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コーギーとお昼寝

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君に還る日のために1

1965年、冬。
「ねえ、私はいつになったらあなたの腕の元に帰れるんですかね」
食後酒の甘いにごり酒を飲みながら私がそう呟くと「子どもみたいなことを言うなあ」と呆れ気味に笑った。
日本製鐵という日本の製鉄業を代表する巨大企業が財閥解体の嵐に呑まれて八幡製鉄と富士製鉄に分割されて20年という月日が過ぎた。
今でこそ私にも可愛い弟子や兄弟分も出来たが、やはり私が夢見るのはいつだって釜石たちと過ごしたあの日本製鐵時代であった。
「私はあなたの前では子どもも同然ですよ」
「はいはい」
「これはあくまで私個人の感情であって国家や上の見解じゃないですけど、過度経済力集中排除法もなくなりましたし独占禁止法さえ無ければ、いつだって私はあの頃のように一緒になる気でいるんですよ」
「……案外、もうすぐかもしれんぞ?」
「はい?」
釜石はふっと笑って切り出した。
「この間、永山の親父がお前のとこの稲山さんと一緒に通産大臣のところに合併の話をしてきた」
富士製鉄社長である永山さんが八幡製鉄社長である稲山さんと共にその打診をした、という事は彼らは本気なのだということはすぐに分かった。
本当かと尋ねれば本人から直接聞いたと釜石は言う。
「まだ内密の話だしな、室蘭や広畑にすら言ってないらしい」
「……ようやく帰れるんですね」
(この人の腕の中に還るためならどんな犠牲も払おう)
釜石は、富士製鉄は、私達にとって生き別れた肉親なのだ。
私達の5年にわたる闘争が始まる。



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今年も青の国

「今年は結構早めに咲いたんだなあ」
俺がポツリとそう呟くと、ひたちなかは「天気のせいですから」と答えた。
この季節のひたちなかを代表するネモフィラブルーに包まれた丘を遠くに眺めながらするのはこれからの観光客の出足の予想だ。
「天気はしょうがないんとはいえ……ゴールデンウィークまで持つんだぜ?」
「見ごろが終わって散りだす感じですかね」
「ってことはうちに寄り道する観光客の出足にも響きそうな気がするんだぜ……」
はあと深い溜息を吐きながらも、もう一度青に染まるネモフィラの丘を見つめる。
空に溶け込みそうなブルーがどこまでも広がる丘に「ほんと綺麗なんだぜ」と呟いた。
この公園が無ければ生まれなかっただろうひたちなかとこの公園が無ければ生まれなかった景色を見つめている、それは悪い未来ではなかったと思いたい。
「そうだ、ネモフィラアイス食おう」




ひたちなかと大洗のゆるゆる小話

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君津老師と焼き小籠包

「您好、君津老師」
すらりとした体つきの育ちの良いオリエンタルな面立ちをした中山服の青年の来訪に思わず目を丸くした。
「……宝山?なんでいきなり」
「仕事で少し東京に来る用事があったんですよ、お邪魔して構いませんか」
宝山製鉄所はその設立から現在に至るまで君津製鉄所が深く関わった施設であり、俺にとってはまだ弟子とも呼べる存在である(ウジミナスも弟子ということにはなってるけど一応向こうの方が年上なので色々複雑なのだ)
「俺は良いけどあんまり綺麗じゃないぞ?」
昨晩遊びに来ていた千葉と鹿島に荒らされた部屋は2人をこき使ってあらかた片づけはしたものの、まだ完全に綺麗になった訳じゃない。
「大丈夫です、突然来たのは僕の方ですから」
「なら良いけど……その手にある袋は?」
その手に一緒にぶら下がっていた冷蔵用の袋を指さすと「生煎饅頭(焼き小籠包)です」と返ってくる。
「生煎饅頭か、上海にいた頃何度か食ったなあ」
「最近は日本でも手に入ると聞きましたが生煎饅頭は上海のが一番ですよ、東京のは所詮ニセものです」
「日本で食える奴もあれはあれで美味いんだけどな」
「台所お借りしても?せっかくなので焼きたてをご用意しようと思って準備して持って来たんです」
「自由に使ってくれていいぞ」
宝山がさっそくフライパンを借りて小籠包を焼き始める。
出会った時はまだぶかぶかの宝山服を纏った小さな子どもの姿をしていたが、いまや中国屈指の鉄鋼企業として日本の製鉄業に立ちはだかる壁になってしまったことを喜びたいような嘆きたいような複雑な心持ちになる。
しかしこうして俺の前にいるときは昔とさして変わらないままで、ニコニコと小籠包を焼き龍井茶を淹れてくるので可愛いものだと思ってしまう。
「前にプレゼントした中国茶道具使ってくれてるんですねえ」
「たまーにだけどな」
「ちゃんと大切に使われてる色をしてるから分かりますよ」
上海で宝山の面倒を見ていた時に覚えた中国茶は時折千葉や鹿島に乞われて淹れる程度だが、手入れとして個人的に淹れることもあった(道具は使うことが最善の手入れだと言うのは釜石の弁だ)のが道具そのものに出ていたのか。
「あ、生煎饅頭もそろそろかな」
そう言ってさっそく皿に盛って茶と共に目の前に並べられる。
「……なんというか、完全に俺が客人扱いだな」
「敬愛する君津老師とお茶をしたかったので」
「そうか」
なら仕事の方で俺たちに優しくしてくれと言いたくもなったがたぶん無理だろう。
「让我们吃吧(いただきます)」
「请吃很多(どうぞたくさん食べてください)」
焼き小籠包をレンゲに乗せて割ると美味しそうな匂いと共に透明なスープがじわりと広がってきて、あの頃のしんどい思い出がよみがえる。
「あの時はお前の上司に振り回されてひどい目に遭ったな」
「そういう時代でしたからね。さあ、冷める前に食べましょう」




