*少しだけ震災にまつわる描写があります
―2011年6月
楽しかったという気持ちと昔抱いた憧れとほんのわずかな失望が入り混じった顔でその人を見たのを覚えている。
「遠路はるばるありがとうな、ジュビロ。久しぶりにちゃんと試合が出来て嬉しかった」
「どうってことないですよ」
僕がそう呟くと小柄な先輩である彼はふいに足を止めた。
目の前に広がるのは茫洋とした更地。かつて街であっただろう痕跡が僅かばかり残るだけであった。
海にすべてをさらわれた街でラグビーをしたいと先に言ったのはこっちの方で、応えてくれなければきっと今日の試合は無かった。
「正直に言っていいんだぞ?お前さんぐらいの年代だと、うちの黄金期を知ってるからな」
その言葉は全部分かっているような響きだった。
「言いませんよ、強くても弱くても先輩は先輩です」
「……そか」
確かに僕はあの走って繋ぐ釜石のラグビーに憧れていたし、きっと僕以外のものもそうだろう。
その時の偉功をこの街と共に彼は背負って生きていくのだ。
ジュビロとシーウェイブス