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コーギーとお昼寝

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堕ちる太陽と消えない月

どうせ福岡まで来たのだし、久し振りに会ってやろうかと思ったのだ。
市営の運動場の片隅で彼はあの頃よりも少しだけ暗くなった瞳でボールを磨いていた。
こっそりとその中に忍び込んで意外によく整備された芝生の上に腰を下ろした。
「生きとったんやなあ」
「第一声がそれですか」
ボールを磨く手は止まることもなく、視線もこっちに移すことはない。
少し前に世界遺産にまでなった官営製鉄所の名を冠する彼の瞳の深い黒を、何度敗北の悲しみで染めてやりたいと思った事だろう。
「下位リーグなんて見てられひんからなあ、神戸んとこのと違って俺は忙しゅうてあかんのや」
神戸はよく釜石に早くトップリーグへ帰ってきて欲しいと嘆いている、その気持ちは正直さっぱりわからない。
こいつにに帰って来いと言ったことは無いし、もし奇跡的に昇格してきたってあの頃のあいつは永遠に帰ってこない。
「その割にはよくこんなとこまで一人で来れましたね」
「……今どきはネットでちゃちゃっと調べられるからなあ」
二つ目のボールを磨きにかかるが、それでも視線はこっちを見ない。
それでいいのだ。
今はもう水平線の向こうに沈んだ太陽でしかないこいつに、今も1部リーグにかじりつく自分は眩しいのだということを分かっている。
あの頃、日本が天井知らずの成長を走り抜けていたあの時代に競い合っていた。
誰よりも勝ちたかったあの背中は半世紀もの月日の中に溶けて消えたまま、その光は弟分が継いだけれど彼もまた神戸から伝え聞く限りまだまだのようだ。
「せいぜい2部リーグに落ちない程度の努力はしたらどうです?随分1位と勝ち点差ついてるみたいですけど」
「あれはあいつの実力からしたら順当やろ、それに俺が2部に落ちるならあんたもこんなとこに燻っとらんで2部に来てもっぺんやったろや。そん時は完膚なきまでに負かしたる」
そう告げるとボールの尖った方で思い切りみぞおちを殴られた。
石炭の黒さに似た目に映るのは、怒りと闘志だ。
「……闘志がまだ消えてへんならええ」
そう笑うと、なんとも不愉快そうにこちらをにらんで「早よ大阪帰れ」と呟いた。




ライナーズさんと鞘ヶ谷。

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