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コーギーとお昼寝

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夏の記憶に溺れる

1966年8月10日は蒸し風呂みたいに暑い日だった。
あの日から半月過ぎた今も、葺合はどこか魂が抜けたような顔をしている。
「葺合、お昼ごはん食べましょう」
「ああ……」
未だ残暑厳しいなかでもサラリと食べられるように拵えた冷麺(関東じゃ冷やし中華と呼ぶそうだけれど)を葺合の前に置くけれど、あまり食欲がなさそうに見えた。
未だあの人の死が葺合にはのしかかったままなのだという事は分かっている。
「ずっとそんな顔してるとむこうで親父さんが心配するわ」
「……分かってはいるんだがな」
台所から匙を一つ取り出しすと葺合の冷麺から少量の麺とつゆと具をのせ、その口元に運ぶ。
「一口ぐらい食べて」
ゆっくりと葺合が口を開くのでその口に匙ごと冷麺を放り込む。
いくばくかの咀嚼をしてゆっくりと飲み込んだのを確認すると私は少しだけほっとした。
「美味しいな」
「うん、この麺南京町まで行って買って来たの」
「そうだったのか」
「ええ」
「……親父と、南京町まで食べに行ったな」
「あれは水島が初めてここに来たときだっけ?」
「そうだな、あの時は千葉と知多もいた」
ぽつりと思い出話を口にしながら、私が冷麺をちょろちょろと口に運んでいれば葺合もつられるように冷麺に箸を伸ばした。
私達は人よりも長く生きるから周りにいる沢山の人の生き死にを見つめている。
その中にはあまりにも特別でこうして深く沈みこんでしまうほど慕わしい人と出会ってしまう事がある。
夏の記憶に溺れる葺合を助けることは出来なくても、せめてその手を掴んでこれ以上沈ませないぐらいはさせて欲しい。



(だって、死んだ人に葺合をあげる訳には行かないから)


西宮と葺合と西山親父。

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サレンダーなんて出来やしない

*2005年ごろのいつかのお話

「シームレスパイプに特化する?」
「ええ、」
ブラックコーヒーに砂糖を溶かしながら和歌山がそう告げる。
「随分と賭けに出ましたねえ」
シームレスパイプ(継ぎ目なし鋼管)は主要用途である油田開発の停滞から売り上げが伸び悩んでいると聞いていたが、そのシームレスパイプの方にシフトするのは大きな賭けのように思た。
「中東も少しは落ち着きましたし、またそのうち油田開発も再開するでしょうから」
「……で、私を呼んだ理由は?」
「シームレスパイプへの特化で鋼板ラインを止めることになったんです……新日鉄は今鉄源が足りてないんですよね?」
顔は笑っていたがその目は妙に冷たく冴えたものだった。
瞳孔の淡い茶色はじっと私を見定めているように思え、腐っても此花の血筋だと思い知らされる。
「半製品の購入って訳ですか」
「そういう事です」
あなたなら買ってくれるはずだというその眼差しが嫌になる。
「……そこまでしてシームレスへの賭けが失敗したら死にますよ、あなたたち」
「その時はその時です、最悪鹿島や直江津を連れて新日鉄傘下に入るのも止む無しでしょうね」
自虐めいた口ぶりで和歌山がそんな言葉を漏らす。
コーヒーを勢いよく飲み干すと叩きつけるようにコップを机に置いた。

「僕は住友金属の代表権を持つ身ですから、これ以上赤字を垂れ流す役立たずと呼ばれる訳にはいかないんですよ」

その言葉には曇りのない本気故の強さが滲んでいた。
小さくため息が漏れたのはきっとその本気の風圧に負けたのだ。
「……話は通しておきますよ」
彼はもう賭けのテーブルについている。
損をしてでも止めるなんて、出来るわけがないのだ。

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あれは確かに愛だった

人間だけが他者を愛をするとだれが決めたと言うのだろう。
月明かりだけが差し込む暗い部屋の天井が目に入り、久しぶりに親父の夢を見たなと小さくため息を漏らした。
「ふきあい?」
「起こしたか、寝てていいぞ」
西宮はうんと小さく返事をして再びその目を閉じたので、ポンポンと軽く撫でながら寝付かせればすうすうと寝息を立てだしたので西宮を起こさないように布団を抜け出した。
なんとなく二度寝する気にもなれず、冷蔵庫に入れてあった作り置きのお茶を飲んでいた。

(……そう言えば、西山の親父と一緒に酒を飲んだこともあったっけ)

小さな西宮を寝付かせた後で、灯りを絞った薄暗い部屋で安酒を飲みながら己の夢だという製鉄コンツェルンの夢を夜更けまで熱く聞かされたものだった。
その夢も結構いいところまで肉薄したんじゃないだろうかと思っている。
「親父、」
あんた追っかけた夢は俺が全部覚えてる。そして、その夢も結構いいとこまで行ってるだろう。
もしそっちへ行った時は、俺と俺の大切な仲間の話を聞いてくれやしないか。




葺合と西山の親父。

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