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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

ショコラに何を込めるというのか

朝起きると、机の上には1ホールのガトーショコラとコーヒーが置いてあった。
「春江、これは?」
「坂井くんが置いていったみたいです、ほら今日は一日市町村会議で県庁に居ないといけないから……」
「ああ」
土地としての役割を終えて気ままな隠居生活に入った身である自分と春江と違い、坂井にはいまだ己の仕事がある。
だとしても朝っぱらからガトーショコラに熱いコーヒーなどよく準備したものだと思う。
食卓に腰を下ろしてスティックシュガーを一本だけいれればちょうどいい温度だ。
「このガトーショコラ、間にカシスジャムが塗ってある……」
「そらまた手が込んでるな」
「夜にでもお返し渡さないと不機嫌になりますよね……?」
「なるだろうな」
あまり当たって欲しくない予想に頷き合いながら昼間のうちにお返しを準備しようという事で決着がつく。幸い今日は降雪がないから買い出しには困らない。
ガトーショコラに口をつけると、濃厚なチョコレートのなかに甘ずっぱい果実の味がほんのりと広がってくる。
ガトーショコラを半分も食べ切ったあたりで、春江が首を傾げながら食べていることに気付く。
「どうかしたか?」
「あ、いえ……」
ガトーショコラを食べ進めながら、今頃県庁で坂井とあわらは何をしているのだろうかと考えていた。



(このガトーショコラ、心なしか鉄の味がするのは気のせい?)


三国と春江のバレンタインの朝。
ガトーショコラの異物混入については皆さんの想像にお任せします。

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小倉さんとチョコわらび餅の話

ふらっとやってきた相手の顔に思わずため息が漏れる。
「自分ちほっといてこげなとこきていいんか」
「たまたま休み出来たし、海南も忙しいみたいだから」
和歌山は小さなビニール袋を片手に玄関前にいた。
「……なら、ええっちゃ」
入れと告げるとお邪魔しますとやってくる。
「来よるなら先に言ゃあええやろが」
「あー、まあ気分だから。今朝とれたての蜜柑とチョコレート、お土産ね」
出てきたのはつやつやとしたみかんが4つと、小さなプラスチックの容器。
生チョコわらび餅と書かれた容器の中には小さな茶色いものが5つほどコロンと入っている。
蜜柑はともかく大して甘いものが好きな訳ではない自分になんでチョコレートなのか、と微かにため息が漏れた。
「蜜柑はええが、なしてチョコなんっちゃ」
「ほら、きょうバレンタインだから」
「ああ……」
言われてみればそうだったことを思い出す。
「コーヒーでも淹れちゃる」
「いや大丈夫、ただ小倉さんの顔見に来ただけやから」
「……そうか」
「あ、でも俺焼きカレー食いたい。さいきんテレビでよく見るし」
にっこりとほほ笑みながら焼きカレーを奢れと強請って来る和歌山に、やれやれという気持ちを込めながら「後でな」と返すしか出来ないのだった。





小倉和歌山師弟のバレンタイン。
たぶん和歌山は海南の次ぐらいに小倉が好きだと思うし、小倉も和歌山のこと結構好きだと思う。

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拝啓、金子直吉様7


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拝啓、金子直吉さま6

1910年(明治42年)、私は依岡と共に呉を訪れることになった。
目的は呉の海軍工廠。そこに自社の鉄を売る事が出来まいか、という野望であった。
以前から金子直吉には海軍の大物とのつながりがあり、その縁で呉工廠が神戸製鋼所に興味を抱いた。
当時の日本軍は国内の製鉄業にとっては大口の顧客であったので、海軍を相手に商売ができれば経営は安定する。
それが田宮の言うところの『私を生かすための秘策』だった。
「あれが呉?」
「ええ、いつも見てる海とは違うでしょう?」
「そうだわ、黒くて大きな船がたくさん浮かんでる」
「あれは全部日本海軍の軍艦です。あれをうちの鉄で作ってもらえないか、頼みに行くんですよ」
「依岡ならきっとすぐ頷かせちゃうでしょうね」
私があまりに無邪気にそう笑うので依岡は困ったように笑っていた。
「そのためにもお嬢さんの協力が要るんです、出来ますね?」
「もちろんよ」

