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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

祭りの後の静けさに

「ああああああああ~……」
パラリンピック閉会式中継用カメラのセッティングをしながらこぼれたため息に、隣にいたシャイニングアークスさんがこっちをにらみつけた。
「ため息がでかすぎません?」
「だって寂しいじゃないですか、夏と一緒にオリパラも終わっちゃって……」
「あなた一番ノリノリでしたもんね、毎日マスコットと試合実況してましたし」
「中継担当の手伝い名乗り出たのは確かに僕のほうですけど、実際もうすぐ終わりってなると寂しいですし」
「気持ちはわかりますけどね。カメラの準備出来ました?」
「どうぞ」
カメラ端子を繋いで特設サイトでの中継準備を進めるシャイニングアークスさんに対し、僕のほうはもうカメラの設置準備の進捗確認だけなので隣に腰を下ろす。
「これでしばらくお祭りがなくなっちゃいますねえ」
「たった半年の我慢ですよ」
「新リーグ?」
「それ以上の祭りが僕らにあります?」
シャイニングアークスさんがニヤリと悪巧みを思い付いた子供のように笑う。
「確かに」
この世界最高の祭りは今日で終わる。
だけどまだ楽しい事が僕らを待っているのだ。



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イーグルスとシャイニングアークス。
五輪ゴールドパートナー(親会社が)コンビでした。

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君と空を飛べたら

ただいま、と言って玄関を開けると珍しく和歌山がいなかった。
今日は一日休みだという和歌山のお帰りという声を自覚なく待っていた自分に気づいてこっぱずかしい気持ちにさせられる。
とりあえず茶の間に行くとほったらかしにされたネット通販の段ボールと一緒に殴り書きの置手紙がひとつ。
『海水浴場でドローン飛ばしてきます、夕方には帰ります』
本人の言うところの海水浴場はここからはそう遠くないが、夏の日は長いと言えどぼちぼち日も暮れる頃合いだ。
(……迎えに行ってやるか)
でも出かけていく前に段ボールぐらいは畳んどいて欲しかったところだが、本人に片付けさせよう。

***

晩夏の夕暮れの海水浴場は人も少ない。
もう夏休みも終わっているし、平日だから来る人もいないのだろう。
子どものように目を輝かせた和歌山はこの新しいおもちゃを手足のように操ることに夢中のように見えた。
ふとドローンがこちらに近づいてきて、ゆっくりと降下してくると俺の足元に着地した。
「迎え着てくれたんだ」
「もう日が暮れるのに帰ってきてないからな。にしても、仕事用じゃないよな?このドローン」
少し前からドローンを使って高炉の点検をするという話があり、初めに古い高炉が多い和歌山が担当に選ばれてドローンの運転を勉強していた。
確かにドローンは面白いとは言っていたがオンオフの切り替えははっきりしてる和歌山の事だ、たぶんこれは仕事の自主練などではなく……。
「自分の遊び用に買ったやつ」
「やっぱりか」
「室内でも飛ばせるけどせっかくカメラ付き買ったから外で飛ばしたくて。写真あるけど見る?」
新しいおもちゃに興奮する幼稚園児さながらの表情で新しいドローンの砂を落としつつ俺に見せてくる。
どういう種類のものかは知らないが本人が気に入って選んだのならいいんだろう。
俺と一緒になってからはどんな時でも自分の気持ちに嘘のない顔をする。それを見ているといつも穏やかな心持で居られた。
「写真は後でな、もう日も暮れて寒くなってきたし帰るぞ」
「そうだね。ラーメン食べて帰ろう」
和歌山は右手にドローン、左手に俺の手を掴んで砂浜を歩く。
俺もその手に指を絡めつつ日のくれた砂窯をただ歩いて帰った。


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和歌山海南ふーふ。

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引っ越しおろしそば

引っ越し祝いに貰ったものを自分の部屋に積み上げながら、ふうっと小さくため息が漏れた。
乾麺のそばやお酒類、引っ越し祝いの花束、金券やカタログギフトの冊子、タオルや箱テッシュなどその量は結構なものだ。
「ワイルドナイツ生きてる〜?」
「勝手に人を殺すな」
ひょっこり顔を出したアルカスが「いや外も人が多くてすごかったから」とつぶやく。
俺の新しい拠点となるさくらオーバルフォートに拠点を移したアルカスはいわばご近所さんであり、引っ越しの合間にちょくちょく顔を出してきていた。
「結構メディアも来たからね」
「注目度が桁違いだわ、昼ごはん食った?」
「食ってないけど何?」
「いやこのそば貰っていい?」
「俺の分も作ってくれるなら、冷蔵庫の食材好きに使ってくれていいよ」
「数日分のご飯代浮いたな」
そう言いながら乾麺のそばを持って台所で早速料理を始めてくる。
太田から持ってきた荷物は一通り出したがとりあえず誰から何を貰ったかを把握し、遠方から引っ越し祝いをよこしてきた人たちには礼状の準備も要る。
花束も意外に多いので花瓶が足りるか不安になってきたが、最悪ペットボトルに刺して置けばいい。
それに明日様子を見にくると連絡してきた身内の相手や、9月以降に本格稼働する施設の担当者への挨拶は必須だろう。
「……引っ越し準備もうやだ」
「引っ越したじゃん」
「まだ開けてない荷物が積んである」
「のんびり開けてけばいいじゃん」
そう言いながらアルカスがサクサクと手を動かしていく。
湯がいたそばに大根おろしと麺つゆ、刻みネギや茗荷などの薬味類、細かくしたサラダチキンがさっと乗せられる。
「へいお待ち」
「ん」
とりあえずもう考えるのはやめよう。
日が暮れてメディアが帰ったら体を動かして、シャワーも浴びて、今夜はしっかり寝よう。
そばを思い切りかき混ぜてずるっと啜れば爽やかな味がする。
「……72点」
「微妙な点数やめて」



