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コーギーとお昼寝

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峠越え

*明治の終わりぐらいの話

釜石のところに行こうと思うと、長い峠越えがいつも待ち構えている。
軽便鉄道どころか普通の鉄道では超えるのが厳しい仙人峠を歩いて超えなければならないのだ。
索道を作るという話もあるが、この索道は貨物用だというのでどちらにせよ旅客は歩いての峠越えを強いられることには変わりない。
服装を動きやすいものに変え、峠越えの途中で飲む水を水筒に詰め、杖を一本持って行く。
(……釜石はいつもこういう準備してあの峠を越えていくんですよね)
準備を終えるとさっそく峠道に挑むことにする。
この峠道は一里、約四キロ程だからゆっくりでも一時間半もあれば超えられる。
足元の悪い山道を多くの旅客の背を見ながら登っていく。
地元の人間はもう慣れてしまっているようで話しながらすいすいと登っていくのが見え、自分が不慣れであることをつくづく実感する。
(まあ、地元じゃ歩いて峠越えなんてする機会もないですからね!)
釜石が長い山歩きを苦としないのはきっとこの峠越えに慣らされているのだろう。
九州では見ることの無い白樺に包まれた峠道を上り続けていると、遠くに海が見えてきた。
「あれが三陸の海……」
いつも見ている洞海湾や関門海峡と違い、ただただ果てしなく青い海と空が広がる景色には美しいという感想以上に見慣れなさが湧いてくる。
なんせいつも見ている海は潮の向こうに対岸が見えるのだ。見慣れないのは仕方ない。
ぼうっと海を見ながら水筒を開けて休憩していると遠くにダイナマイトの音が聞こえてくる。
(この辺まで来ると鉄鉱石の採掘音も聞こえてくるんですね)
思ったよりもはっきりと聞こえてくるのはきっと採掘によって出来た坑道が伝声管のようにこの山いっぱいに伝えてきているのだろう。
「さ、もうちょいですね」
水筒のふたを閉めて今度は峠道をのんびりと降りていく。
夏山の緑のなかを抜けていくと、遠くに鉄道の音が聞こえてきた。峠越えももう少しで終わりだ。
「八幡、」
そう声をかけてきたのは釜石本人だった。
川べりの大きな石に腰かけてずっと待ってくれていたのだとわかると、慣れない峠越えで疲れていたはずの身体から気力がわいてくる。
元気が自分の足を駆け出させてきて釜石の身体をぎゅっと抱きしめる。
「遠路はるばるよく来たな」
「すごい疲れました」
お疲れさんと言うように釜石が頭を撫でてくれるのが嬉しくて、峠越えの疲れが抜けていく。
「初めてお前のとこに呼ばれたときも同じように峠越えしてきたんだぞ?」
「きつくなかったんですか?」
「いや、むしろ楽しみだったかな。それに今回もちょっと楽しみにしてたんだぞ?なんせかわいい一番弟子がわざわざ来てくれるんだからな」
釜石がにこやかにそんな事を言う。

「この石から先が釜石だ。ようこそ、三陸・釜石へ」



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はじめての仙人峠越えをする八幡の話。
現在は釜石線が仙人峠を繋いでくれるので歩かずに越えられますので釜石においでよ。
ちなみに釜石が座ってたのは地名の由来になったと言われる釜状の石です、しれっとすごいもんにすわってやがる。

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