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コーギーとお昼寝

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あの日の向こう側

気仙沼線から「銭湯行かない?」という誘いを貰って盛から気仙沼までBRTを乗り継いででかけることにした。
まだまだ工事中の街を抜け、辿り着いたのはレンガ造りの落ち着いた建物だ。
「こんにちわー」
「あら路線さんいらっしゃい、今日はお連れさんいるのねえ」
「俺の兄さん連れてきました」
さわやかな笑顔を振りまきながら番台に座るおばちゃんと雑談を交わす間、きょろりと見渡せば漁船の名前の書かれた桶が並ぶ。
海で冷えた漁師たちが自分の身体を温める場所なのだろうという事は容易に想像がつく。
「あ、兄さん、そこに書いてある無地の黄色い桶俺のだから使っていいよ」
「じゃあ先入ってるな」
言われた通りの桶を取るとシャンプーと石けんが丁寧にしまい込まれている。
先に脱衣所に入って服を脱ぎ、眼帯も少し悩んでから外して風呂場に入った。
風呂場はちょうど人の少ない時刻で、これならゆっくりできそうだと早速体を流すことにする。
「兄さん、どっち?」
「こっちだ」
気仙沼線の呼びかけにそう答えれば、隣の洗い場に腰を下ろして汗を流す。
「久しぶりだからつい話し込んじゃった」
「兄弟も忙しいからなぁ、ほれ石けん」
「ありがとう」
ざかざかと身体を洗い流していると、影に取り付けられた鏡に目が行く。
黒く輝く右の眼と真っ白に濁った左の目。
あの日から白く濁って何も見えないままの左目が、湯気で曇ったガラスに映っている。
右隣に腰を下ろした気仙沼線の瞳もまた、白く濁ったままだ。
「なに?」
「……いや、」
もうすぐあの日から7度目の春が来るというのに、俺たちの目に黒い輝きは戻りそうにない。





気仙沼線と大船渡線。
震災からもうすぐ6年ですね。

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