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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

晩秋の横浜とコーヒーの匂い

びゅうっと吹き付けた風はもう冬の気配がするほどに冷たいもので、もう11月も半ばだということを思い出させた。
腕時計の時刻を確認してまだ本社へ出るのに少し余裕があることを確認する。
「……暇ですねえ」
大型書店の紙袋をぶら下げて道を歩いていると馴染みの顔が目の前を歩いていることに気付いた。
「ダイナボアーズさん」
「イーグルスか」
「スーツという事はお仕事ですか」
「ああ、これから帰るところだが……そっちも仕事じゃないのか」
「夜から本社なんですよ、それで久しぶりに横浜の大きい書店でも見てから行こうと思って」
「暇なのか」
「要約すればそうですね、せっかくですしお茶でもしません?」
「いいぞ、店は俺の方で決めても?」
「もちろん」

***

ダイナボアーズさんが選んだのはランドマークタワーの中にあるおしゃれな雰囲気の喫茶店で、温かいブラックコーヒーといくつかのマフィンを注文すると僕らはソファ席に腰かけた。
「マフィンの専門店なんてあるんですねえ」
「ランドマークタワー内は店が多いからこういう専門店も多いぞ」
「そうなんですね、にしてもこのソファすごいふかふかで良いですね」
「ああ、他にも喫茶店はいくつかあるが相模原や町田にない店のほうがいいかと思ったんだが気に入ってくれて良かった」
コーヒーと一緒に湯気の立った焼き立てのマフィンが運ばれてきて、さっそくブルーベリーのマフィンに手が伸びる。
いただきます、と目の前に相手に告げるとふわふわの記事にベリーの甘酸っぱい風味が口に広がる。
「美味しいですねえ」
「そりゃよかった」
「にしても横浜はもうクリスマスムードですね」
「そうだな」
「ゆっくりワールドカップの余韻に浸る余裕もなくて……あ、そうだそうだ、ワールドカップ絡みの書籍で新しく出た奴今日まとめ買いしたんですよ読みます?」
「いや、大丈夫だ」
「そうですか、じゃあ僕ここで読んじゃいますからね」
書店の袋からまだ今日買った書籍や雑誌を引っぱり出し、コーヒーを飲みながらページを開く。
ワールドカップ後、注目度の挙がった日本代表は色んな所で取りざたされるようになって買い集める側としては嬉しい悲鳴が止まらない状態だ。
サンゴリアスくんみたいに最初から自分のところの関係者だけと決めていても移籍や社業での活躍なんかで意外に買うものが増えてしまうから、最初から買わないとでも決めない限り際限なく増えてしまうのは嬉しいような悩ましいような……実に難しいところだ。
雑誌を一冊読み終えたあたりでマフィンの残りに口をつけようとすると、悩まし気な顔が目に入った。
「お悩みですか?」
「……ラグビーのプロ化について考えてた」
「ああ、再来年ですもんね」
新会長の掲げた東京五輪後にラグビープロ化の方針は少なからず僕たちに影響を与えた。
きたるプロリーグ化へ向けての水面下の動きは活発だ。
「俺たちはずっとアマチュアでいられないんだな」
「まあ世界的な潮流みたいなものですしね。国内だとバスケもプロ化しましたし、女子サッカーもプロになるみたいですし」
「それを踏まえての仕事をしてると、変わっていくと痛感する」
妙に寂し気に懐古するような面持ちでそう呟いた。
もしかすると今日ダイナボアーズさんが横浜にいたのもそれ絡みだったのだろうか。
三菱系のチームは競技を問わずアマチュアにこだわる向きがあるのは界隈では有名な話で、彼自身にもそう言う傾向が時折見受けられた。

