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コーギーとお昼寝

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君に還る日のためにアナザー 1

君に還る日のためにを先に読まないと分かりにくいのでたたみます



1965年、冬。
「ねえ、私はいつになったらあなたの腕の元に帰れるんですかね」
財閥解体の嵐に呑まれて富士製鉄と八幡製鉄に分かれてもう20年が過ぎたというのに八幡はそんなことを呟いた。
「子どもみたいなことを言うなあ」
「私はあなたの前では子どもも同然ですよ」
「はいはい」
鉄は国家なりの時代からこの国の鉄をけん引してきた八幡が、唯一自分にだけ甘えを見せてくるのは悪い気がしないのも事実だ。
この男をほかに甘やかす奴もいないし、どうせ仕事でもないのだからこういう時ぐらいは甘やかしてやろうじゃないか。
「これはあくまで私個人の感情であって国家や上の見解じゃないですけど、過度経済力集中排除法もなくなりましたしあとは独占禁止法さえ無ければいつだって私はあの頃のように一緒になる気でいるんですよ」
「……案外、もうすぐかもしれんぞ?」
「はい?」
「この間、永山の親父がお前のとこの稲山さんと一緒に通産大臣のところに合併の話をしてきた」
「本当ですか?!」
「ああ。本人から直接聞いた。向こうは承諾したそうだぞ」
「それ聞いてないんですけど」
八幡が愕然としたような声でこちらを見てくる。
「まだ内密の話だしな、室蘭や広畑にすら言ってないらしい」
「……ようやく帰れるんですね」
「まだ先は長いぞ?」
もう既に泣きそうな顔の八幡を軽く慰めるように頬を撫でてやる。
嵐のような5年間が始まった瞬間だった。

***

1966年、東京都内某所。
「女三人で喫煙所か」
「おや、釜石か」
此花・西宮・神戸という何とも姦しそうな組み合わせが大型の灰皿の前でたむろしていた。
女は喫煙しないというイメージが強いが、神戸と此花は愛煙家であるし西宮も嗜み程度には煙草を吸うらしくその手には吸いさしの煙草があった。
「……ねえ、例の『東西製鉄二社合同論』あれ本気で言ってるの?」
「それは永山の親父に聞いとくれ」
誤魔化すように笑うと「意地が悪いわね」と神戸はつぶやいた。
「本気だろ」
「此花はそう思うのね」
「うちも財閥解体で酷い目に遭ったから分かるんだよ」
煙草をぐりぐりと押し付けるように灰皿で消すと、此花はさらに言葉を継いだ。
「あんなのは、身体の一部を無理やりもぎ取って肉まで削って食われるのと同じだよ。そう言う意味では同情するね」
「……名門財閥ってそう言うものなのかしら」
神戸はよく分からないというように首を傾げて此花の方を見ていた。
そう言えば神戸製鋼所も財閥解体指定を受けて弟妹と別れていることを思い出す。
「神戸だって財閥解体で別れた兄弟分はいるだろう?」
「日本エヤーブレーキ(現ナブテスコ)や神鋼電機(現シンフォニアテクノロジー)のこと?」
「そう、他にもなんかいっぱいいたろ」
「えらい認識雑じゃな」
「独り立ちはいつかさせてやらなくちゃしょうがないじゃない、大垣の工場(現神鋼造機)を分離された時はさすがに少し寂しくはあったけどそれもいつかはあるだろうことだったし。
ただ、そのタイミングがたまたま財閥解体だった。私はそれぐらいの気持ちよ。」
ふうっとマルボロの煙を吐いた神戸のさっぱりと割り切られた言葉に此花がため息を吐く。
同じ財閥家を背景に持つとしても、世界最古の名門である住友と一代で消え去った鈴木ではやはり根底にある価値観は違うのだろう。
「さっぱりしてんねえ、西宮はどう思う?」
「うちは家出みたいなものだから……」
「確かにあれはほとんど家出じゃなあ」
「まあその家出を祝いに行った私も異常なのかね」
「此花がお祝いに来てくれたことは嬉しかったから気にしないで?」
「別に気にしてないけどさ」
どうということない雑談に抗する関西の女性陣の様子を見ながら、そっと席を立つ。
(……合併自体は、まあ何とかなるかもしれんなあ)

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