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コーギーとお昼寝

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花束をひとつ

それは30年くらい前の話。
神戸製鋼本社で関西三社による話し合いがひと段落して、加古川の入れた紅茶とお茶菓子で休息を入れていた、そんな時だった。
「そういや葺合、今日ホワイトデーだけどお返しはしないのか」
「……ホワイトデーって何だ?」
葺合が大真面目にそう聞くので私と神戸と加古川の三人がかりででホワイトデーの説明をすると、葺合は分からないなりに一応の概要ぐらいは理解したようだった。
「ただ、確かにこの間お菓子は貰ったがお返しは要らないというから用意してないんだが」
「それは西宮なりの遠慮よ、なにかお返ししてあげなさい」
「私もそう思います」
「なんかの焼き菓子でもいいから持ってってやれよ……」
西宮だって多かれ少なかれ葺合のことを特別に思ってるからバレンタインにお菓子を用意するのだし、持って行くべきだ。
無言のうちに形成された女三人の意見に葺合は圧倒され気味のようだった。
「わかった」
「じゃあ私の車乗ってきなよ、西宮のとこまで送るから。どうせ途中でちょっと寄るだけだし」
今思えば大きなお世話だったかもしれないが私と神戸にとって西宮は可愛い妹分だ、まして私のとこは女っ気がないのでなおのこと西宮が妹のように愛おしかった。

「……わかった」

会議後、車に葺合と神戸を乗せて何がいいかとやかましく話し合う私と神戸に対し、葺合は静かに窓の外を見つめながら考えこんでいた。
「とりあえず日持ちする焼き菓子が良いと思うのだけど、葺合はどう思う?」
神戸が私たちの話の結論を告げると葺合は小さな声で切り出した。
「……花束」
「え?」
「西宮に、春の花を持って行きたい」
「葺合にしてはロマンチストな発想ね、でもいいと思う」
「じゃあ花屋行くか?」
「いや、梅を……梅の花が良い。西宮には梅が似合うと思うから」
「梅の花かあ、確かに似合いそうだけど……切り花で売ってるのか?」
「私のとこの元社員で梅たくさん育ててる人いるからその人に分けて貰いましょ、奥池のほうになるんだけどいい?」
「はいはい、ちゃんと案内しろよ」

***

そうして今、西宮の家には大きな鉢に植えられた梅の木が咲いている。
「まさか接ぎ木して植木にしちゃうとはなあ」
「葺合からお花貰えたのが嬉しかったから……」
葺合が西宮にと渡した紅梅の枝は長生きさせるためにわざわざ接ぎ木してもらって丁寧に丁寧に育てられ、今じゃあ人の背丈ほどある梅の木となった。
今も、春が来れば葺合の愛が西宮の頭上に静かに降り注いでいる。



此花ネキと葺合西宮。春の先駆けは愛の匂いですね。

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