「でも、ラグビーは不滅ですよ。
僕らがラグビーを好きで、ラグビーを好きな人がいる。それはプロでもアマでも変わりないじゃないですか」

「……イーグルスは前向きで羨ましいな」
「新時代も、元気に生き延びましょうよ。ね?」
僕がニッと笑えば、ダイナボアーズさんも微かに笑う。
本格的な冬の訪れは―ラグビーの季節は―もうすぐだ。


イーグルスとダイナボアーズの一幕

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幕が閉じる

ふとした空腹感で目が覚めた午前5時、のっそりとした足取りで台所に降りてパンと牛乳で小腹を満たす。
壁掛けの時計の日付はもう変わっている。
寝落ちして充電が切れたスマホにコードを差し込んでグループLINEを見れば、一晩中決勝戦の話をしていたのを思い出した。
サンゴリアスさんとブレイブルーパス先輩のワールドカップ報告会の実況。
南アフリカとイングランドの、まさにしのぎを削る名勝負への興奮冷めやらぬ叫びやつぶやき。
閉幕式を見守る寂しさと次の大会への希望に満ちた言葉たち。
それらも4時過ぎには皆途切れていて寝落ちしたのだと分かる。

ああ、ラグビーワールドカップというラグビーの祝祭はもう終わったのだ。

パンの食べかすを払って窓の外を見る。
薄ら明るくなり始めた空は明日の日本ラグビーの希望を照らし出すものになるのだろうか。
(まあ、そうするもせえへんも俺らの在り方次第やろか?)
ワールドカップの幕が閉じてもトップリーグの幕が上がる。
その舞台を賑やかにしていけばいくほど、ラグビーはきっと明るく熱く燃える舞台になれるのだ。



レッドハリケーンズの独白

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ビクトリーロードを歌えなかった夜に

スタジアムに響くのは勝利ではなく、努力をたたえる歌が響く。
明るくもないが寂しくはないほろ苦い響くが味の素スタジアムを包み込んだ。
「……正直、イケるかなって思ったんですよね」
カメラを片手にしたイーグルスが隣で呟いた。
今日はサンゴリアス・ブレイブルーパス・イーグルスと自分の四人で観戦に来ていたが、イーグルスはずっとカメラを手に選手たちをカメラで追いかけ続けていた。
「しかし、これが今大会最後の日本代表戦じゃないかとも思ってた。そうだろう?」
「はい。でもまあ現実はそう思うほどうまく行かなくて寂しいもんですよね」
スポーツチームであると同時に日本代表戦を切り抜くカメラマンでもあったイーグルスがそう寂しく笑う気持ちは分かる。
しかし、寂しく笑わずとも自分たちも同じ想いなのだ。

「帰ろう、外にサンゴリアスとブレイブルーパスが待ってる」

ビクトリーロードではない歌が響くスタジアムに長居するのはつらい。
同じ酔いならば敗北の悲しみよりも勝利の喜びの方がいい。
「……そうですね」
イーグルスはカメラを仕舞うとゆっくり帰り路を歩きだした。



