうだがほっといて欲しい時はほっとくという事が出来るのは大事だと思う。
クーラーの冷気を浴びながら静かに目を閉じれば心地よい眠りが近づいて来るのだった。



小倉と此花。
小倉の自称兄はぼんやり頭の中にあるので出るかどうかは不明。

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桜雨の降る夜に

夜風に桜の花びらがひらりと舞うのが見えた。
己の名そのものである植物は春を鮮やかに彩るが、すぐに散っていくそのさまはなんとも寂しいものである。
「やあ、桜島のねーさん」
「……此花」
同じ町に住み同じ植物の名を冠した彼女はコンビニの袋を手にひらりと手を振った。
がさがさと袋を揺らしながら隣に近寄った彼女は「夜桜見物?」と聞いてきた。
「まあ、そんなところだ」
「ふうん」
「此花は」
「私はただ酒と食料の買い出しがてら散歩にね」
「そうか」
特に話すこともなくただ隣に立って道を往く。
工業地帯にほど近い住宅地の中の公園は喧騒から遠く、夜の風のみが静かに吹き渡る。
お互い何かを問う事はしなかった。
きっと問うてしまえば同じ男への恨み言が口をついてしまう気がして、それはこの美しい宵に聞かせるにはあまりに薄汚いものであるからだった。
「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない……だっけ」
「フィリップ・マーロウか」
「それだ。タフで優しくなくてはいけないって、しんどいと思わない?」
彼女のその言葉は遠回しな弱音だった。
兄弟たちの前ではそうあろうとする女のささやかな同意を求めるその言葉に、私は小さく頷いた。
「そうか」
それは良かったというように微かに表情を緩める。
「私もどれだけ素晴らしい存在であろうととしても御仏の前では弱い存在にすぎない、それでもいいと言ってくれるのが仏だと私は思っている」
弱くもろいものであろうとも、この命が絶えるその日まで生きて行かねばならぬ。
それは何度春を迎えて花を咲かせようとも夜風に吹かれてその命を散らす桜のように。




桜島と此花。虚しさも苦しさも全部胸の内に飲み込んで生きるという事。

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