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ワイルドナイツとアルカス。熊谷へのお引っ越し編。

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甘いものがある時間

北海道行きが消えた。
具体的にいうと北海道でやる予定だった10人制の大会がコロナで吹き飛んで消えたので一緒に北海道行きも消えた。
で、やってられるか!と取り寄せた北海道の食い物をちびちび食いながら新会社設立の準備に追われていたら東京五輪もろくろく見れずに8月も終わりに差し掛かろうとしていた。
「はー……」
げんなりした気持ちで天井を見上げても仕事は減らない。
ジュビロ……いや、今はブルーレヴズか。あいつもまあよく嬉々として新会社設立業務をこなせたものだ。
「まさか分社化するからって法律と経理の勉強しとかないといけないとはなあ」
親から渡されたテキストの進みは遅く、年内にはこれを一通り頭に叩き込む必要がある。
企業内の部活から独立企業になるとき商法・会社法・経理を一通り覚えておくようにしておく、というのは通過儀礼のようなもので他競技チームも同じようにしてるらしい。
もういいやという気持ちで仕事用のパソコンを閉じ、テキストもタオルをかけて無かったことにする。
「おやつにするか!」
生来は辛党だった俺だが最近は脳みそを頻繁に使うせいか、脳みそが甘いものを求めてくることが増えた。
特にチーズケーキ、うちのスタッフに無類のチーズケーキ好きがいるのもあって最近はほぼ毎日食っている気がする。
北海道から取り寄せたホールのレアチーズケーキに、サンゴリアスから最近勧められたカフェベースを牛乳で割ってカフェラテに。
レアチーズケーキは1ホールを6切れに切ってうち2切れを皿に、ミックスベリーのソースをかけて完成である。
人目を気にすることなく1切れを手掴みでガブリとかじればチーズの酸味とベリーの酸味の奥から甘さが舞い降りてくる。
「……すっかり俺も甘党になったな」
甘いものが苦手という訳じゃないけれど進んで食べる方では無かったのを思えば随分甘いものを食うようになったな、と思う。
これがいいのか悪いのかは、箱の開けてのお楽しみということにしておこう。

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リュウゼツランは空に咲く

気が狂ったように熱い月曜日の朝、社内チャットで水島が突然短い文を送りつけてきた。
「うちに植えてあるリュウゼツランが咲いた!」
一緒に届いた写真には成人男性の背丈を余裕で越すほどの緑色の木に、黄色い糸をまとめたような花が咲いている。
確かに咲いているのはわかるが何がどう珍しいのかがいまいちわからずにいた俺に対して、一番に返答したのは京浜さんだった。
「リュウゼツランって数十年に一度しか咲かないお花でしたよね?」
「そうそう!それこそ60年ぐらいずっと植えっぱなしだったのに今朝見たら急に咲いてて!」
水島はなおも短い文章の連投で興奮をぶちまけてくる。
本人の話を要約するとこうだ。
3ヶ月ぐらい前からは花が咲く兆候が見え始め、いつ咲くかとワクワクしていたらついに今日咲いたので福山ちゃんに報告しようとしたものの、運悪く夜勤明けで熟睡中だから叩き起こすことが憚られて俺たちによこしてきたという。
「西宮、この事葺合にも報告しといてよ」
チャットがあまり得意じゃない(水島のタイピングが早過ぎてついていけないらしい)西宮は『わかった』と短い返事に留めていたけれど、俺の脳裏には疑問がよぎる。
「葺合がなんでお前んちのリュウゼツランと絡んでくるんだよ」
「このリュウゼツランは、昔ここにどうしても花が咲く木を植えたい!って西山さんに言ったらすごい喧嘩になったことがあるんだよ」
水島の言い分で思わずその景色が目に浮かぶ。
ミスター頑固親父な西山の親父さんと一度言ったことはまず曲げない水島の喧嘩、想像するだにキツそうだ。俺のいないところでよかった。
「それで葺合が西山さんを説得して木を植えさせてもらったんだけど、記念に一本買ってくれて植えたやつんだよ」
「え、あの葺合が親父さんじゃなくて水島の肩を?」
俺の見た限りだと、葺合にとって西山の親父さんは唯一無二だった。
あの人が言うのならば間違ってないと見做し、その祈りは現実になると誰よりも強く信じ、どの職員たちよりも西山さんに深く惚れ込んでいたのは葺合だった。
俺が近所の製粉屋とのトラブルで毎日うどんを食わされてもう嫌だと泣き喚いても『親父さんも毎日うどんだろう』と俺に一ミリの分もなしという態度で言い返した葺合である。
理にかなって無さそうな水島のワガママを受け入れて親父さんを説得する、と言うのがいまいちピンとこないのだ。
「そー、あの時は珍しくこっちの肩持ってくれたんだよね。
水島は造成地でぺんぺん草もないし、100年続く製鉄所にするのなら花のひとつ植えてやってもバチは当たらないって」
確かにそれは正しい気がする。
製鉄所というとどこも機械だらけで殺風景に思われがちだが、実際は芝生や生垣などのちょっとした緑を配置しておくことが多い。
製鉄所は機械が主力となった今でも人間が動かしてるのだ、多少の安らぎは必要というわけだ。
水島はその後も長々とリュウゼツランとの思い出を語るので思い立って聞いてみた。

「このリュウゼツランの写真、会社のTwitterに使っていい?」

水島個人の長い思い出話はカットするにしても、誕生から見つめてきたこの木のことを記録に残す意味はきっとある。



千葉と水島

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