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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

兄と弟と

「珍しいじゃぁん、どげした?」
引き戸を開けて出てきたのはひどく小柄な俺たちの兄であった。その名をアート商会、という。
ホンダと同じルビーレッドの瞳を持ちながら、全体の印象は俺とはさほど似ていない兄の住む家を訪れるのは何年かぶりだった。
そもそもここに来る理由だってそんなになく、かといって何の理由もなく行けるほど親しくもない。だから行きたいと思ったら適当な言い訳をつけて来るしかなかった。
「近所に用事があったもんで、そのついで」
「おお」
そう言って茶の間に連れて行くと、温かな緑茶とみかん餅が差し出されてくる。
もち米と皮付きみかんを一緒に蒸して混ぜた淡いオレンジ色のそれは、軽く摘まむとやわらかな感触がしていかにも美味しそうだ。
「そーいや技研は元気け?」
「まあ、元気にしてる」
「あいつもささがしい(せわしない)もんでお前から聞くしかねぇんだに」
「……手紙ぐらい寄越せばいいのに」
「けんが、返事何処に出せばいいのか分かんねぇもんでほっぽるしかねぇんら」
ほんのりと甘酸っぱいみかん餅を温かい緑茶で流し込む。
お茶の温かさが冷えた指先を温めてくれている。
窓の外からぽつぽつと雨の降る音がして、先ほどから寒いと思っていたら雨が降り出してきたらしい。
「あいつはお前のことが好きだらぁ?」
飲んでいたお茶が気管に入りかける。
何を言っているんだこの人は。いや、事実なのだ。あんなことやそんなことするぐらいにはあいつは俺が好きだし、俺もそれを拒まない程度にはあいつが好きなのだ。
だとしてもなんで気付かれたんだ。いつ、どこで気づかれた?
「あわっくいが」
遠州弁で粗忽者と言う意味の言葉がその口から洩れる。
にやりと笑っているその顔と言葉で、カマにかけられたのだと悟った。
「……そうだよ」
「やっぱりそうじゃんな」
「なんでそげ思ったけ?」
「兄弟の血だらぁ」
つまり、大して意味はないという事だ。
「やぁっと一緒におったで、なんとなくわかるだに」
にやにやと楽しそうに笑うその人を見て、弟は逆らえないという運命の事を考えていた。






アート商会と東海精機。

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そーれそれそれお祭りだー!

『25日は開けといてくれ、伝達式の後鍋パーティーしよう』
牛久からのメールが届いたのは稀勢の里の横綱昇進が決まった1時間後の事だった。
稀勢の里優勝の次は横綱昇進である。牛久はそれはそれは喜んでいて、喜びのあまり牛久沼に飛び込んだという噂が地元で語られているとかいないかとかのレベルである。風邪をひくからやめて欲しい。
昼間の優勝パーティーは自分の家に呼べるだけ呼んでのどんちゃん騒ぎだったが、横綱昇進は静かに祝いたいらしい。
『了解、何か要る?』
『野菜でも持ってきてくれれば助かるな、酒と肉と魚はある』
優勝パーティーの時、それぞれが思い思いの手土産を持ち込んできていたからそれがまだ残っているのかも知れない。初優勝に沸き立って常陸牛やローズポークに霞ヶ浦の魚たち、そして県内各地の数えきれないほどの酒の山が積まれた牛久の家を思い出す。
あれだけあれば鍋の具材には困るまい。自慢の竜ケ崎の野菜を多めに持って行くことにした。

****

昼前に牛久の家のドアを開けると早速酒臭かった。
「……もう開けたんだ」
「おう」
ネストビールの瓶が一本空になっていて、飲みさしの二本目が机の上に鎮座している。
商店街で買ったらしいコロッケやメンチカツを流しながらテレビで繰り返し流される伝達式の様子を見返している。
「鍋どうする?」
「商店街で豆乳もらったから豆乳鍋で」
早くもほろ酔い気味の牛久をスルーしてやれやれという思いで土鍋に豆乳と予め切っておいた野菜を投入する。
ついでに冷蔵庫を開けると優勝パーティーの時に下妻の家から貰って来たという白菜がまだ半玉残っていたのでそれも刻んで投入しておこう。
あとは手羽元に常陸牛にローズポーク、それに大洗や鹿島灘の魚や霞ヶ浦のシラウオもまとめて鍋に放り込んでコンロに火をつけてから蓋をする。
「竜ケ崎ぃ、」
「うん?」
「三月場所は一緒に見に行こうなぁ」
へらっと嬉しそうに笑う牛久に、三月場所って大阪でしょ?なんて無粋なことは言えないのだった。