ブラックラムズとイーグルス。ベスト4入りの壁は厚かったね……。

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毛布の中に逃げ込んで

君津さんがもう何日も部屋から出てこないんです、と連絡を受けて大きなカバンにありったけの食糧やらあいつの好きそうな本やら詰め込んで車を飛ばして着いたときにはもう夜だった。
「きみつー」
鍵がかかって開かない部屋にやれやれとため息を吐く。
君津の部屋の合鍵は自立した時に返してしまったし、鹿島や千葉が持っていると聞いた覚えはない。まさかあの二人のうちのどっちかが持ってたらさすがに妹分としては泣く。
君津の性格なら玄関の近くのどこかに合鍵を隠しててもいいはずだ。じゃあ、隠すなら?王道の場所だと鹿島や千葉に悪用されるから避けるだろう、しかし忘れにくくていざという時取り出しやすい場所でないといざという時困るはずだ。……電気メーター?
メーターを開けてみると何も入っていない。
じゃあ水道だろうか、と水道メーターのふたを開けると内側の穴に部屋の合鍵が針金で括ってあった。ご丁寧に君津の部屋の部屋番号が手書きされたキーホルダーもついてる。
合鍵で部屋の鍵を開けると真っ暗で「入るぞ」と声をかける。
いつも小奇麗にしてる君津にしては埃とゴミのたまった部屋の隅で君津がすやすや眠っていた。
眼の下にはクマと泣いて腫れた目、市販の痛み止めと睡眠薬を酒で流し込んだ(※良い子はマネしてはいけません)形跡もある。
「君津、生き……いや、死なないか」
私達は工場とともに生まれ、工場と共に死ぬ。君津製鉄所がこの地上から消え去る日まで、私達は死ぬことが許されない。自ら死ぬことを許されずに生きることは、実は恐ろしいほど消耗することを私は知っている。
「お前、相当疲れてるだろ?」
今年は自然災害が多く、特に千葉は被害が大きかった。
その癖それを口に出さず甘えもせずに黙々と仕事をした反動がこれなのだ。
この部屋でいちばん肌触りのいい毛布を選んで君津の身体をくるんでやり、頭の下にもビーズクッションを置いてやる。
今だけは毛布に逃げたっていいさ。誰になにを言われようと私が守ってやるから、今はゆっくり寝ればいい。
(……今度鹿島から手の抜き方ってもんを教えてもらうべきだよな)
やれやれと呟いてから職員に無事を確認したことと数日休ませてやって欲しい事をメールすると、即座に所長に伝える旨が帰ってきた。


「おやすみ、君津」

お前を傷つけるもののない眠りの世界で、今だけは全てを忘れておくれ。


東京ちゃんと君津。千葉方面は災難続きですね……

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勝利の道の果てを

ビクトリーロードをほろ酔い気分で歌い始めたサンゴリアスに思わずため息が漏れる。
前半を見終えた時点で自前で持って来たビールを切らしたからとウィスキーを飲み始めたのにもう二つ目の瓶を空にしようとしている。
「ロシア戦といい今回といいがぶ飲みしすぎ」
ハイネケンのカップでタワーを積んだロシア戦の時もひどかったが、今回もよくまあ飲むものだ。
「松島が4トライ目ねじ取った日ぐらい心地よく呑ませてくださいよ」
「お前その勢いでうちの買い置きを空にする気だからだめ」
テレビを4K対応に変えたからうちでゆっくり見ないかと誘ったのは俺だけど、だからと言って人んちの買い置きの酒を空にしていいとは言ってない。
「まだウィスキー残ってるじゃないですか」
「それ高い奴だから駄目、焼酎ね」
「うちの会社は焼酎出してないんですけどー?」
「いいでしょ。焼酎のペプシ割で我慢してよ」
そう言って残っていた安い焼酎をペプシで適当に割って薄切りのレモンをひと切れ突っ込んで出してやれば、納得いかなさそうに唇をとんがらせてきた。
「それに、このサモア戦勝ったからって予選プール脱出成功したわけじゃないんだから」
「まだスコットランドが残ってますもんね」
「そうだよ……そうだ、スコットランド戦でお前自慢の松島が4トライもぎ取ったら焼肉食いに行こう、食い放題」
「乗った!横浜だし見に行にいけるじゃん!今ならまだチケット行けるかもしんないしもぎ取ったら二人で試合見に行って、松島4トライもぎ取ったら焼肉ね!」
サンゴリアスが嬉々としてチケットを探し始めるのを見守りながら酒辛いペプシを飲み込む。
勝利の道を走り続けてきた日本代表はその果てを見にいけるだろうか。俺が愛し、見送った仲間たちが見せてくれた勝利の果てを見に行きたいと願う。
このビクトリーロードの果てで、笑うのは俺たちだ。




ブレイブルーパスとサンゴリアス。
勝利の道を往けば笑える日が来るんですよ、そう思いながら声援を送るばかりです。

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