君津と宝山。

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海の向こう、あの河の果て

半ば無理やり眠らされていた状態を叩き起こしたのは釜石だった。
「久しぶりに起きたなあ」
「俺、眼の色変わってない?」
「変わってないさ。広畑製鉄所は富士製鉄……お前さんには北日本製鐵と言ったほうが良いか、とにかくうちで引き取ることになった。
それに伴ってちょうどさっきお前さんの高炉に火を入れ直したばっかりなんだ」
5年に及ぶ眠りから目覚めてみれば総理大臣は変わり、経済界は好景気に沸き、年齢の唱え方まで変わっている始末だ。
しかし不穏な感情を一番強く煽ったのはある新聞記事だった。
「……仁川に米軍が上陸?」
首を傾げていると様子を見ている八幡が「ああ、知らないんでしたっけ」と呟いた。
「朝鮮半島が南北で別の国になったときはもう寝てましたっけ?」
「知らない」
呆然と呟くと今海の向こうで起きている戦争について滔々と説明してくれた。
その説明の半分もうまく理解できなかったけれど、よぎったのはひとりの仲間の姿だった。
「……清津は?」
同じ拡充計画の下で生まれ、一日違いで発足した兄弟も同然の彼の名がその口をついた。
海を隔てているからちゃんと顔を合わせたのは一度か二度だけれど、俺たちは兄弟も同然だった。
「清津はもううちの人間じゃないですよ」
「別れたとしても俺にとっては兄弟だよ」
八幡は少し考えこんでから、慎重に言葉を継いだ。
「正直ちゃんとした事は分かりません、北も南も軽率に壊しはしないでしょうけどいかんせん戦地のことですからね」
「いつ会える?」
「早くても戦争が終わるまで、最悪の場合はあなたという存在がここから消えるまで」
「北の政権下に入れば手紙すら貰えなくなる?」
「可能性は高いでしょうね」
その言葉に呆然とした。
人間よりも長く生きられるこの身であっても二度と会えないということは、絶望的な心境に落とさせた。
「清津のことを気にしてもしょうがないでしょう、広畑」
「気にするよ」
「……そういう事を気にすると気を病みますよ」
八幡はそんな冷めたことを言う。
俺には無理なことだ、と思いながらももう二度と逢えないかもしれない彼を思って静かに泣いた。




テレビで朝鮮戦争の話をやっていたのでつい考えてしまった広畑のお話。

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芝の海、太陽の島

日本とは季節が正反対の町の片隅で、思い出したようにシャッターを切る。
戯れに撮った写真を見返しながら時間を潰してはふらりと街角に出る。
「あれ、今年はウェリントンなんだ」
「……ワイルドナイツか」
ふいに声をかけてきたのは日本では見慣れた黒髪に青い一筋の毛が混ざった男・パナソニックワイルドナイツその人であった。
「今年は珍しくついてきたのだな」
この時期各チームは選手をオーストラリアやニュージーランドのチームへ短期留学させることが多いので、自分のようなスポーツチームの化生はシーズンオフで暇を持て余してこっそりついていくことがあった。
自分などは異郷に行くのは割と好んでいたので毎年のようについていったが、ワイルドナイツはあまりついていくイメージが無かった。
「たまにはよそで刺激を受けてこないとって思ったので」
「それもそうか」
「いつまで滞在予定で?」
「ワイカイトに2か月の予定だが」
「……ワイカイトってオークランドの手前じゃ」
ワイルドナイツの言うとおりである。
ウェリントンから電車で半日ほどかかる距離にある地名に困ったような表情を見せた。
「発車時刻にいささかの猶予があって、その暇潰しで散歩をしていた」
「ああ……」
「前から思っていたが、汝は我よりも後の生まれのはずだがもう少し敬ってくれてもいいのだぞ?」
「俺の先輩は一人だけなもので」
「そうか」




ワイルドナイツとブラックラムズの異郷でのひと場面。
この時期は色んなチームがNZに向かってますね。

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