\稀勢の里初優勝&横綱昇進おめでとうございます!/

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まだ春は遠い

嫌になるくらいに降り積もる雪を掻き分け、ふうと軽くため息を吐いた。
昨晩から今朝にかけてどっさりと降り積もった雪は下ろすだけで一苦労で、この後空き家の雪も下ろしに行かないとならないのだから嫌になる。
勝山や大野辺りに比べればまだましとはいえ毎朝雪かきをしないと生活に支障が出る。不便だ。
ポケットに入れていた携帯が鳴り響き、かじかむ手で電話を取る。
『鯖江、いま大丈夫?』
「雪かきしとったとこですけど、まあ大丈夫ですよ?」
スノーダンプをいったん脇においてその呼びかけに応じる。
福井に対する敬語はもう江戸の世からの習いみたいなもので微妙に抜けきらない。
『えっ』
「うちの周りの雪かきを終えて近所の空き家の雪下ろそうか考えてたとこなんで」
『ああ、なら良かった。屋根の上にでもいたら危なかったし』
「で、ご用件は?」
『うちで使ってた湯呑を割ってしまって、鯖江の馴染みで金繕いの職人さんがいたでしょう?あの人にお願いできないかと思って』
「あー……あのおっちゃん少し前に入院してて今は出来んと思いますよ」
『そうだったの?』
「別の漆屋に頼んで金繕いしてもらいます?腕は俺が保証しますよ」
『じゃあ、お願いしていい?結城さんから頂いた器だから大事にしたくて』
ぽつりとこぼれたその人の名前。
名前を呼ぶ響きの柔らかな熱は思わず皮肉めいた言葉がよぎったが胸にしまっておく。俺はまだ彼女に嫌われたくはないのだ。
「なら今日の昼過ぎにでも取りに行くんで」
了承の言葉と共に電話を切り、知り合いの漆屋に電話をかける。




(ああまったく、うちのお姫さんの心はずっと向こうにあるのは嫌なものだ)


鯖江と福井の話。ぬるいけど鯖江→福井。

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【短歌】棄てられ子と遺され子

気付いたら出来ていた創作擬人化短歌。
東海精機とホンダ。



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福井駅にて

福井駅西口のベンチに腰掛けながらぼんやりと雪を眺める青年がいた。
この町を走る福井鉄道の鉄道員制服と黒のロングコートに身を包んだ小柄な青年の黒漆の瞳は目の前のホットサンドとコーヒーに向けられている。
「福武くん、なにしとんの?」
「昼飯食ってる」
横から声を掛けてきたのはえち鉄のアテンダント制服に身を包んだ青年だ。
キャメル色のアテンダント制服の上にトレンチコートとマフラーをしたすらりとした青年がベンチの横に腰かけてくる。
「これどこで買ったの?」
「プリズムん中の喫茶店、新商品らしい」
「へぇ、一口ちょうだい」
「ん」
食べかけのホットサンドを半分に割るとまだ口をつけていない方を渡してくる。
ありがと、と言いながらそれを受け取ると美味しそうにほうばった。
「これ美味しいねえ」
「おう」
「今度三国の酒饅頭貰ったらそっちの本社行くとき持ってくね」
「お前の兄さんは要らんのか」
「お酒と五辛は控えてるから酒饅頭も控えてるんだよ」
「ふうん」
「そういえばこの間兄さんと話してたんだけどボルガライスって兄さんでも食える?」
「店による、あれは店ごとでだいぶ味付けが違うから使ってる調味料も異なるしいちいち確認するのも手間だから一番手っ取り早いのは武生に頼んで作ってもらう事だな」
「えー……俺あの人ちょっと苦手なんだよなあ、怖いじゃん。えっちゃんには逢いたいけどさ」
「俺と直通してるのにか?」
「福武くんとはそれなりの付き合いだから顔が怖いのはもう慣れてるけど、武生さんの方が怖いじゃん」
「それ、本人に言うなよ」
「言いません。兄さんがボルガライス興味あるっていうから食べさせたいんだよね」
「……お前は兄さんに甘いな」
いささか呆れたように福武と呼ばれた青年が笑う。
「たった二人の兄弟だからね、ああもう俺行かなきゃ。福井口で兄さんと合流しないと行けなくてさ」
じゃあねと言って立ち去ろうとしたとき。
「三国芦原線、」
「……なあに?」
「こんど休みを合わせて永平寺勝山線、お前の兄さんもつれてボルガライス食いに行こう」
「了解。」





三国芦原線と福武線の話。

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