****

呉の一流旅館で開かれた宴会は、海軍の大物が多く居並ぶ盛大なものであった。
丁重に客人をもてなす依岡を手伝いながら私はこの場を成功させねばなるまいと意気込んでいた。
その片隅でふっとこちらを見る人がいた。
海軍中将の制服に身を包みながらも、肩章はどの階級のものでもない独特のものだ。
ごつごつとした体つきに男らしい精悍な顔つきをした、いかにも若い軍人さんという見栄えだ。
「神戸製鋼所、」
「はい」
「ああそんなに緊張しないで、膝を崩して楽にして。あとのことは依岡さんに任せて少し話をしよう」
「じゃあ、失礼します」
足を延ばして座布団の上に座る。
その真っ青な海の青をした瞳で、この人は自分と同じ神の領域にあるものだと悟った。
「……呉海軍工廠、さん?」
「工廠さん、で構わないよ。どうせこの場に他の海軍工廠はいないしね」
「はい。じゃあ、工廠さん」
私がそう呼ぶと嬉しそうにほほ笑んだ。
そうして彼と私は私が眠りにつくまで他愛もない話をした。



神戸製鋼所が、海軍からの受注を受けるのはこの少し後の事であった。

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拝啓、金子直吉様5

「お嬢さん、話があります」
ある昼下がり、田宮が私の元にやって来た。
「どうしたの?」
「……ここを潰すことになるかもしれません」
苦渋の言葉を漏らす田宮に、ああやはりそうかと思っていた。
私の命は細い一本の糸で繋げられたようなものであることはもう既に分かっていたことで、何度となく出銑に失敗していたことも踏まえれば仕方のない結論であった。
この出銑に関しては必死に尽力した技術者や職員の奮戦があったが、どちらにせよ経営が厳しい事には変わりがない。
「いちおう金子さんとこの製鉄所を門司へ移転するかという話があるのですが」
「九州へ?」
「はい、」
「……構わないわ。門司でも下関でも何処でも。あなたが私のためを思ってそう言うのならば、どこにだって行く」
「お嬢さん」
「今の私に死ぬことより恐ろしい事は、もうなにもないわ」
私がそう告げると、田宮は驚いたような顔をした。
10つくらいの見た目の少女が吐くにはあまりに重苦しいその言葉は、私の覚悟であり偽りのない本心だった。
「……いま門司に土地を探しています、見つかったら一番にお嬢さんにお伝えします」

しかし、世の中とは不思議なもので事態は突如急転する。
「三井と三菱の傘下に入る?」」
「今朝がた金子さんから言われたのですが、三井銀行が三菱と共同でこの製鉄所を買いたいと」
「本当に?」
「はい、まだ返事待ちではありますが……」
「それでも三井と三菱の傘下なら間違いなく今以上に安定する!」
「田宮さんもお嬢さんも朝から何なさってるんですか?」
「聞いて依岡!私、もしかしたら三井三菱傘下に入って強大な経営基盤を得られるかもしれない!」
「本当に?」
「私、死ななくてもいいのかも知れない!」
依岡も田宮も私が生き永らえるならどこでもいいと思っていた。
無論金子直吉への恩はあるけれど、幼い少女の死を見たくないという普遍的な人間の感情で彼らは私の生を願っていた。
ただ、この話は三井側からの返事が途切れたことによって水泡に帰すのだが。

****

三井三菱による買収話が立ち消えとなった後、金子直吉による資金援助を受けて神戸製鋼所は新たな設備投資を行うことになった。
「でも、このお金は金子のおじさまが大里精糖所の売却で得たお金なのよね?」
「そうですが」
「お家さんや金子のおじさまは私が三井に行けなくて気落ちしていたんじゃないかしら」
「一つの失敗でくよくよしていられませんよ、それにお嬢さんの作る鉄は日本中が必要としているのにそんな簡単に潰したりできません」
田宮は私を慰めるようにそう告げた。


「それに今、依岡君が金子さんとあなたを生かすための策を練ってるのです」

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